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「Mouthwashing」は本当の本当に最高のホラーゲーム




巷で評判の良い『Mouthwashing』をクリアした。
以前から気になっていてSteamのウィッシュリストに入れていたが、発売直後にインフルエンザにかかりプレイを先送りにしていた作品だ。
インフルエンザといっても高熱が出たのは4日くらいで、「熱は下がったが隔離期間」いう時期があったのだが、どうにも調子が戻らず「Mouthwashing」プレイしたら余計具合悪くなりそうという懸念があったため手が出せないでいた。
その間、同じく発売を楽しみにしていた「サイレントヒル2」のリメイクが出てしまい、どちらを先にやるか迷ったものの、世の配信者達が続々とプレイするのを見かける為、うっかりネタバレを踏む前に『Mouthwashing』を優先してプレイした。
結果、優先して心から良かったと思える作品だった。

前提としてお伝えすると筆者はホラー映画&ホラーゲーム好き、オカルト大好き、胸糞作品だ〜いすき、という多分特殊な人間だ。
周りに同じような人種が多かった為、生まれてから30年くらいは至って普通の趣味だと思っていたが、歳を重ねて様々な人と話すことで「あまり大っぴらに宣言する趣味ではないのでは」と感じることがあるので、特殊と思うことにしている。

『Mouthwashing』に強く惹かれたのはホラージャンルで最も好きな「宇宙空間でのSF密室ホラー」であることだ。
有名な映画では「エイリアン」がこれに該当するとは思うが、個人的には「エイリアン」のような怪物は出ないタイプの、いわゆる「人怖」の方がより好みである。
SF密室ホラーで「人が怖い」と思うのは、人間は閉鎖空間で、極限状態になるとどうやって狂っていくのか、という部分だ。

「カーリー船長がこんな行動をとるなど、誰が想像できただろう?乗務員たちを当然のごとく道連れにしようとした結果、この男は自殺すらまともにできなかったのだ。四肢を失い、口も利けなくなるほどの重傷を負ったカーリー船長の運命は今、ゆっくりと迫る死を待つしかないクルーたちの手に委ねられることになる。」
                             steamの紹介文より

この説明を読んだ時、まさに人怖系ホラーだと確信できたのでワクワクが止まらなかった。
プレイする前はPVにも出てきた包帯グルグル姿のカーリー船長を生かしたり殺したりして一通りやらかした後EDが分岐する「60 Seconds!」みたいなゲームなんやろなあ、と漠然と思っていたがそんなことはなかった。

『Mouthwashing』の本質はもっと根深いところにあり、人間関係が複雑に絡み合う1本の映画のような作品だ。
エンタメ映画ではない。
知る人ぞ知る名作として長い間語り継がれる、そんな作品だ。

周囲の人に勧めたいので、ゲームの紹介記事や、紹介文に載っている程度のネタバレの範囲で感想を書こうと思う。
序盤のストーリー展開も少し書いているので100%ネタバレしたくない、という方には以下を読むのはお勧めできない。

ゲームが始まると突然、自分の乗っている宇宙船「タルパ」がピンチに陥ってることを知る。
余談だが「タルパ」とは「人工霊」という意味があり、しばしば人の作り出した妄想上の友達「イマジナリーフレンド」の意味を持つ。
クリアした後この意味を考えるとゾッとするので是非覚えておいて欲しい。


さて、その宇宙船タルパが小惑星に衝突するというのだが、ちょっと様子がおかしい。最初に舵取りをして、自ら小惑星に突っ込んでいったように見える。
更に、「タルパ」のコンピューター曰く、「危険な状態だから自動操縦に切り替えろ」ということなのだが、この自動操縦をあえて解除しないと話が先に進まないのだ。

この作品はファーストパーソン型(一人称視点)故に自分の姿がよくわからない。
なので最初に「自分は何者なんだ」と疑問が沸いてくるのだが、トレーラーを読んでる人なら「あ、自分は自殺を目論んでるカーリー船長なんだ」と推測することができる。
自殺的な行為をした後、フラフラとコクピットから出ていくが、この後の表現がまた素晴らしい。
おかしな形に曲がりくねった、宇宙船をぐるぐると迷路のように彷徨い、徐々にこの迷路表現は主人公の深層心理を表しているのだと気づいてゆく。
ファンシーで不気味なキャラクター「ポレ」が振り向くと飛び出してくるジャンプスケア的表現など、ホラーゲームのお約束も満載だ。


この顔ムカつくわ〜

「人怖系ホラー」というとじわじわと不気味さが増すようなイメージがあるが、『Mouthwashing』は人の深層心理表現がそのままホラー的空間になっているのでいわゆる「オーソドックスなホラー」が苦手な人にはお勧めできない。
しかし、現実世界と深層心理が切り替わる瞬間がどれも美しく、感動する。

あるチャプターでは、あまりにも不自然に現実世界に墓が現れたりするのだが、それまでに何回も使っていた「隠された文字を読むコードスキャナー」で墓の文字を読もうとすると、今まで見えていなかった空間が開き、怪物に追いかけられるフェイズに移行する。
この「こっちの世界」と「あっちの世界」を行き来する表現はサイレントヒルシリーズを彷彿とさせ、切り替わり方1つ1つにも細かいこだわりを感じた。

大まかなストーリーの流れは「宇宙船が小惑星に衝突前」と「衝突後」に時間軸を替えて展開する。
「衝突前」はカーリー船長、「衝突後」はカーリー負傷後に船内を仕切っているカーリーの良き友達ジミーが主人公となる。
「衝突前」は過去回想に過ぎないので、この『Mouthwashing』の主人公は誰かと問われれば現在の時間軸を生きるジミーだろう。

ジミーは友人であり、正義感あふれる船長だったカーリーが何故衝突事故を起こしたのか、乗務員たち道連れにしようとしたのはどうしてなのか、を探っていくのだが……
電力や食料がつき、徐々に極限状態になってゆく船員をなんとか取りまとめようとするジミーも時間が経過するにつれておかしくなってゆく様子がなんとも痛々しい。
食料を探すために入った貨物室に積まれているのがアルコール入りマウスウォッシュだと知った時も、自暴自棄にはならなかったにもかかわらず……だ。
それには大きな理由があるのだが……


「タルパ」の船員を少しだけ紹介したい。
アーニャは船内の紅一点であり、医療専門家だ。
極限状態で閉鎖空間、更に紅一点となるともはや最初から嫌な予感しかしなかったが………彼女の行く末はその目で確かめてほしい。
心理的には1番複雑なものを抱えているため、カーリーの次に印象に残ったキャラクターだった。
アーニャの気持ちや行動については様々な考察や憶測が飛び交っていると思う。


スウォンジーは太ったエンジニアのおっさんだ。
若い部下にパワハラを行っている嫌なキャラクターに見えるが、話を進めていくうちにかなりまともなやつだとわかる。
しかし、アルコール入りマウスウォッシュを普段からガブ飲みして常に酔っ払っているので、そのまともさにはなかなか気づきにくい。


ダイスケは癒し担当だ。
タルパにはインターンとして搭乗している。
スウォンジーからパワハラを受けてもめげないどころか、その技術に尊敬の念を寄せるなどおバカ……いや、めちゃくちゃ良い子だ。
カクテルを作ると「このドリンクめちゃイケてますよ!砂浜でエッチな女の子と飲んでる光景が目に浮かびます!」
とコメントしてくれて極限状態の宇宙船で思わず笑顔になってしまった。


カーリーは船員達から頼りにされる、正義感あふれるタルパの船長だ。
しかしリーダー故の悩みもあり、そのせいで周囲の異変には気づいていない。
皆から尊敬される船長が何故無理心中を測ったの?というのがこのゲームの大きなテーマのひとつだ。
惑星衝突後は全身火傷、手足切断という悲惨な状態に陥ったが、ジミーの手により鎮静剤を飲まされ続けてかろうじて生きている。
何もできないまま、ただ狂ってゆく船内を何ヶ月も見ている。


近年ローポリのゲームが爆発的に流行っているが、私が過去怖いと感じたホラーゲームはほとんどPSやPS2初期に出たローポリ作品なので、そういった意味でも「恐ろしいゲームだ」と感じた。
ローポリホラーの良さは
・低画質で詳細が分からない部分は想像で補う
ところと
・操作性がモッサリしていてスムーズに動けない
ところにあると思う。
昔出たゲームはこれらは技術面の限界により引き起こされたものなのだが、現代においては「あえてそうする」ことでプレイヤーの恐怖をうまく引き出している。

『Mouthwashing』は終盤にかけての演出も素晴らしい。
ホラーゲームは、悪趣味な表現を見るたび「よくこんなこと考えつくなあ!?」と感心してしまうのだが、『Mouthwashing』も同様に終盤にかけて「悪趣味すぎる!!よくこんなこと考えつくなあ!?」(褒め言葉)は加速していく。
エンディングの表現も「こうだったら良いのにな」を全てやってくれて脱帽だった。
何を言ってもネタバレになりそうなので、「こんなこと」「あんなこと」ばかり書いていて全く意味がわからなくなってきたのでここまでにしておく。

ホラーゲームは色々やっているが、ここまで良質なホラーゲームをプレイしたのは本当に久しぶりだと感じる。
プレイ時間3時間という短さで、テンポよくストーリーを魅せる手腕は圧巻の一言に尽きる。
開発チームのWrong Organにはこれからも良いゲームをたくさん作って欲しいと思う。


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