なりきりチャットに人生を捧げていた大人の思い出話12
オンラインゲームは、ラインハルトの実の兄もプレイしていた。
このお兄さんはかなりゲームのうまい人で、難関と言われるエンドコンテンツも最速でクリアするいわゆる「ガチ勢」だった。
一般層のプレイヤーが手に入れるのが難しいレアアイテムも沢山所持していたので、普段お目にかかれない装備などもよく見せてくれたりした。
私は当時、「紅魔の剣」というレア武器がとても欲しかった。
これは難しいエンドコンテンツのボスがランダムでドロップする武器で、ボスを倒すのもやっとな私が手に入れるのは夢のような代物だった。
もちろん、ラインハルトの兄はこの「紅魔の剣」も所持しており、初めて見せてもらった時にはとても感動した。
装備している人を見るのも珍しいくらいの武器だ。
周りに持ってる人がいるだけでもラッキーと思うべきだな、と思った。
ラインハルトのお兄さんやラインハルト本人、YちゃんやYちゃんの周りの人、そしてオンラインゲームで仲良くなった人たち……
毎日新しい出会いがあり、刺激に満ち溢れたオンラインゲーム上の生活はとても楽しいものだった。
しかし、少し引っかかることもあった。
ラインハルトがだんだん、私のことをまるで本当に恋人だと言わんばかりの態度を周りにとるようになった。
周りには肯定も否定もしていないし別に構わないのだが、プライベートルームでなりきりチャットをすることを「これから二人きりでデートする」や、「夜中に二人で会う」など言うようになり、周りには
「えっ、こんな時間に二人で会うってことは……?」
等と邪推され、私自身も言葉に詰まってしまった。
「いやいや、会うって言ってもなりきりチャットですよ〜!」
なんて明るく言えればいいのだが、まずはその「なりきりチャット」が何なのかと言う部分から説明しなくてはならないという面倒臭さもあり、なんとなくそのまま流してしまっていた。
何かが大きく変わったのは、ラインハルトがオンラインゲームのとある男性プレイヤーから告白された時からだ。
その男性プレイヤーは元々ラインハルトのお兄さんと仲が良かったようだが、一緒にいる「妹」のラインハルトのことがすっかり気に入ってしまったらしい。
お兄さんの友人だし、リアルで付き合うなら悪い選択ではないのかなと思っていたが、ラインハルト自身はかなりしつこく迫られていて困っているとのことだった。
「諦めさせるために、いっちとは本当に恋人同士だって言っていい?」
と聞かれたのはその時だった。
困っているとのことだったので、それが収まるならば構わないよと私は返した。
ラインハルトが実際にそう言って断りを入れると、私たちの噂は瞬く間に広まった。
「やっぱり本当に恋人同士だったんだ!」
「ラインハルトさん、あのガチ勢の◯◯さんを振ったって本当?」
「どこで出会ったんですか?」
等々、私たちはその日から質問ぜめにされることになる。
その質問をのらりくらりとかわしつつも、ラインハルトが振った男性を傷つけないためにも恋人同士のふりは続けた。
それからというもの、ラインハルトからは毎日、
まるで本当の恋人同士のように
朝から晩までガラケーに大量のメールが来た。
それが他愛もない雑談の時もあれば、ラインハルトになりきったなりきりメールの時もある。
すぐに返信しないと、追加でまた大量にメールが送られてくる。
夜になればオンラインゲームで一緒に遊ぶ。
ゲームが終われば朝方までプライベートチャットに籠る。
本当にそんな日々を毎日繰り返していた。
ラインハルトは社会人らしいが、一体何時寝ているのかわからなかった。
「何かがおかしい」
私はそう思いつつも、せっかく仲良くなれたラインハルトと疎遠になってしまうのは嫌だった。
レイカや、いのりさんの時のような失敗はしたくない。
そんな思いだけが、このどこかおかしな日々を繰り返す原動力となっていた。