なりきりチャットに人生を捧げていた大人の思い出話8
数日して、パスワードが届いた。
緊張しながらも、覗いたサイト内だが……
まずはそのチャットルームの量に圧倒された。
城の中、騎士団詰所、繁華街、裏路地、森の中……などなど、様々な場所の設定がついたチャットルームが20近くはあっただろうか?
中にはラブホテルのような場所もあり
(ここはエロいチャットをするんだろうな)
ということは安易に想像できた。
殆どのチャットルームには人がいて、何かしらの会話をしていた。
日常会話をする人、戦闘をする人、エロいチャットをする人……大賑わいだ。
「テーマパークに来たみたいだぜ、テンション上がるなぁ~」
というのがまず最初の感想だった。
早速自分の作ったキャラクターで誰かと会話がしてみたいが、すでに複数人がチャットで盛り上がってるルームに顔を出すのはなんとなく会話を邪魔をしてしまうようで気が引けた。
チャHをしているルームに入るのはもってのほかだ。
1つだけ、1人で行動描写だけを書いている人がいるルームがあったので
ここなら大丈夫かな?
と思い、意を決して入ることにした。
実はオリジナルキャラクターといっても、動かしやすいよう以前使っていた版権もののキャラクターにかなり性格を似せてある。
行動描写さえ気をつければ、前やった通りにやれば問題はないだろう。
私は傭兵のキャラクターで、相手は騎士のキャラクターだ。
身分が違うので敬語にしようかな?
でも、あまり育ちが良くないキャラなのでいきなりタメ口かなあ、などと考えながら。
初めての会話は、うまくいったと思う。
相手はいわゆる「ツンデレ」といわれるタイプのようだった。
こちらには少し冷たい態度だったが、行動の端々に気遣いが見える。
私はキャラクターとしてもツンデレタイプが好きだったので、相手のことを「いいキャラクターだな」と思った。
問題は……相手の性的趣向だ。
説明し忘れていたが、当時のBL推奨のなりきりサイトはキャラクターの性的趣向を予め設定するのが主流だった。
「攻」
か
「受」
か両方OKな
「リバ」
か……
私は今までも攻キャラクターしかやったことがないのと、受キャラクターをやるのに抵抗があったため自分のキャラクターを「攻」に設定した。
以後、徹底して「攻」しかやらなくなるのだが、その話は今は置いておこう。
相手キャラクターは「リバ」だった。
当時「リバ」にあまり馴染みがなかった為、相手に攻として攻らしい行動をして良いものか?という不安があった。
しかし、2回目に会った時はそんな考えは吹っ飛んでおり、相手の可愛さに思わず口説きに落としにかかっていた。
これでは
「ちょっと優しくされただけで、相手が自分に気があると思いこむ童貞」
と同じである。
相手の対応は冷ややかなものだった。
曰く、
「出会って2回目なのにいきなり口説くとはどういうことだ?」
ということだった。
私はきょとん、としてしまった。
以前までいた版権のなりきりチャットは、予めカップリング構成が決まっており、攻キャラクターは受キャラクターを見たら口説きにかかるのが普通だった。
ふと我に返る。
このサイトは、BLを推奨しているが気に入った相手を誰彼構わず口説いていいわけではない。
交流を繰り返し親交を深め、ストーリーとしてカップリングが成立しそうだったら「そういう雰囲気」に持ってゆくのだ。
私は相手の言葉に大いに反省し、他のキャラクターとも交流をしながら、相手キャラクターと少しづつ距離を縮めてゆくことにした。
そして、何ヶ月か経った後……そのキャラクターに改めて告白した。
相手からの答えは……とある条件を元に、考えてもいいということだった。
詳しく聞くと、そのキャラクターには大きな悩みを抱えている設定があり、それを解決に導いた相手と付き合いたいという話だった。
「なんだか恋愛シュミレーションゲームみたいだな」
と思いつつも、今まで相手と会話した中での「悩み」について考える。
キャラクターが抱えている問題としては
「由緒正しい騎士の家柄だが、厳格な父親によって子供のから虐待に近い鍛錬を強いられていて、その為自我があまりない」
という部分だった。
私はここを重要な部分と捉え
「自分の好きに考え、好きな人生を生きろ。自分が一生責任を持つ。」
という告白を改めてした(思えばこれで3度目の告白だ)
その告白に相手は納得がいったようで、晴れて自分のキャラクターは、意中のキャラクターの心を射止めた。
相手の名前は
”ラインハルト”
彼、いや彼女は……
私のなりきりチャット人生を最も狂わせた人物だ。