なりきりチャットに人生を捧げていた大人の思い出話1
なりきりチャットをご存知だろうか。
漫画、アニメ、ゲーム、ドラマetc………題材はなんでもいい、オリジナルだっていい。
それらの登場人物、自分ではない何者かになりきり、チャットで会話することである。
ぶっちゃけていうと「ごっこ遊び」である。
かっこいい言い方でいうと「ロールプレイング」などとも言ったりもする。
今はサイトの他にも、オンラインゲームやVRC、Discordなど、様々なプラットフォームがあるように思う。
1990年代後期、なりきりチャットを主なコンテンツとして扱ったサイトが爆発的に流行った。
ツイッターなどのSNSは存在せず、いわゆるオープンチャットと呼ばれるものが主流だった時代。
1つのサイトには複数のチャットルームが設置され、それぞれに場所の名前と、簡単な設定がついていた。
「居酒屋」だったり「学校」だったり。
居酒屋、のチャットに入れば酒を飲むふりをするし、学校、のチャットに入れば教室で話してる風を装う。
特にビジュアルなどはない、文章のみで全てを表現する世界だ。
もちろん、サイト自体にも世界観の設定がついていた。
版権もののなりきりは勿論。
オリジナルは定番だと学園ものやファンタジー世界。
近未来SFなんかもあった。
エロいチャットのみを行う「ハッテン場」なんかも存在してた。
これは、そんなインターネット黎明期に流行った「なりきりチャット」に人生を捧げていた大人の思い出話である。
きっかけはなんだっただろうか。
とあるBL同人誌を手にしたことに起因する。
高校生の頃とてつもなくハマっていたアニメがあり、腐女子だった私はそのアニメのBL同人誌を買い漁っていた。
そのアニメの同人ジャンルは、書き手や読み手の年齢層が高いことでも有名であり、当時の同人誌には必ずと言っていいほど載っていた「まえがき」や「あとがき」や「対談」の内容のちょっとオトナな雰囲気にまだ高校生の私は憧れを抱いていた。
ある時、よく買っていたサークルの同人誌に「チャットログ」なるものが載っているのを発見する。
当時の同人誌によくある「対談」などは数人が寄せ書きのように手書きで会話するものが殆どだったのだが、その「チャットログ」なるものは綺麗に整列した活字で打ち込まれていた。
それだけでも目を惹くのだが、どうやらこの「チャットログ」なるものは「インターネット」の「チャット」で会話したものらしい。
「インターネット」の「チャット」ってなんだ?
調べようにもインターネットがないからわからない。
非常に不便な時代であった。
わからないまま悶々とした日々を過ごしていたが、仲の良いクラスメイト(Yちゃんとしよう)がある日突然「インターネット」の「チャット」の話を私にしてきた。
なんでも、Yちゃんがはまっているゲームのファンが集まる「インターネット」の「チャット」に最近入り浸りしていて寝不足らしい。
そして私は「インターネット」の「チャット」の正体を知る。
「インターネット」は電話回線に繋げて見られるページのこと。
「チャット」とはキーボードでタイピングをしてリアルタイムに会話ができるツールのこと。
「インターネット」をするにはパソコンが必要なこと………
それからインターネットができるようになった経緯は割愛するが、あらゆる手段を講じてネット環境を整えた。
こうして私はインターネットの大海原へと乗り出したのだった。
最初に見たウェブサイトは、当然ながらお気に入りの同人作家のサイトだった。
そう、同人誌に「チャットログ」が載っていた作家のサークルのサイトである。
「チャットログ」が載っていたということは勿論チャットルームが存在するのである。
最初の数週間は様子を見ていたが、会話を見るうちに参加することを決意する。
なんとこのチャットルームにはサイトの管理人である憧れの同人作家本人も参加しているのだ。
自分では手の届かない、神のような作家と、好きなアニメについての会話するチャンスがすぐそこに転がっているのだ。
同人誌の感想だって手軽に言える。
最高だ。
明日には参加しよう、そう決めた日の夜はなかなか眠れなかったのを覚えている。