【二次創作小説】娘とクッキー

こちらは「太陽よりも眩しい星」の二次創作小説です。
岩田母目線の朔英のお話です。
ショートショートです。


最近、娘がおかしい。

朝のブローが念入りになっている。
今朝なんて鏡の前でくるっと回って、背中の方まで身だしなみを気にしている。

…もしかして。恋、してる?

長女のさえは高1だ。
しっかり者だけど口数は少ない。
親子でする恋話に憧れているけど、さえから浮いた話は聞いたことがない。
引っ込み思案だし、まだまだ初心だ。

「おかあさん、体操服どこ!?」

次女に大声で呼ばれた。
家事の途中で、いそいそ身支度をしているさえに目を奪われてしまっていた。
あわててタオルを洗面所の棚へしまってリビングへ戻る。
子供が3人もいると朝は戦争だ。

子供たちを送り出して掃除して、市役所へ行って用事を片付け、昼ごはんを作るついでに晩ごはんのおかずを仕込んだ。

ようやく落ち着いた昼下がり、楽しみにしていたいただきもののクッキーを齧りながらテレビをつける。

ワイドショーでは10月から始まるドラマを宣伝している。
高校生のラブコメらしい。

「あ、この子最近良く出てるかっこいい子だ」

ヒーロー役の子が笑顔で作品の見所を話しているのを見て、ほぉ♡とため息をつく。

そういえば小学生の頃、さえがバレンタインにクッキーを作りたいとねだってきたことがある。

「この子にも初恋が!」とときめいて、張り切って一緒に可愛く仕上げた。

その時あげたのは、仲良しのこうきくんだったと思う。

「小学生だけどお付き合いしちゃうのかしら」とドキドキしたものだ。
しかし結局そんな話はまったく出てこなくて、中学にあがったら、こうきくんの話を聞くこともなくなった。

あ、でも、高校ではまた同じクラスになったようで、一度寝込んだ時にさえにノートを持ってきてくれた。
ずいぶん背が伸びてかっこよくなってたな。

小学生の時はクラスでバレンタインが流行ってると言ってたから、それでクッキーをあげたんだと思う。

(あの時もし付き合ってたら、自慢のかっこいい彼氏だったのにねぇ)

まぁ、もし付き合ってたとしても、小学生から高校生まで続くことなんてないか。

今のさえは誰かに片想いかな。
口下手だし、身長コンプレックスを引きずってるし、何となくうまくいかない気がする。
もし相談してくれたらたくさん励ましてあげよう。

「ただいまー」
末っ子が帰ってくる。

「おかえりー早かったね」

私はまだ知らなかった。
その日の夕方、醤油が切れて買い物に出かけた時に、さえとこうきくんが自転車を引きながら親密そうに話す姿を目撃することを。

fin.



あとがき

Twitterのフォロワーさんから「神朔英の家族目線のお話を」とリクエストいただいて書いた作品です。

よくしゃべる神城ママと比較するとやや影の薄い朔英ママにフォーカスしました。

朔英は勉強も運動もできて下の子の面倒をよく見る良いお姉ちゃんだけど、家ではリラックスしていて、積極的に家事を手伝ったりする女子力ムーブは出していません。
そういう姿しか見てないなら、きっと無口な朔英の恋愛事情は想像できないだろうなぁ、と思って書かせていただきました。

オチの一文は、簡潔でわかりやすい表現を目指して何度も書き直しました。
(まだ納得はできてませんが、今の私の力量ということで…)

ラストの朔英ママの表情を想像して、余韻を楽しんでいただけたら嬉しいです♡

ちー

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