【二次創作小説】 あの子との距離⑤ 〜学祭準備(中編)
こちらは「太陽よりも眩しい星」の二次創作小説です。
原作ストーリーを神城目線で書いております。
ネタバレ&妄想たっぷりですのでご注意ください。
過去のお話はこちら。
①研修旅行→ ★
②英フェス→ ★
③牽制→ ★
④学祭準備(前編)→ ★
学祭準備も山場。
学校中がそわそわ浮き足立ってる雰囲気だ。
朝、ゲタ箱で岩田を見つけた。
ふっと頬がゆるむ。
「おはよう」
さりげなく挨拶をして通り過ぎる。
「神城!」
珍しく岩田に引き止められた。何だろう?
「み…香川さんが一緒にしてくれるって」
香川?何の話??
「………あっ」
受付の話か!
「やった!」
思わず破顔したら岩田もにこにこしてる。
そこへ「おはよー」と鮎川が登校してきた。
「おはよー」と声をかけたら、ノールックで右手を挙げて去っていく。
「鮎川落ち着いてるよなーあいつ笑ったりすんのかな」
「笑ったの見たことあるよ」
「マジで?どういう時に笑うの?」
「腕の太さを比べてる時と」
太さくらべ?
腕と腕をくっつけて??
「オブジェ支えてる時と」
あ、あの仲良さそうだったやつ…!
「台本の時も話したけど笑ってた」
あー俺が聞き耳立ててたやつ…!
てか、そんなに笑ってんの?
岩田、その意味に気づいてないの??
「それはさ…」
鮎川、やっぱり岩田のこと…
いや、俺が言うことじゃないよな。
「ま、いーか」
鮎川のことは頭から追い払うことにした。
ずっと頭の片隅にある、岩田の好きな人のことも一緒に棚上げする。
「学祭楽しみだね」
うまく笑えたかな?
俺は自分のやるべきことをがんばるだけだ。
いよいよ明日は学祭初日。
クラス制作は順調にすすんでる。
これなら間に合いそうだ。
「よし、暗幕張ってみよーぜ」
「やってみよ!」
がんばってきた集大成だ。
俺もわくわくする。
ところが、ここで大問題が発覚した。
壁を星空のようにする予定だったのに、蓄光インクが光らない。
教室の中がざわつく。
「ライトアップする?でももう予算もないし…」
みんな不安そうだ。
と、そこで鮎川が提案した。
「ダンボールに穴あけるとかは?それで外から透かすとか」
その一言で教室の空気が変わった。
「いいかも……」
「でもダンボールくれるとこ、まだあるかな…」
みんな前向きになってる。
やっぱ鮎川はすごい。
「このへんのスーパーのダンボールなんか全部うちの学校取っちゃってるよ」
優心は相変わらず堂々と空気を読まない。
「やれるだけやってみよ!」
俺は大声で言った。
アイデアは出せなくてもできることはやりたい。
電話で問い合わせたら、スーパーやホームセンターで結構確保できた。
やった!
自転車通学組が手分けして回収しに行くことになった。
岩田の後ろ姿を見つけて、すれ違いざまに急いで伝える。
「俺遠いほう行くね」
ぐっと強くペダルを踏み込む。
速くこげばこぐほど岩田の心に近づけるような気がする。
俺は全速力で自転車をこいだ。
「兄ちゃんでっけーな!こんくらい持てる?」
「余裕っす!ありがとうございます!」
スーパーの人はにこにこしながらたくさんダンボールを分けてくれた。
片腕で大量のダンボールを抱えながらチャリをこぐのは予想より大変だったけど、「岩田も今頃ひとりでがんばって運んでるんだろうな」と思うといくらでも力がわいてくる。
きっといつもみたいに手際よくダンボールをまとめて、すれ違う人にぶつからないように気をつけながら走ってるんだろうな。
赤信号で停まった。
目の前の横断歩道をランドセルを背負った子供たちが手を上げて渡っていく。
背の高い女の子と小さい男の子がおしゃべりしてるを見かけてふっと笑う。
昔の俺らみたいだな。
告白してもし付き合えたら、こういう何気ない話もできるようになるんだろうか。
今日チャリで移動してる時に、昔の俺らみたいな小学生がいたよ。
あの子たちも俺らみたいに将来付き合ったりするかもね。
岩田は何て言うかな。
恥ずかしそうに笑うかな。
信号が青に変わる。
ダンボールを抱え直して、よし、と再びペダルに力を込める。
戻ったら話しかけよう。
何枚運べたか訊いてみよ。
俺のほうがたくさん運べてたらいいな。
何度か落としそうになりながらも、なんとか無事にダンボールを運び終えた。
自転車置き場にまだ岩田の自転車は見当たらない。
俺のほうが遠かったけど、行きに激チャリしたおかげで先に戻れたみたいだ。
ダンボールを抱えて1-Aの教室に戻ると、不穏なワードが聞こえてきた。
「……治安悪かった…」
「治安?」
「あ、神城おかえりー」
挨拶もそこそこに俺は問いただす。
「治安て?」
「岩田さんが行ったホームセンター、治安が悪くて有名なとこで」
「え?」
一気に背筋が冷える。
「でも今は近くに大きい道路できて超平和なんだよ」
「昔の話、昔の話」
なんだ、良かった。
びっくりした。
「鮎川が行ったよね、チャリ借りて」
…鮎川が?
窓の外を見る。
ちょうど、鮎川と笑いながら帰ってくる岩田の姿が見えた。
ふたりで手分けしてダンボールを持っている。
すごく楽しそうにしゃべってる。
岩田は俺が見てることになんてちっとも気づかない。
…ダンボールの数、負けたな。
ぼんやりと思った。
「なんだよあの二人、こないだは暗幕かぶって遊んでたし」
「鮎川と岩ちゃん、文化祭でデキちゃうんじゃね?」
優心の声がいつも以上に耳障りだ。
頭にぐらぐらと響く。
暗幕???
また知らない話が…。
「噂とかやめろって」
自分の声が遠くで聞こえる。
普段より冷たく大きい声になってるのがわかる。
でもわかるのはそれだけだ。
大縄とび大会での挨拶。
プロンプター。
授業中、顔を近づけて話すふたり。
教えてもらえなかった英フェス打ち上げの会話の内容。
腕の太さくらべ。
暗幕。
鮎川の隣でわらう柔らかい岩田の顔。
いつの間にか近づいてるふたりの距離。
いや、わからないんじゃない。
考えないようにしてただけだ。
岩田に好きな奴がいると知ってから、今まで以上に岩田の様子を見てきた。
他に岩田と親しい男子は、いない。
「岩ちゃーん、おかえりー!!」
「いっぱいじゃーん!!」
岩田がにこにこしながら教室へ戻ってきた。
鮎川はなぜかケガだらけだ。
その顔をじっと見つめる。
相変わらず表情は読めない。
ダンボールが続々と集まってきた。
「とりあえず全員で穴を開けろー!」
「シャーペンで!!」
はっと気づいて、慌てて作業に集中する。
今日中に準備を終えないと明日の学祭を迎えられない。
完全下校時刻は6時。
それまでに急いで終わらせないと。
みんなで必死で作ったダンボールの星空はうまくいった。
かなりそれっぽい。
…鮎川のアイデアが、良かったんだろう。
ようやく展示の準備がぜんぶ終わった。
「はー……、どうなることかと思った」
「やった、やった〜」
「明日はいよいよ学祭だね!がんばろー!」
「がんばろー!」
クラスにもようやく活気が戻ってきた。
「今みんなのアルバムに学祭の写真あげたよー」
小野寺が明るく言う。
みんな、がんばった準備中の写真を見て盛りあがってる。
俺も見てみるが、だめだ、頭に入ってこない。
ふと、鮎川のスマホ画面が目に入った。
岩田の写真を見ている。
その横顔は、微笑んでいた。
俺が見たことのない優しい顔。
やっぱり、鮎川は。
鮎川も。
「俺、ゴミ捨ててくる」
耐えきれなくて俺は教室を出た。
廊下で立ち止まり、じっと掌を見つめる。
今まで岩田に話しかけて、何度も言われた「平気」と「大丈夫」が蘇ってくる。
倒れた岩田を助け起こそうとした時。
自転車で送ろうとした時。
少し困った顔で、近づいた俺からスッと距離を取る岩田。
ぎゅっと掌を握りしめる。
頼りになる男になろうと思ってた。
岩田に頼ってほしかった。
でも岩田が頼るのは俺じゃなかった。
まだ頭がぐらぐらする。
暗い視界の中、過去の自分の姿がよぎっていく。
身長を伸ばしたくて牛乳を飲む練習をはじめた小3の頃のこと。
最初は口から吐き出して母さんに叱られたこと。
違うクラスの岩田を見かけたら、急いで駆け寄って挨拶した中学3年間のこと。
どんどんきれいになる岩田が眩しかったこと。
同じ高校に行くために必死で勉強したこと。
渡辺に「今からってアホじゃねぇの」と呆れられながら北高の過去問を教えてもらった中3の秋のこと。
がんばれば、岩田はまた隣でわらってくれると思ってた。
岩田にふさわしい男になりさえすれば、努力は報われると思ってた。
ー おまえのやってきたことなんて全部ムダだったんだよ ー
ー 本当に出来るヤツに敵うわけない ー
ー 岩田は鮎川といたほうがしあわせになれる ー
まるで誰かにそう言われてるみたいだ。
(続く)
とってもダークで恐縮ですが、今回の小説は以上でいったん完結になります。
16話の神城が「岩田は誰にでもそうだから」という台詞を言うくらい闇堕ちしたのはなぜか?を、自分に納得させるために書いたものになります。
「きっとマンガでの描写以上に落ち込む要素があったはず」(逆にそうじゃなきゃ朔英への暴言許さないぜ)というコンセプトで書かせていただきました。
でもアレですね、原作では幸せいっぱいでも、闇堕ちさせたところで完結ってなかなか心苦しいですね😂
当面の着地点はここまでだったのですが、もしかすると続きを書くかもしれません。
※もしまだ読みたいと思われる方がいたら、コメントとか残していただけると嬉しいです…!
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
ちー
1/27追記:
嬉しいコメントいただきまして、もう少し区切りの良いところまで書いてみようかな?と思います。
引き続きスローペースになりそうですが、よろしければまた読んでやってください🙇