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板橋の新名所、小豆沢劇場

「板橋区って何があるの?」
「何もないねえ」

こんなやりとりをもう何度も繰り返してきた。板橋区で生まれ育ち、留学していた1年間を除いてずっと板橋区に住んでいる私が、かつてしていたやりとりだ。

お隣の豊島区であれば池袋のサンシャインシティ、練馬区であればとしまえんや練馬大根というように、その町の名所、テーマパーク、名物などがある。かたや板橋区はどうだろうか。パッと思い浮かぶものは少ないのではないだろうか。

もちろん板橋区にも良いところはたくさんある。交通の便も良く住みやすい町であるし、高齢者に優しいし、赤塚には東京大仏もある。夏にはいたばし花火大会も開催される。それでも、うちには誇れるものがないからと、生まれ育ったこの板橋という町を卑下することが多かったように思う。

もちろんずっと過ごしてきた町であるから、板橋区は大好きである。板橋区民が、板橋といえばこれだと誇りを持つことができて、さらに板橋区民同士の交流を深めることができるような名所はないものか……

そんなことを考えていた2013年、私が大学1年生のときにひとつのニュースが飛び込んできた。

「新しくできたプロバスケットボールチームの東京エクセレンスが板橋区と連携協定を結びました」

現在はBリーグとなっているバスケ界だが、Bリーグができる前の東京エクセレンスはNBDLという下部リーグに参入することが決まっていた。バスケ好きな私としてはその情報はすでに知っていたのだが、そのニュースを聞いた途端、いくつもの疑問が浮かんできた。

あの板橋区がスポーツチームと連携? どういうこと? そもそもプロスポーツチームが試合できる施設なんてあったっけ? 板橋区はどこまでコミットするの?

東京エクセレンスの主戦場となったのは、板橋区立小豆沢(あずさわ)体育館。都営三田線の志村坂上駅から5分ほど歩いたところにある、こじんまりとした体育館だ。ここでプロバスケの興行をするのかと思うほど、体育館は狭い。

エクセレンスの、そして板橋区の本気度を確かめたかった。初年度の開幕戦、私は実際に東京エクセレンスの試合を観戦しに行った。まだまだ板橋区民は東京エクセレンスのことをよく知らないで会場に来ている様子であった。私もそのひとりであった。確かに試合は盛り上がった。ダンクシュートやスリーポイントシュートなど華麗なプレーの連続で、エクセレンスは大勝した。

しかし、私は物足りなさを感じていた。会場の演出や観客同士のコミュニケーションはまだ足りなかった。小豆沢での試合数が少なかったこともあり、どこまで板橋区に根付くのかという不安もあった。それでも、1,000人の観客で満員となる狭さの小豆沢体育館が独特の熱気を帯びていたのは強烈に覚えている。この興奮を板橋区の人たちと共有できれば、これぞ板橋と自慢できる場所になるのではないかと思った。

「スポーツを文化に」というコンセプトを掲げていたチームにあって、地域密着は大事な要素だ。その後、エクセレンスは地域のイベントに積極的に顔を出したり、小豆沢での試合数を増やしたりして、板橋区への浸透を図った。板橋区も、広報活動をしてこのプロスポーツチームを支援していった。

あれからはや5年。ここ最近、エクセレンスの試合を小豆沢体育館で観ていると、ある変化が出てきた。地元板橋のチームを応援しようとする人が増えてきたような気がするのだ。クリニックで自分の学校に来てくれた選手たちの勇姿を一目見ようとやって来た子供たちや、商店街のイベントでエクセレンスを知ってやって来た人たち、熱狂的な区民ファンなどが小豆沢に駆けつけている。みんなで東京エクセレンスというチームが成熟していく姿を見守って、育てているのだ。

そして、試合会場で観客同士が出会い、交流を深めていく光景も目の当たりにした。同じエクセレンスという話題で盛り上がり、さらに自分の住んでいる町の話をしているのだ。

この光景を見て、小豆沢体育館が小劇場のようになっていると感じた。駆け出しの劇団やアイドルグループなどがパフォーマンスをするような小さな劇場が、日本各地にあるはずだ。そこには観客が連日のように詰めかける。そこで観客がパフォーマンスを見守り、彼ら同士で感想を言い合う。私たちが一緒にこの劇団やアイドルグループを育てていくんだという強い思いが感じられる。

東京エクセレンスというチームを板橋区民みんなで、魅力溢れる、誇れる存在にしていくのだ。小豆沢体育館ではシーズン中、白熱した試合が繰り広げられる。MCが小さな会場を盛り上げ、その試合展開によって老若男女が一緒に喜怒哀楽を味わうことができる。小豆沢体育館に来ることで観客同士の交流もできる。まさに劇場ではないか。

エクセレンスは現在B3(3部リーグ)の所属であり、1部リーグであるB1を目指す道半ばである。昇格のためには、要件を満たす広いアリーナが必要であることも事実である。板橋区民が誇りを持って東京エクセレンスを「おらが町のチーム」であると言うことができれば、B1の夢も近づいてくるはずだ。

エクセレンスは、人々が応援したいという思いにさせてくれる存在だと私は確信している。板橋にゆかりのある方は、ぜひ小豆沢に足を運んでほしい。彼らが小劇場から羽ばたいていくその過程を、見届けるために。

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