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113号室との別れの話

前編:113号室の話

昨年末に結婚し、引っ越しをすることになった。
新居はもう借りてあったので荷物はゆっくり運び込めばよかったし、転勤のような理由でもないので、私にとっての「113号室」を引き払うのは言ってしまえばいつでもよかった。
それどころか私にとっても夫にとっても113号室のほうが通勤に便利だったのもあり、本当に結婚前と変わらない生活がしばらく続いた。

しかし、新居がある以上それは良くないことであるし、夫は私が「113号室を引き払おう」と言うまで待ってくれていることには気付いていた。
2月に勇気を出して引っ越し業者の手配をした。
営業の人を部屋に上げて話を聞きながら「本当に日当たりがいい部屋だなあ」と切なくなり、113号室を空にするための段ボールを沢山貰った。
夕方になってから近所の精肉店でメンチカツを買い、その温かな包みを抱いて「113号室がある街を発つんだ」と少し泣いた。

結局、その頃は第6波が収まらず「何かあったときの隔離と、通勤の都合で」を口実に荷物を一部残した引っ越しをした。
冷蔵庫も洗濯機も113号室から運び出したが、代わりにリサイクルショップの洗濯機を入手した。
冷蔵庫は無くなってしまったが、113号室では料理をしないと決めてしまえば意外と問題は無かった。
まだしばらく113号室で過ごすことができた。

そうして今月に入って無線LANを113号室から新居に移設工事をした。
どういうわけかそこで漸く、113号室が変わってしまったことに気付くことができた。
切れてしまった廊下の電球、乾燥機の付いていない洗濯機、新居に運び込まれていった、初めは全く料理ができなかった私を見ていてくれた冷蔵庫。

113号室は最寄りのスーパーまで600mほどしかないが、新居で過ごす日に1.2km先のスーパーに行くことにも随分慣れた。
コロナウイルスに怯え暮らしていた頃、開店と同時に600m先のスーパーで買い出しを済ませ、帰宅してシャワーを浴び、あとはずっと料理とゲームと読書をしていた。

退去申し込みボタンを押し、涙がボロボロと溢れてきた。
がらんどうになった113号室をずっと残しておくよりも、きっとこのほうがいいんだ。
私にとって113号室はシェルターであり、初めて借りた部屋であり、私を成長させてくれた場所だった。
ありがとう、さようなら。絶対に忘れない。

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