廃棄プラスチックを救おう!(ケミカルリサイクルの現状と最新技術動向)
プラスチックのケミカルリサイクルの現状と最新技術動向
プラスチックのケミカルリサイクルは、化学的なプロセスを通じて廃棄プラスチックを原料に戻し、新たな製品の製造に利用する方法です。この技術は、従来のマテリアルリサイクルでは困難な混合プラスチックや汚染されたプラスチックのリサイクルを可能にし、循環型社会の実現に向けて重要な役割を果たしています。本記事では、ケミカルリサイクルの現状、最新技術、課題、そして今後の展望について詳しく解説します。
1)廃棄プラスチックのケミカルリサイクル現状
ケミカルリサイクルは、廃棄プラスチックを化学的に分解し、モノマーやオリゴマー、石油製品などに変換する技術です。主なプロセスには以下のものがあります。
熱分解:高温でプラスチックを分解し、オイルやガスを生成。
ガス化:高温でプラスチックをガス化し、合成ガス(シンガス)を生成。
解重合:プラスチックをモノマーに分解し、再ポリマー化して新たなプラスチック製品を製造。
水素化分解:水素を用いてプラスチックを分解し、燃料や化学品を生成。
2)ケミカルリサイクル技術の現状と最新技術
熱分解
企業:Agilyx(米国)
技術:プラスチック廃棄物を熱分解し、再利用可能な油やガスを生成する技術。
社会実装の実績:Agilyxは複数の商業規模の施設を運営しており、廃プラスチックから得られたオイルを石油化学製品に再利用。
課題:設備投資が高く、運営コストも高い。
その他の技術事例:
昭和電工:使用済みプラスチックから水素を製造する技術を開発。2030年までに年間60,000トンの処理能力を目指しています。
ReNewELP(英国):世界初の商業規模の触媒熱分解プラントを稼働。年間20,000トンの混合プラスチック廃棄物を処理可能です。
ガス化
企業:SABIC(サウジアラビア)
技術:プラスチック廃棄物をガス化し、合成ガスを生成。これを原料として新しいプラスチックを製造。
社会実装の実績:SABICは、ヨーロッパでの施設で商業的に運用されており、TruCircleポートフォリオの一環として再生プラスチックを提供。
課題:ガス化プロセスはエネルギー消費が高く、CO2排出も多い。
その他の技術事例:
日本製鉄:廃プラスチックをコークス炉でガス化し、製鉄プロセスで活用。年間約20万トンの廃プラスチックを処理しています。
解重合
企業:LoopIndustries(カナダ)
技術:PETをモノマーに解重合し、再ポリマー化して新たなPET製品を製造。
社会実装の実績:LoopIndustriesは、Coca-ColaやL'Oréalと提携し、100%再生PETボトルの製造を行っている。
課題:技術のスケールアップが必要であり、コスト削減が課題。
その他の技術事例:
イーストマン・ケミカル:分子再生技術を用いて、ポリエステル廃棄物から新しいポリマーを製造。年間10万トン以上の処理能力を持つプラントを建設中です。
ループ・インダストリーズ:PETボトルを室温で解重合し、食品グレードのPETに再生する技術を商用化。コカ・コーラやダノンと提携しています。
水素化分解
企業:NexusFuels(米国)
技術:水素を用いてプラスチックを分解し、燃料や化学品を生成。
社会実装の実績:NexusFuelsは、化学品メーカーと提携し、廃プラスチックから得られた燃料を商業的に供給。
課題:高圧・高温のプロセスであり、運転コストが高い。
触媒熱分解
企業:PlasticEnergy(英国)
技術:触媒を用いた熱分解プロセスで、プラスチック廃棄物を高効率で油に変換。
社会実装の実績:PlasticEnergyは、複数の商業規模の施設を運営しており、生成された油をバージンプラスチックの代替原料として使用。
課題:触媒の劣化と交換コストが課題。
マイクロ波アシスト熱分解
企業:MuraTechnology(英国)
技術:マイクロ波を利用した熱分解技術で、プラスチックを高速かつ効率的に分解。
社会実装の実績:MuraTechnologyは、初の商業規模のプラントを建設中であり、技術のスケールアップを進めている。
課題:技術の実証段階であり、大規模商業化には課題が残る。
選択的解重合技術
特定のポリマーのみを選択的に解重合する技術が進展しています。
事例:
企業:カーボン・リバース(米国):混合プラスチック廃棄物から特定のポリマーを選択的に解重合する技術を開発。2023年に実証プラントを稼働予定です。
低温プロセス
従来の高温プロセスに比べ、エネルギー消費を抑えた低温プロセスの開発が進んでいます。
事例:
企業:Pyrowave(カナダ):マイクロ波を使用した低温解重合技術を開発。ポリスチレンの効率的なリサイクルを実現し、ミシュランと提携しています。
触媒技術の進化
より効率的な分解を可能にする新しい触媒の開発が進んでいます。
事例:
企業:IBM:AIを活用して新しい触媒を開発。PETの室温での効率的な解重合を実現しました。
AIとIoTの活用
ケミカルリサイクルプロセスの最適化にAIとIoTが活用されています。
事例:
企業:BASF:AIを用いてプラスチック廃棄物の組成を分析し、最適な処理方法を決定するシステムを開発。リサイクル効率の向上に貢献しています。
企業:Veolia(フランス):IoTセンサーとAIを組み合わせた廃棄物管理システムを導入。収集から処理までの最適化を実現しています。
3)ケミカルリサイクルの課題
ケミカルリサイクルには多くの利点がある一方で、以下のような課題も存在します。
現状:日本では年間約850万トンのプラスチック廃棄物が発生し、そのうち約30万トンがケミカルリサイクルされています。欧州では2030年までにプラスチック包装材の55%をリサイクルする目標を掲げ、ケミカルリサイクルへの投資が活発化しています。
課題:
高コスト:ケミカルリサイクルプロセスは設備投資や運転コストが高いため、経済的に競争力を持つためには技術革新が必要です。
エネルギー消費:高温や高圧を必要とするプロセスが多く、エネルギー消費が大きい。
スケールアップ:実証段階から商業規模への拡大が難しく、安定した供給と品質を確保するためのインフラが整備されていない。
品質管理:異物混入や劣化プラスチックの処理が課題
4)ケミカルリサイクルの今後の展望
ケミカルリサイクルは、技術革新とともに大きな成長が期待されています。以下は今後の展望です。
技術の進化:触媒技術やマイクロ波アシスト技術など、新しい分解技術の開発が進んでいます。これにより、プロセスの効率化とコスト削減が期待されます。
規制と支援:各国政府が循環経済の実現に向けて政策を強化し、ケミカルリサイクル技術への投資や支援が増加しています。
市場の拡大:持続可能なプラスチック製品への需要が高まる中、ケミカルリサイクルによる再生プラスチックの市場が拡大しています。
バイオ技術との融合:酵素を用いたプラスチック分解技術の実用化が期待されています。事例:カルバイオ(フランス)は、PETを分解する酵素を開発し、L'Oréalと提携してボトルのリサイクルに取り組んでいます。
循環型サプライチェーンの構築:製造から廃棄・リサイクルまでを一貫して管理する取り組みが進んでいます。事例:ネスレは2025年までに包装材の100%をリサイクル可能にする目標を掲げ、サプライチェーン全体でのリサイクル体制を構築中です。
政策支援の拡大:EUを中心に、ケミカルリサイクル促進のための政策支援が強化されつつあります。事例:EUは2030年までにすべてのプラスチック包装をリユース可能またはリサイクル可能にする目標を設定し、ケミカルリサイクルを重要な手段として位置付けています。
5)事例紹介
ケミカルリサイクルに関する最新の事例を以下に紹介します。
BASFのChemCyclingプロジェクト(ドイツ):
技術のポイント:廃プラスチックを化学的に分解し、バージン品質の原材料を生成。
社会実装の実績:BASFは、再生モノマーを利用して新しいプラスチック製品を製造し、顧客に提供。実際に市場で流通している製品も多い。
課題:コスト高と大規模商業化の実現。
東レのケミカルリサイクル技術(日本):
技術のポイント:PETボトルを解重合し、高純度のモノマーを生成。これを再ポリマー化して新たなPET製品を製造。
社会実装の実績:東レは、大手飲料メーカーと提携し、再生PETボトルを製造。日本国内外での実績も豊富。
課題:解重合プロセスのコストと効率の改善。
JEPLANのBRINGプロジェクト(日本):
技術のポイント:使用済みPETボトルや繊維製品を回収し、化学的に分解して新たなPET製品を製造。
社会実装の実績:BRINGプロジェクトは、大手アパレルメーカーと提携し、再生ポリエステルを使用した衣料品を製造。
課題:回収システムの拡大とコスト削減。
NesteとRavagoの共同プロジェクト(フィンランド・ベルギー):
技術のポイント:廃プラスチックを化学的に処理して高品質の原料に変換。
社会実装の実績:NesteとRavagoは、共同でケミカルリサイクルの商業規模のプラントを運営し、再生プラスチックを市場に供給。
課題:エネルギー効率の向上とコスト削減。
Dowのケミカルリサイクル技術(米国):
技術のポイント:廃プラスチックを解重合し、モノマーを生成して再ポリマー化する技術。
社会実装の実績:Dowは、複数のパートナー企業と協力し、商業規模のケミカルリサイクルプラントを建設。
課題:技術のスケールアップとコスト削減。
6)まとめ
ケミカルリサイクルは、プラスチック循環経済実現への重要な技術として期待されています。技術革新と政策支援の後押しを受け、今後さらなる発展が見込まれます。しかし、コスト削減や品質管理など、克服すべき課題も残されています。産学官の連携と継続的なイノベーションにより、持続可能なプラスチックリサイクルシステムの構築を目指していく必要があります。