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生分解性を持つ非晶性ポリマーの用途探索


1.背景

非生分解性プラスチックの使用が増加し、それに伴い非生分解性プラスチック廃棄物も増加しています。これらの廃棄物は環境汚染を引き起こし、地球温暖化の深刻な脅威となっています。そのため、非生分解性プラスチックの代替として生分解性ポリマーの使用が注目されています。
生分解性ポリマーの主な利点は、化石資源の保全と環境汚染の軽減です。これらのポリマーは、食品、動物、農業廃棄物等の各種廃棄物やバイオリソースから作られることがあります。
21世紀の新たな社会と経済をプラスチック汚染から解放するためには、非生分解性プラスチック廃棄物の管理や処理方法を検討することと同程度の検討事項として、生分解性ポリマーに置き換えることだと考えられています。

これらの理由から、非晶性生分解性ポリマーの開発と利用が進んでいます。これらのポリマーは、包装、農業、食品、消費者製品、医療機器、建築材料、産業、航空宇宙材料等、様々な分野で使用されています。また、生分解性ポリマーは、手術、薬理学、農業、環境等の分野で使用される抵抗性のある合成ポリマーの代替として必要とされています。これらのポリマーは、生分解性、生体適合性、低毒性の分解生成物の放出といった条件を満たす必要があり、微生物によってH2O、CO2、メタンに変換される可能性があります。この生分解過程は、材料の組成に依存し、ポリマーの形態・構造、化学的処理、ポリマー分子量等はすべて、生分解過程に影響を与えるパラメーターとなります。

以上のような背景から、非晶性生分解性ポリマーの開発と利用が進められています。これらのポリマーは、環境に優しく、リソースを再生し、地球温暖化につながる二酸化炭素の排出を削減するといった環境上の利点を持っています。

2.用途

約100~150°Cの範囲で調整可能なガラス転移温度(Tg)と生分解性特性を備えた非晶質ポリマーとして、カトラリーやカップといった用途展開は、よく知られていると思います。
そこで今回は、それ以外の用途や、材料開発や制御のヒントになる事項をまとめてみます。

  • 食品包装材料:Tgを調整することで熱特性を制御でき、電子レンジやオーブン対応容器、食品や飲料のホットフィル包装等、耐熱性が必要な包装用途に適します。

  • 医療用途:埋め込み型デバイス等の医療用途に使用。これらのポリマーの生分解性は、デバイスがその目的を果たした後に外科的に除去する必要がないため、医療用途では非常に重要です。また、注射器、薬物送達用途、手術器具、インプラント等の使い捨て医療機器の製造に使用できます。生分解性は、長期間体内に留まる必要のない一時的なデバイスにとって特に有利です。

  • エレクトロニクス:調整可能なTg特性は、耐熱性と加工性が重要な封止材やプリント基板、ディスプレイ関連ではフレキシブルディスプレイ、及びOLEDに役立ちます。

  • テキスタイルとアパレル:生分解性で熱調整可能な生地に組み込むことで、持続可能な衣類、スポーツウェア、テクニカルテキスタイルへ展開が可能です。

  • 自動車部品:調整可能なTg特性を利用し、耐熱性と生分解性が求められるダッシュボード、トリムパネル、シート部品等の内装部品の製造に利用されます。

  • 建設材料:建設業界で使用される生分解性で熱調整可能なコーティング、接着剤、シーラント、断熱材等に応用できます。

3.特性とコスト

調整可能なTgと生分解性特性を備えた非晶質ポリマーを展開するにあたって、材料特性とコストは非常に重要な要素となります。

  • 機械的特性:ポリマーは、意図した用途の特定の要件を満たす為に、適切な強度、靭性、及び柔軟性を備えている必要があります。これは、パッケージングの高い耐衝撃性や自動車部品の剛性等、業界によって異なる場合があります。

  • 熱安定性:調整可能なTgとは別に、ポリマーは加工条件や意図した用途の動作温度範囲に耐えられる良好な熱安定性を持つ必要があります。

  • 生分解性:ポリマーの生分解性により、環境への優しさと持続可能性が保証され、時間の経過に伴い無害な副産物に分解され、環境負荷が軽減されます。

  • 加工及び製造容易性:ポリマーは、射出成形、押出成形、又はフィルムブロー成形等の高生産性を持ち高いコスパの製造方法を可能にする溶融加工特性を備えている必要があります。

  • 費用対効果:ポリマーのコストは、様々な用途への実現可能性を決定する上で重要な役割を果たします。コストは、同様の用途で使用される代替材料と比較して競争力のあるものでなければなりません。

  • 規制順守:業界や用途に応じて、ポリマーが食品接触、医療機器、自動車の安全性等、関連する規制基準や認証(FDA等)を満たしているかどうかを検討することが重要です。

  • コスト:非晶性生分解性ポリマーのコストは、上述したようなポリマー特性を発揮するために素材と製造プロセスの複雑さによって大きく異なります。素材の選定や配合比率、製造プロセスの最適化などについて検討する必要があります。

4.生分解性ポリマー

非晶性生分解性ポリマーの特徴を上記まとめましたが、代表的な生分解性ポリマーを以下にまとめます。材料開発や非生分解性ポリマーからの切り替えを検討されている方の参考にしてください。

  • PHBV:モノマー単位を接続するエステル結合を持つ3-ヒドロキシブタン酸と3-ヒドロキシペンタン酸の共重合体です。

  • PGA:ポリグリコール酸は、グリコール酸の環状二量体の連鎖重合によって得られます。

  • PLA:ポリ乳酸は、乳酸の環状二量体の重合によって得られます。

  • PCL:6-ヒドロキシヘキサン酸のラクトンの連鎖重合によって得られます。

  • ナイロン-2-ナイロン-6:ナイロン-2-ナイロン-6は、グリシンとアミノカプロン酸の交互ポリアミド共重合体。

  • デンプン、セルロース、ゼラチン、キトサン:これらは天然に存在する生分解性ポリマー。

  • PHA:これらは、糖または脂質の細菌発酵によって生成。

  • PVA:水溶性合成ポリマー。

  • PBS:生分解性の脂肪族ポリエステル。

  • PU:ジイソシアネートとポリオールの反応によって生成。

  • POE:これらはpHの変化に敏感であり、薬物送達用途によく使用されます。

これら生分解性ポリマーは、適切な期間内に微生物によって容易に分解され、ポリマーとその分解生成物が環境に与える影響は最小限に抑えられ、包装材料から医療機器に至るまで、様々な用途に使用されます。

5.ガラス転移温度(Tg)の制御

ちょっと化学的なお話しですが・・・
1項にて、『Tgを調整することで・・』などガラス転移温度をコントロールすることで用途展開ができると言いましたが、ポリマー合成におけるTg値を制御するにはどうすればよいのでしょうか?
ポリマー合成におけるガラス転移温度(Tg)の制御には、いくつかの要素を操作する必要があります。

  • 分子鎖の移動度:Tgの値は分子鎖の移動度に依存します。分子鎖が柔軟であるほど、Tgの値は低くなります。

  • 分子鎖の剛性:ポリマー鎖内の剛性基により鎖の柔軟性が低下し、Tgの値が上昇します。

  • 分子間力:分子間力が強いと、Tgが高くなります。

  • 架橋:鎖間に架橋が存在すると、回転運動が制限され、Tgが上昇します。

  • 可塑剤:可塑剤は、柔軟性と加工性を高めるためにプラスチックに添加される低分子量化合物です。これらはポリマー鎖間の分子間力を弱め、Tgを低下させます。

合成プロセス中にこれらの要素を慎重に制御することで、特定のニーズを満たすようにポリマーのTgを調整できます。これらの要素を制御する正確な方法は、扱うポリマーによって異なる場合があることに注意が必要となります。

6.医療用途の詳細

非晶性生分解性ポリマーの活用シーンとして、医療用途への展開は非常に注目されていますので、詳しく説明してみます。

調整可能なTgと生分解性を備えた非結晶性ポリマーは、医療分野で幅広い用途展開があります。

  • 薬物送達システム:これらのポリマーは、温度に敏感な放出制御システムの作成に使用でき、正確な制御、標的治療、及び副作用の軽減が可能になります。例えば、化学療法、抗炎症剤、生物学的因子等の治療薬を送達するために開発できます。

  • 医療用インプラント:生分解性ポリマーは医療用インプラントの作成に使用されます。これらのデバイスはその目的を果たした後は自然に分解するため、外科的除去の必要がなくなります。

  • 組織工学:組織工学では、これらのポリマーは、新しい組織が成長するための一時的な構造を提供する足場として使用できます。

  • 創傷治癒:生分解性ポリマーは、湿潤治癒環境を提供し、創傷部位に治療薬を送達できる創傷包帯に使用できます。

  • 整形外科用器具:これらのポリマーは、骨折固定用のピン、ネジ、プレートの製造に使用できます。これらのデバイスは一時的なサポートを提供しますが、骨の治癒に合わせた速度で分解します。

  • 温度制御システム:有機相変化材料(PCM)に基づく温度制御システムは、大きな蓄熱、正確な温度制御、変更の容易さ等の特性から、医療用途で多大な注目を集めています。例えば、防護服の熱的快適性は、医療スタッフの長期勤務にとって特に重要です。

  • コールドチェーン輸送:これらのポリマーは、医薬品やワクチンのコールドチェーン輸送に使用できます。

  • 医療用繊維:これらのポリマーは医療用繊維の製造に使用できます。

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