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PFASの欧州での規制強化に対する代替品の開発やその他対応動向について


1.PFASとは

PFAS(パーフルオロアルキル物質、及びポリフルオロアルキル物質)は、フッ素化炭素鎖の存在を特徴とする合成物質です。
PFASは、撥油性、撥水性、耐熱性、低表面張力等のユニークで有用な特性で知られており、様々な産業用途で利用されている物質です。

ただし、PFASには環境及び人体の安全性に関する懸念があり、いくつかの重要なポイントは次のとおりです。

2.PFASの懸念点

(1)環境内での持続性

PFASは環境中での残留性が高く、簡単には分解されないため、環境汚染が懸念されます。

(2)生物濃縮

PFASは生物体内に蓄積する可能性があり、食物連鎖の上位に位置する魚や動物を含む様々な種で発生する可能性があり、汚染された食品の摂取を通じて人間の健康にリスクを引き起こす可能性があります。

(3)健康への懸念

ペルフルオロオクタン酸(PFOA)やペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)等の長鎖PFASは、人間の発育・発達への影響、免疫系機能不全、特定のがんリスク増加等の健康問題と関連している報告があります。

(4)規制措置

PFASに関連する環境と健康への懸念により、規制上の監視が強化されています。様々な国や地域で、特定のPFAS化合物の使用を制限する規制が導入されているか、検討されています。具体的には、欧州では、PFASが社会的に必要であると証明されない限り、PFASの使用を段階的に廃止することについて、2022年3月欧州委員会にて議論が開始されました。2023年1月にはPFASを制限することを提案した5か国(デンマーク、ドイツ、オランダ、スウェーデン、ノルフェー)が欧州化学品庁(ECHA)に制限案を提出し、2024年前半を目処に制限案が検討されています。

3.安全な方向への代替オプション

PFASをめぐる懸念の結果、同様の機能を持ちながら環境や健康へのリスクがより低い代替物質の研究開発が進行中です。
すべてのPFAS化合物が同じレベルの残留性又は毒性を持っているわけではなく、安全性プロフィールは特定の化学構造に応じて異なる可能性があることに注意することが重要です。

更に、PFASとその人間の健康と環境に対する潜在的な影響に関する科学的理解は、新しい研究が利用可能になるにつれて進化し続けています。

特定のPFASに関連する環境残留性と潜在的な健康上の懸念を考慮して、これらの物質をより効果的に管理及び規制するための世界的な取り組みが行われており、より安全な代替物質を見つけて生態系や公衆衛生への影響を軽減することの重要性が強調されており、PFASの代替製品の開発は、PFASの環境と健康への影響に対する規制上の監視と懸念の高まりにより、活発な研究と革新が行われています。
具体的な代替品については言及しませんが、いくつかの開発の方向性について、以下の内容で示します。

(1)バイオベースの代替品

企業や研究機関は、再生可能資源に由来するバイオベースの代替品を模索しています。これらの代替品は、環境や健康上のリスクを伴うことなく、PFASと同様の機能を提供することを目的としています。
(ア) 持続可能なポリマー
研究者らは、PFASに代わる、植物由来の材料等のバイオマス由来の持続可能なポリマーの使用を検討しています。これらのポリマーは、PFASに伴う環境問題を引き起こすことなく、撥水性や撥油性等の同様の特性を提供できるように検討しています。
(イ) 酵素ベースのソリューション
一部の企業は、撥水性と撥油性を備えたバイオベースの代替品を作成するために酵素の使用を研究しています。酵素は、従来のPFASと比較して、より環境に優しい選択肢となります。

(2)フッ素を含まない代替品

パーフルオロアルキル化合物やポリフルオロアルキル化合物を含まないフッ素を含まない代替品の開発への関心が高まっています。これらの代替案は、フッ素化化学に依存せずに望ましい特性を達成することに重点を置いています。

 (ア) シリコンベースの化合物
 
シリコーンは、特定の用途においてPFASの代替品として検討されています。シリコーンはフッ素化学に依存せずに耐水性と耐汚染性を提供でき、一般に環境への耐性が低いと考えられています。
 (イ) 炭化水素ベースの界面活性剤
 研究者らは、フッ素を含まない代替品として炭化水素ベースの界面活性剤を研究しています。これらの界面活性剤は、フッ素含有化合物を使用せずに素材に撥水・撥油性を与えるように設計する可能性が高いです。

(3)高度な材料工学

材料科学の革新により、特定の用途でPFASに代わる特性が強化された材料の開発が行われています。研究者らは、性能、耐久性、環境安全性を向上させた材料の開発に取り組んでいます。

 (ア) ナノテクノロジー
 ナノマテリアルとナノエンジニアリングは、独自の特性を持つ先進的な材料を作成するために採用されています。ナノテクノロジーにより材料特性の正確な制御が可能になり、研究者らは特定の用途におけるPFASの代替品としてナノ構造材料を探索しています。
 (イ) ポリマーブレンド
研究者らは、PFASに代わる特性を強化したポリマーブレンドの開発に取り組んでいます。様々なポリマーを組み合わせることで、環境や健康への影響を最小限に抑えながら特定の機能を実現することを目指しています。
 (ウ) 撥水・防汚生地仕上げ
PFASの一般的な用途は、衣類、アウトドア用品、室内装飾品等の生地の撥水・防汚仕上げです。

(4)規制に準拠した製剤

一部の企業は、現在及び予想される規制要件を満たすために、自社の製品を積極的に再製剤化しています。これには、PFASの使用を削減又は排除するために配合を調整したり、代替化学物質を組み込んだりすることが含まれる場合があります。

(5)コラボレーションと情報共有

イノベーションを促進するには、業界内のコラボレーションと関係者間の情報共有が不可欠です。これには、代替材料、テスト方法、進化する規制に準拠するためのベストプラクティスに関する考察が含まれますが、PFASの直接代替品を見つけることは、非常に難易度が高く、企業は様々な対策の導入を検討する必要性があります。

(6)製品ラインの多様化

企業は、非PFAS代替製品を含めるために製品ラインの多様化を検討しています。このアプローチにより、変化する規制や市場の需要に適応できるようになる可能性があります。

(7)サプライチェーンの透明性

PFAS及び潜在的な代替品の使用に関してサプライチェーンの透明性を確保することが不可欠です。この透明性は、企業が規制リスクを早期に特定して対処するのに役立ちます。

(8)継続的な監視とコンプライアンス

規制の変更について常に最新の情報を得るには、堅牢な監視システムを導入することが重要です。企業は、進化する規制に準拠するために自社製品の評価と調整を積極的に行う必要があります。

(9)規制に関する議論への参加

日本フッ素化学製品協議会が行っているように、規制に関する議論に積極的に参加することが重要です。規制当局と連携し、業界の洞察に貢献することは、ビジネスへの実際的な影響を考慮した方法で規制を形成するのに役立ちます。

4.まとめ

PFASに代わる直接的な代替手段の開発は進行中ですが、企業は、多様化、透明性、監視、規制議論への積極的な関与等の積極的な措置を講じて、進化するPFAS規制の状況を乗り切るように対応されています。
PFASの代替品開発状況は急速に進化しているため、企業にとってこの分野の最新の開発状況を理解することが重要です。研究者、業界、規制当局間の協力を得て、イノベーションを推進し、代替品が性能要件と環境及び健康基準の両方を確実に満足する必要があると考えます。
将来への期待と希望も含めて、『材料科学における継続的な研究と進歩により、将来的にはより持続可能な新たな代替品の発見につながる可能性があります。』とコメントとしてまとめます。

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