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第1回ミールワーム解説(ミールワームとは何か?何故研究しているのか?)

こんにちは!
最近、プラスチックリサイクルのビジネスでベトナムとインドネシアを訪問して、驚くべき光景を目にしました。巨大な「ゴミの山」です。日本では当たり前の焼却処理ができず、有機物とプラスチックが混ざった廃棄物が積み重なり、様々な被害が出ています。
この深刻な環境問題に対して、ある"小さな英雄"が注目を集めています。その名も「ミールワーム」。
ミールワームって何?
ミールワームは、ゴミムシダマシという甲虫の幼虫です。一見、何の変哲もない虫に見えますが、この小さな生き物には驚くべき能力が秘められています。
なんと、プラスチックを食べて分解できるのです!
2015年、スタンフォード大学の研究チームが、ミールワームがポリスチレン(発泡スチロールなどの原料)を消化できることを発見しました。これは環境科学の分野で大きな衝撃を与えた発見でした。
まさに「自然の力」を活用した環境問題への解決策です。

ミールワームによる資源循環の可能性について、4回に分けて解説していこうと思います。


1.ミールワームとは何か?

ミールワームは、ゴミムシダマシ科(Tenebrionidae)に属する昆虫の幼虫です。その中でも、特に広く知られている種はゴミムシダマシ(Tenebriomolitor)で、一般的に「ミールワーム」と呼ばれています。ミールワームは、世界中で人工飼育が行われており、その歴史は非常に古いものです。

1.ミールワームの基本情報

• 学名:Tenebrio molitor(ゴミムシダマシの幼虫)
• 分類:昆虫綱、甲虫目、ゴミムシダマシ科
• 形態:体長2~3cm程度の細長い形状で、色は黄色から褐色。幼虫の段階で「ミールワーム」と呼ばれるが、成虫になるとゴミムシダマシという名前で知られる。
• 生態:湿度と温度が適切な環境で繁殖し、穀物や有機物を食料とする。飼育が容易で、成長速度が速い。

2.ミールワームの歴史

• 動物の飼料としての歴史
 • 古代エジプト時代には鳥類の餌として利用されていた形跡がある。
 • 中世ヨーロッパでは、捕獲した爬虫類や鳥類を養うための餌として使用。
• 昆虫食の台頭
 • 20世紀後半から昆虫食への注目が高まり、栄養価の高さと持続可能性から再評価されるようになる。
 • 世界中で昆虫を含む食品(粉末状プロテイン、スナック食品)が商品化される中で、ミールワームはその代表的な昆虫の一つ。
• 現代の利用分野
 • 動物の飼料:爬虫類、鳥類、魚類のエサとして利用。
 • 養殖産業:特に釣り餌としての需要が高い。
 • 昆虫食:21世紀に入ってからは、人間の食料源として注目され、プロテインバーや粉末食品の原材料としても利用されるようになりました。

また、ミールワームはその飼育が簡単で、環境に配慮した資源としても評価されています。わずかな水分とエサで育つことから、大規模な農地や高額な設備を必要とせず、持続可能な資源としての可能性が広がっています。

1)ミールワームが注目される背景

近年、ミールワームが世界中で注目を集めている理由は、その「持続可能性」と「多用途性」にあります。特に以下の3つの要素がその注目度を高めています:

1. 持続可能なタンパク質源としての評価
世界の人口増加に伴い、食料需要が急増しています。その一方で、従来の畜産業は膨大な土地や水資源を消費し、温室効果ガスの排出量も多い為、環境負荷が高いとされています。これに対し、昆虫食は少ない資源で大量のタンパク質を生産できる為、持続可能な食料源として注目されています。ミールワームは、特に高たんぱく・低環境負荷な昆虫として、多くの研究者や食品メーカーの関心を集めています。

2. 農業・食品廃棄物の活用
ミールワームは、農業や食品加工の副産物、さらには家庭から出る食品廃棄物をエサとして活用できる点が大きな魅力です。これにより、廃棄物を資源として循環させるシステムを構築することが可能です。食品廃棄物をエサにして飼育されたミールワームは、最終的に家畜の飼料や人間の食料として再利用でき、廃棄物問題の解決にも寄与します。

3. プラスチック分解能力の発見
2015年にスタンフォード大学の研究チームが、ミールワームがプラスチックを摂取し、消化できる能力を持つことを発見しました。特にポリスチレン(発泡スチロール)等の従来分解が難しいプラスチックを分解できることが確認され、環境問題を解決する生物的アプローチとして大きな可能性を秘めています。この発見は、世界中で「昆虫を利用した廃棄物処理」の新たな道を切り開くものでした。

2)ミールワームのプラスチック分解能力とは?

ミールワームがプラスチックを分解できる仕組みは、主にその体内に存在する特定の腸内細菌によるものです。これらの細菌が生成する酵素は、ポリスチレンのようなプラスチックの分子構造を分解することができます。この過程は「脱ポリマー化」と呼ばれ、以下のように進行します:

1. プラスチックの摂取
ミールワームがポリスチレンを摂取します。

2. 腸内細菌による分解
体内の腸内細菌、特にExiguobacterium属の細菌が酵素を生成し、ポリスチレンのポリマー鎖を短く分解します。

3. 生成物の排出
分解されたプラスチックは、二酸化炭素や無害な有機化合物として排出されます。

このようにして、自然界では分解されないとされてきたプラスチックが、ミールワームの働きによって無害化されます。このプロセスは、化学薬品やエネルギーを使用しない為、非常に環境に優しい手法です。

2.なぜミールワームを研究するのか?

1)ミールワームの研究が進む理由

わたしたちは、このような廃棄物について深刻な課題に直面しています。
そして、その課題に対しミールワームを活用することで、他の環境改善技術では為し得ない利点があるためと考えられています。
以下のような観点から、その重要性を説明します。

1.私たちが直面している課題
• アジアの多くの国では焼却処理が推奨されず、廃棄物が蓄積
• 埋立地での自然発火により、有害物質が放出
• プラスチックごみによる環境汚染が深刻化

2.ミールワームによるプラスチック分解作用による利点
• 化学薬品を使用せず、環境に優しい
• 低コストで実施可能
• 分解後の副産物を肥料として活用可能

3. 廃プラスチック問題の解決

世界では毎年3億トン以上のプラスチックが生産され、その多くが適切に処理されず、環境に深刻な影響を与えています。ミールワームは、この「分解が難しいプラスチック」を処理する手段として期待されています。特に、焼却や埋め立てが困難な国々において、この技術は大きな効果を発揮するでしょう。

4. 循環型社会の構築
ミールワームを用いたプラスチック処理は、従来の廃棄物管理に変革をもたらします。プラスチックを無害化した後の排泄物を有機肥料やバイオマス資源として再利用することで、循環型経済の実現が可能です。

5. 多用途性と市場性
ミールワームは、廃棄物処理だけでなく、食品や飼料としての市場性も持っています。この多用途性は、技術の普及やビジネス展開において大きな強みとなります。

6.発見のきっかけ
2015年、スタンフォード大学の研究チームが、ミールワームがポリスチレン(発泡スチロール)を摂取し、消化する能力を持つことを発見。

7.研究内容
ミールワームの腸内には、ポリスチレンの分子構造を分解する細菌(主にExiguobacterium属)が存在している。
これにより、自然界ではほぼ分解されないプラスチックを短期間で分解可能であることが示された。

8.分解の成果
ミールワーム100匹が、約24時間でポリスチレンの小片を約50%分解。
消化の過程で生成される排泄物は環境負荷の低い物質に変換されることが確認された。

9.ミールワームの特性が研究に適している理由
環境負荷が低い
飼育に必要な設備やエネルギーが少なく、低コストでの運用が可能。
安全性
ミールワームは無害であり、特定の生態系で大きな影響を与える可能性が低い。
多用途性
プラスチック分解に加え、肥料や飼料、食品素材として利用できるため、廃棄物を無駄なく活用できる。

10.プラスチック廃棄物削減への期待
持続可能性の向上
化石燃料由来のプラスチックを自然由来の方法で処理することで、環境への負荷を大幅に軽減。
再資源化
プラスチック廃棄物を処理しながら、飼料や肥料といった資源を生成する循環型モデルの構築が可能。

11.現在の課題
分解速度の限界
現時点では、ミールワームの処理能力が限られているため、大量廃棄物を短期間で処理するには効率化が必要。
社会的認知の不足
昆虫利用に対する抵抗感や、プラスチック分解における信頼性への理解不足。

2)ミールワームがもたらす未来

ミールワームの研究は、まさに「自然の力」を活用した環境問題への解決策です。ミールワームは、単なる昆虫以上の存在です。彼らは、私たちが直面する「廃棄物問題」や「食料問題」に対する答えを持っている可能性を秘めています。プラスチック分解能力の研究は、まだ初期段階ではありますが、これが実用化されれば、環境保全や資源循環の分野に革命をもたらすでしょう。

ミールワームの研究を進めることで、私たちは次のステップに進むことができます。それは、廃棄物が「資源」として活用される未来を築くことです。この未来を実現する為には、技術開発だけでなく、社会全体での理解と協力が不可欠です。

また、社会的・経済的なインパクトもあります。
新たな雇用の創出
ミールワーム飼育施設や廃棄物処理工場の運営に伴う地域雇用の増加。
収益モデルの可能性
プラスチック分解技術を活用したビジネスの成長性は高く、環境ビジネス市場の拡大が見込まれる。
他分野への波及効果
バイオマス製品や昆虫飼料市場の拡大。
新たな昆虫利用技術の開発促進。

環境問題の解決に向けて、小さな虫が大きな可能性を秘めているのです。

この記事では、ミールワームがどのような昆虫であり、なぜ今注目されているのかを解説しました。次回は、ミールワームのプラスチック分解に関する具体的な研究成果についてお話しします。

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