半導体製造工場の水処理技術の最新動向
にわかに脚光を浴び始めた半導体製造工場建設や増設。工事が急ピッチに進んでいますが、並行して環境対策も進めなけでばならないのも、この時代の工場建設には大切なことです。
中でも水処理については『排水処理』だけではないのです。近年の『水処理』とは、異物除去、PFAS規制対応、熱交換、pH調整、再生可能エネルギー等の確度から、設計・施工する必要があり、そこには透明性が高く、迅速に対処できる管理・運営を実施しなければならないのです。
今回は、半導体工場の設計から運営、管理、保全までに導入されている水処理に関する最新の技術やソリューションについてまとめてみました。
1.異物除去
半導体製造には、純水の使用が不可欠であり、異物除去は非常に重要です。最新技術では、以下の方法が使用されています。
(1)逆浸透法(RO):
微細なフィルターを使用して、水中の溶解性固形物やイオンを除去します。
(2)ナノフィルトレーション:
逆浸透法と同様に、高い精度で異物を除去しつつ、特定のイオンを選択的に透過させます。
(3)超純水製造システム:
混合ベッドイオン交換樹脂、電気再生型イオン交換器(EDI)、及び微細フィルターを組み合わせて、極限まで純度の高い水を製造します。
1-1.異物除去手法の課題と解決策と代表的な設備メーカー
(1)逆浸透法(RO)
課題
膜の汚染・劣化:RO膜が水中の微細な汚染物質により劣化し、性能が低下する。
高いエネルギー消費:ポンプによる高圧処理が必要なため、エネルギー消費が大きい。
低い回収率:浄水として得られる水の割合が低く、大量の廃水が発生する。
解決策
プレフィルトレーション:RO膜の前にプレフィルターを設置し、大きな汚染物質を事前に除去することで膜の汚染を防ぐ。
自動洗浄システム:定期的にRO膜を洗浄するシステムを導入し、膜の寿命を延ばす。
エネルギー効率の改善:高効率ポンプやエネルギー回収装置を導入し、エネルギー消費を削減する。
廃水再利用:廃水を再利用するシステムを導入し、全体の回収率を向上させる。
異物除去手法の代表的な設備供給メーカー
GEWater&ProcessTechnologies:高性能なROシステムと膜技術を提供しており、半導体製造向けの高度な水処理ソリューションを提供しています。
DowWater&ProcessSolutions:高品質なRO膜とシステムを提供し、半導体産業において広く採用されています。
TorayIndustries:高性能なRO膜技術を提供し、特に高純度水の製造において信頼されています。
SUEZWaterTechnologies&Solutions:様々な産業向けにROシステムを提供し、高効率な水処理ソリューションを提供しています。
(2)ナノフィルトレーション
課題
選択的透過性の維持:特定のイオンを選択的に透過させるため、フィルターの特性を長期間維持することが難しい。
膜の汚染:ROと同様に、フィルターが汚染物質により劣化しやすい。
高コスト:ナノフィルターの製造とメンテナンスにコストがかかる。
解決策
高度なプレトリートメント:フィルターの前に高度な前処理(例えば、コアグレーションやフロックレーション)を行い、大きな汚染物質を除去する。
定期的な膜洗浄:膜の定期的な洗浄と交換を行うことで、透過性を維持する。
フィルター材料の改良:汚染に強く、選択的透過性を持つ新しいフィルターマテリアルの開発を進める。
コスト削減技術:フィルター製造技術の改良や、メンテナンスコストを削減する技術を導入する。
異物除去手法の代表的な設備供給メーカー
KochMembraneSystems:ナノフィルターを含む多様な膜技術を提供し、半導体製造向けの高度な水処理システムを展開しています。GEWater&ProcessTechnologies:ナノフィルトレーションシステムも提供し、選択的イオン除去に優れたソリューションを提供しています。AlfaLaval:ナノフィルトレーション及び他の膜技術を提供し、産業用途における高効率な水処理ソリューションを提供しています。
Pentair:高性能なナノフィルトレーションシステムを提供し、様々な産業用途に対応しています。
(3)超純水製造システム
課題
複雑なシステム構成:混合ベッドイオン交換樹脂、EDI、微細フィルター等多くの装置を組み合わせるため、システムの管理が複雑。
高コスト:設備導入や運用に高いコストがかかる。
メンテナンス頻度:各コンポーネントの定期的なメンテナンスが必要で、ダウンタイムが発生しやすい。
解決策
システム統合:システムを統合し、管理を簡素化する。例えば、複数の処理工程を一体化したモジュールを使用する。
コスト効率の向上:高効率な再生型イオン交換器や長寿命フィルターを使用し、運用コストを削減する。
予防保守:定期的な点検と予防保守を行い、ダウンタイムを最小限に抑える。
遠隔モニタリング:IoT技術を活用し、システムのリアルタイムモニタリングと遠隔管理を行うことで、迅速な対応を可能にする。
異物除去手法の代表的な設備供給メーカー
VeoliaWaterTechnologies:総合的な超純水製造システムを提供し、半導体製造向けの高純度水を供給しています。
PallCorporation:高性能な超純水製造システムを提供し、半導体産業における厳しい水質基準を満たします。
EvoquaWaterTechnologies:混合ベッドイオン交換樹脂、EDIシステム、及び微細フィルターを含む超純水製造システムを提供しています
KuritaWaterIndustries:高度な超純水製造システムを提供し、半導体製造向けの信頼性の高い水処理ソリューションを展開しています。
これらのメーカーは、各種異物除去技術のリーディングカンパニーであり、半導体製造における水処理の課題を解決するための高性能な設備と技術を提供しています。
2.PFAS規制対応
PFAS(パーフルオロアルキル物質)の規制が強化される中、これに対応するための技術が進化しています。
(1)高度酸化プロセス(AOP):
オゾン、過酸化水素、紫外線を使用してPFASを分解します。
(2)吸着法:
活性炭やイオン交換樹脂を使用して、PFASを吸着し、除去します。
(3)ケミカルリサイクル:
PFASを化学的に分解し、無害な物質に変換する技術が開発されています。
2−1.PFAS規制対応手法の課題と解決策、及び代表的な設備供給メーカー
(1)高度酸化プロセス(AOP)
課題
運用コスト:オゾン、過酸化水素、紫外線を用いるため、運用コストが高くなることがある。
処理時間:PFASの分解には時間がかかる場合がある。
副生成物:完全に無害な物質に分解されない場合、副生成物が発生する可能性がある。
解決策
プロセスの最適化:オゾン、過酸化水素、紫外線の使用量と組み合わせを最適化し、効率を最大化する。
エネルギー効率の改善:高効率の紫外線ランプやオゾン発生装置を使用し、エネルギーコストを削減する。
副生成物の処理:副生成物をさらに処理するための追加の処理ステップを導入する。
PFAS規制対応手法の代表的な設備供給メーカー
Xylem:高度酸化プロセス用の装置を提供しており、水処理ソリューションを幅広く展開。
EvoquaWaterTechnologies:オゾン及び紫外線処理装置を提供し、PFASの分解に効果的なソリューションを提供。
SUEZWaterTechnologies&Solutions:オゾン及びUVシステムを提供し、高度酸化プロセスに強みを持つ。
(2)吸着法
課題
吸着材の寿命:活性炭やイオン交換樹脂は一定期間使用後に劣化し、交換が必要。
廃棄物管理:使用済みの吸着材の廃棄が課題となる。
選択性の限界:吸着材は特定のPFASに対して効果的だが、全ての種類に対応できないことがある。
解決策
吸着材の再生:吸着材を再生して繰り返し使用することで、コストと廃棄物を削減する。
新規吸着材の開発:長寿命で高い選択性を持つ新しい吸着材の開発を進める。
複合吸着材の使用:複数の吸着材を組み合わせて使用し、広範囲のPFASに対応する。
PFAS規制対応手法の代表的な設備供給メーカー
CalgonCarbon:活性炭吸着システムのリーディングカンパニーであり、PFAS除去に広く採用。
Purolite:イオン交換樹脂の製造・供給を行っており、PFAS除去に有効なソリューションを提供。
JacobiCarbons:活性炭吸着技術の専門企業であり、環境浄化向けの製品を提供。
(3)ケミカルリサイクル
課題
技術の成熟度:まだ研究開発段階の技術が多く、商業化が進んでいない。
コスト:化学的分解プロセスには高コストが伴うことが多い。
安全性:化学反応による処理のため、取り扱いに注意が必要。
解決策
技術開発の促進:研究開発を進め、商業化可能な技術を確立する。
コスト削減:スケールアップによりコストを削減し、経済的に実行可能なプロセスを確立する。
安全対策の強化:安全な取り扱いと操作が可能なシステムを開発し、リスクを最小化する。
PFAS規制対応手法の代表的なメーカー
3M:PFASに対するケミカルリサイクル技術を研究開発中。
Solvay:ケミカルリサイクル技術の開発を進め、環境負荷の低減に取り組んでいる。
Honeywell:ケミカルリサイクル技術を含む先進的な環境浄化技術を提供。
これらの手法とメーカーは、PFAS規制対応において重要な役割を果たし、環境保護と持続可能な運用を実現するための最先端技術を提供しています。
3.熱交換
排熱を効果的に利用するための技術も進んでいます。
(1)吸収冷凍機:
廃熱を利用して冷却するシステムです。半導体工場では、クリーンルームの冷却に使用されます。
(2)ヒートポンプ:
廃熱を再利用し、工場内の暖房やプロセス加熱に活用します。
(3)熱電発電:
廃熱を電力に変換する技術で、エネルギー効率を向上させます。
3-1.熱交換技術の課題と解決策、及び代表的な設備供給メーカー
(1)吸収冷凍機
課題
初期投資コスト:吸収冷凍機の導入には高額な初期投資が必要。
効率低下:部分負荷時や低温の排熱源では効率が低下する可能性がある。
メンテナンス:装置のメンテナンスが複雑で、専門的な知識が必要。
解決策
コスト削減:スケールメリットを活かした大量生産や、補助金・税制優遇措置の活用で初期投資コストを削減。
運用最適化:複数の熱源からの排熱を統合して使用し、効率的な運用を確保する。
予防保守:定期的なメンテナンス計画とリアルタイムモニタリングシステムを導入し、トラブルを未然に防ぐ。
熱交換技術の代表的なメーカー
YazakiEnergySystems:吸収冷凍機のリーディングカンパニーであり、高性能な冷却システムを提供。
JohnsonControls:吸収冷凍機を含む多様な冷却ソリューションを提供し、半導体産業にも対応。
Thermax:廃熱利用の吸収冷凍機システムを提供し、エネルギー効率の向上を図る。
(2)ヒートポンプ
課題
効率の変動:外気温や廃熱の温度により、ヒートポンプの効率が変動する。
初期コスト:高性能なヒートポンプの導入には初期投資が必要。
メンテナンスと寿命:維持管理が必要で、長寿命化のための対策が求められる。
解決策
適切な選定:使用環境に適したヒートポンプを選定し、効率を最大化する。
補助金の活用:国や地方自治体の補助金や税制優遇措置を活用して初期コストを削減。
メンテナンス計画:定期的なメンテナンスと予防保守プログラムを導入し、装置の寿命を延ばす。
熱交換技術の代表的なメーカー
DaikinIndustries:高性能なヒートポンプシステムを提供し、工業用途にも対応。
MitsubishiElectric:様々な産業向けに高効率なヒートポンプを提供し、エネルギー効率を向上。
TraneTechnologies:商業及び産業用のヒートポンプシステムを提供し、信頼性の高いソリューションを展開。
(3)熱電発電
課題
変換効率:熱から電力への変換効率が低く、商業的に実行可能なシステムが限られている。
材料のコスト:高効率の熱電材料は高価であり、大規模導入のハードルとなる。
熱源の管理:一定の温度差を維持する必要があり、熱源の管理が難しい。
解決策
技術開発:高効率で低コストの熱電材料の研究開発を進める。
スケールメリット:大規模導入により、コストを削減し、経済的に実行可能なシステムを確立。
複合利用:熱電発電と他のエネルギー回収技術を組み合わせて、全体のエネルギー効率を向上させる。
熱交換技術の代表的なメーカー
AlphabetEnergy:熱電発電技術を提供し、産業廃熱からの電力生成に取り組む。
Energica:産業用途に適した高効率熱電発電システムを提供。
ThermoElectricPowerSystems:高性能な熱電発電モジュールを提供し、様々な産業分野で利用可能。
これらのメーカーは、それぞれの分野で先進的な技術を提供し、半導体製造工場における廃熱利用とエネルギー効率の向上に貢献しています。
4.pH調整
半導体製造プロセスでは、酸性やアルカリ性の化学薬品が使用されるため、排水のpH調整が重要です。
(1)自動pH調整装置:
センサーと制御装置を使用して、排水のpHをリアルタイムでモニタリングし、酸やアルカリを自動的に添加してpHを調整します。
(2)バッファシステム:
酸とアルカリの混合を防ぎ、一定のpHを維持するためのバッファ溶液を使用します。
5.再生可能エネルギー
環境負荷を軽減するため、再生可能エネルギーの活用が進んでいます。
(1)太陽光発電:
工場の屋上や敷地内にソーラーパネルを設置し、電力を供給します。
(2)風力発電:
風力タービンを設置し、補助的な電力供給源として利用します。
(3)バイオマス発電:
有機廃棄物を利用して発電し、工場のエネルギー供給に寄与します。
6.環境負荷を増加させない消耗品の処理方法
半導体製造工場では、フィルターや吸着材等の消耗品が使用されます。これらの処理に関する最新の取り組みとして、以下のような方法が採用されています。
消耗品の処理方法
リサイクル:使用済みフィルターや吸着材を再生処理し、再利用可能な状態に戻す。
ケミカルリサイクル:化学的に分解し、無害な物質として再利用する技術の開発。
無害化処理:焼却ではなく、低温プラズマ処理等で有害物質を無害化する方法。
具体的な実施例
3Mのフルオロケトン技術:3Mは、PFASの代替物質としてフルオロケトンを開発し、環境と健康への影響を軽減しています。
ダイキンのHFO研究:ダイキンは、R1234yfの代替冷媒としてHFOの研究開発を進めています。
日本の先進的CCSプロジェクト:CO2の回収と利用を目的としたプロジェクトが進行中で、特に液化炭酸や炭酸塩への固定が行われています。
これらの技術と取り組みは、半導体製造工場の環境負荷を大幅に削減し、持続可能な運用を実現するための重要な要素となっています。
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