廃棄プラスチックを救おう!(マテリアルリサイクルの現状と技術動向)
マテリアルリサイクルの現状と課題
プラスチックのマテリアルリサイクルは、多種多様な廃棄プラスチックを適切に処理し、再資源化するために多くのプロセスと技術を駆使しています。本記事では、廃棄プラスチックのリサイクル現状、技術、課題、そして今後の展望について詳しく解説します。
1.廃棄時の状態
プラスチック廃棄物は、様々な形態で廃棄されます。以下はその代表的な例です。
固まった溶融樹脂:工場での生産過程で生じる端材や不良品。
インゴット:再利用を前提として溶融し固められた大きなブロック。
成形体:使用済みの自動車バンパーや家電製品の外装部品。
食品包装資材:食品残渣や油が付着した状態のフィルムや容器。
複合素材:使用済み自動車部品や家電製品など金属部品がインサートされた成形品や、多層構造の食品包装フィルム。
この多様性が、リサイクルプロセスを複雑にしています。
2.廃棄物回収方法の現状と効率化の工夫
多くの自治体は戸別収集や集中回収ポイントに依存していますが、汚染や非効率的な選別が課題です。
現状の方法:
自治体回収:家庭から出るプラスチックごみを定期的に収集。焼却・埋立が主目的でリサイクルは限定的。
企業の回収:製造業者や販売業者が発生する廃プラスチックを自社で回収。
専用業者による回収:廃棄物処理業者が契約企業から回収するが、これも主に焼却・埋立が前提。
効率化の工夫:
専属リサイクル業者の回収:リサイクルを目的とした専属業者が廃棄物を回収。
ソースでの分別の徹底:消費者や企業による正確な分別を奨励し、回収されたプラスチックの品質を向上。
IoTを活用した回収:IoTデバイスを使用して、回収ルートやスケジュールを最適化し、効率とコストを改善。
改善のアイディア:
RFIDタグを用いた自動選別システム。
逆自動販売機型の回収インセンティブプログラム。
AI搭載廃棄物認識システム。
先進事例:
ロッテルダム市のスマートセンサー付き地下廃棄物コンテナは、収集ルートを最適化し、コストを20%削減しました。
まとめ:
自治体や一般廃棄物処理業者による回収は、主に焼却や埋立を前提としており、リサイクル目的ではないことが多いです。これをリサイクル材として販売する場合、適切な手続きを経なければ脱税の温床となる可能性があります。従って、リサイクルを目的とした回収には、専属業者による体系的な管理と適切な税務処理が不可欠です。
3.分別プロセスの現状(人間の手から最新技術へ)
現状:
多くの施設が依然として手作業による選別に頼っていますが、労働集約的でエラーが発生しやすい問題があります。
分別プロセスは、廃プラスチックを種類ごとに分ける重要な工程です。現状では以下の方法が主に使われています。
手作業分別:精密な選別が必要な場合に使用。
機械的分別:シュレッダーやスクリーンで大まかに分別。
近赤外(NIR)分光法:プラスチックの種類を識別。
X線蛍光(XRF):添加物や汚染物質を検出。
AI・機械学習:識別精度の向上。
4.分別プロセスに用いる現状技術と最新技術
現状技術:
シュレッダー:大きなプラスチック片を細かく破砕。
スクリーン:粒径ごとに分別。
磁選機:金属部品を除去。
最新技術:
NIR分光装置:TomraSortingSolutionsの「AUTOSORT」。NIR分光法とAIを組み合わせ、99%の選別精度を達成しています。
光学式分別機:Satakeの「FMS2000」。
エアセパレーター:軽量プラスチックと重量プラスチックをエアフローで分別。
5.粉砕プロセスの現状
粉砕プロセスでは、廃プラスチックを小さな粒状にします。以下の方法が一般的です。
一次破砕:大きなプラスチック片を細かく破砕。
二次破砕:細かく破砕されたプラスチックをさらに微細な粒状に。
企業と技術:
Vecoplan:産業用シュレッダー「V-ECO」シリーズ。
WEIMA:二軸破砕機「W5.22」。
6.粉砕プロセスに用いる現状技術と最新技術
現状技術:
高速ロータミル:大量処理に適合
ハンマーミル:回転するハンマーで破砕。
カッターミル:刃で切断しながら粉砕。
最新技術:
極低温粉砕:液体窒素を用いて脆化させ、効率的に粉砕(HosokawaMicron)。
超微粉砕機:Pallmannの機械は高速衝撃により超微細な粉末に。
7.洗浄プロセスの現状
洗浄プロセスでは、廃プラスチックから汚れや不純物を除去します。以下の方法が一般的です.
水洗浄:水を用いて汚れを除去。
化学洗浄:化学薬品を用いて油分や食品残渣を除去。
企業と技術:
HerboldMeckesheim:プラスチック洗浄システム「Turbowash」。
KraussMaffeiBerstorff:洗浄機「WAS350」。
8.洗浄プロセスに用いる現状技術と最新技術
現状技術:
回転ドラム洗浄機:回転させながら洗浄。
超音波洗浄機:超音波を用いて微細な汚れを除去。
摩擦洗浄機:ラベルや接着剤の除去。
浮遊タンク:密度による分離。
化学洗浄:頑固な汚染物質の除去。
最新技術:
バイオ洗浄:バイオエンザイムを利用した洗浄技術(Algaewheel)。
プラズマ洗浄:PlasmaTreatはプラズマを用いて表面の汚れを除去。
Lindnerのミクロマットシリーズ:適応型切断システムによる効率向上。
HerboldMeckesheimのステップ洗浄システム:PETフレークの高純度化を実現。
9.粉砕・洗浄後の素材をペレット化するための押出機に関する現状技術と最新技術
現状技術:
単軸押出機:シンプルな構造でコストが低い(Coperion)。
二軸押出機:混練性能が高く、複数の素材を均一に混合(Leistritz)。
メルトフィルトレーション:押出中の汚染物質除去。
オンライン粘度測定:品質の一貫性確保。
最新技術:
EREMAのINTAREMA®システム:予備調整と押出を統合し、効率と品質を向上
高トルク二軸押出機:高粘度材料の処理能力が向上(Bühler)。
デジタル制御システム:Milacronのシステムはリアルタイムでプロセス全体をモニタリングし、最適化。
10.各リサイクル樹脂の活用方法と課題
(ア)単一リサイクル素材での製品化事例
• 技術紹介:使用済みPETボトルを再生PETボトルに加工。
• 製品事例-1:コカ・コーラの100%リサイクルPETボトル課題:複数回のリサイクルによる品質劣化
• 製品事例-2:再生PETボトル、再生プラスチック製デッキ材。
(イ)リサイクルされていないバージン素材にリサイクル素材を一定割合で混合して活用する事例
• 企業:トヨタ自動車
• 技術紹介:自動車部品に再生プラスチックを20%混合して利用。
• 製品事例-1:自動車の内装部品。
• 製品事例-2:アディダスのPrimeblue製品(海洋プラスチック使用)課題:性能とリサイクル含有量のバランス。
(ウ)RPFなど燃料に活用する事例
• 企業:JFEエンジニアリング
• 技術紹介:RPF製造設備で廃プラスチックを固形燃料に加工。
• 製品事例:RPFを利用した発電、RPFを燃料とするセメント工場。課題:一定の熱量維持と低排出。
11.上記内容を踏まえた上での現状の課題・問題点と解決策や解決に向けた実証実験事例の紹介
現状の課題・問題点:
品質のばらつき:異なるプラスチック種類や汚染物質が混入。
コスト高:リサイクルプロセス全体のコストが高い。
技術的限界:完全な分別が難しく、リサイクル効率が低い。
汚染:混合プラスチック廃棄物の汚染。
劣化:リサイクルによるポリマー特性の劣化。
経済性:経済的実行可能性の確保。
解決策:
AIとIoTの導入:分別や洗浄工程の自動化と最適化。
公的支援:政府の補助金や税制優遇措置。
新技術の開発:低コストで高効率な分別・洗浄技術の開発。
化学リサイクル:LoopIndustriesのPET脱重合技術。
相溶化剤:ダウ・ケミカルの多層包装用添加剤。
トレーサブル添加剤:SecurityMattersの分子タグ付け技術。
実証実験事例:
AIを用いた自動分別システムの導入実験:AIが廃プラスチックを自動で識別し、効率的に分別するシステムの開発。
新型洗浄剤の実証実験:バイオエンザイムを用いた洗浄技術の効果検証。
12.AIやIoTの技術を用いた今後のマテリアルリサイクルの展望・方向性
展望・方向性:
スマートリサイクル工場:IoTセンサーとAI技術を組み合わせ、リアルタイムでプロセスを最適化するスマートリサイクル工場の構築。並びに廃棄物収集最適化。
デジタルツイン技術:工場全体のデジタルモデルを作成し、シミュレーションと実データの比較による効率化。
高度なデータ解析:ビッグデータを活用して廃プラスチックの流通を最適化し、需要予測や供給計画を精緻化。
データ信頼性向上:ブロックチェーンによるサプライチェーンの透明化。
省人化・高精度化:AI駆動ロボットによる高精度選別。
先進事例:
ZenRoboticsのAI駆動ロボット選別システムは、複数材料の同時識別・選別を実現し、リサイクル率向上と労働コスト削減に貢献しています。
13.まとめ
プラスチックマテリアルリサイクルは、複雑な課題に直面しています。プラスチック廃棄物のマテリアルリサイクルは、多様な廃棄物状態、分別、粉砕、洗浄、ペレット化など多くのプロセスを経て行われます。最新技術の導入と公的支援、AIやIoTの活用や先端技術科学の統合により、リサイクル効率の向上が期待されます。今後も継続的なイノベーションと実証実験を通じて、持続可能なリサイクルシステムの構築が進み、プラスチック廃棄物を最小限に抑え、貴重な資源を保護する循環型社会の実現に近づくことができると思っています。