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かえりみちのはなし

起きれない君を1時間前から少しずつ起こす。
学校に連れて行って、
2時間の授業の間、学内のカフェでパソコンをする。
絵文字を作るしごとがあった。
お昼には近くのお店のお刺身定食を食べる。
午後の授業が終わったら、
小さい門からキャンパスを出て、無縁坂を降りて、
池の周りを歩いて、
鳥のボートに鳥がとまってるね とか話す。


ベランダから池が見えて、でもあんまり見なかった。煙草を吸って、網戸越しにドット絵みたいになった君の寝顔を見て、君の目が好きだから目が開いていると嬉しいって伝えた。


池の方歩こう 新しい銅像ができてる あの二人なんかいい感じだね 冬が終わったらボートに乗ろうよ いつもカレーばっか食べちゃうよね 昼カレー夜カレー 不忍池は蓮が枯れてる時期が長すぎる あ、またいい感じの二人 帰ったらアニメの続き見よう


小学生になってすぐの頃、ままに無視された私は拗ねてはじめて仮病で寝てみた。そしたら本当におなかがふわふわ気持ち悪くなって、それから十数年おなかのふわふわに苦しめられた。仮病からほんものの病気ができた。恋の時はおなかがふわふわする。病気じゃない恋はなかった。


インターネットで見た人に、親近感を感じる人は多いらしい。画面の向こうからは本当はこちらが見えていないのに。神様は本当は人間で、私と同じお酒を飲んだ。人間が神様になる過程に興味があるんですって言ったら神様は辯天堂のベンチに立ち上がって笑ってた。君は人間みたいに簡単に恋をした。


エモいってしょうもない。しょうもなくなりたかった。バカみたいだねってもっと言われたかった。池に浮かぶ鴨、下から水ごと掬ったら捕まえられそうだねとか言ってバカみたいだって笑われて、池の柵に止まるゆりかもめ見てゆりかもめのうた歌って、笑った。二人がバカみたいで笑った。


眠れない私の手を、眠りながらでも握ってくれる。
好きな人の名前は私の好きな色で、それは結構光みたいだった。塾で生徒に問題を解かせてる間、口の中で名前を呼んだ。
君は名前を欲しがった。神様用じゃない名前。何回もそれを唱えて、それで君がベッドから送ってくれたボイスメッセージを聞いて、いつでも眠れなかった。


「でも本当は、神様みたいな人を好きになることも、自分を神様みたいに思うことも、どっちもだめなんだよ」


新しい男の子に、元恋人の話ばっかりでごめんねって思う。朝からバイトの男の子と男の子の家を出て道でコンタクトを外して道に捨てた。目が見えなくても歩ける道を通って、別れても生活圏が変わらないのは痛かった。ドンキでカラコンを買ってアトリエで4限まで寝たり寝なかったりした。


元恋人の家で見た、夏の日も雪の日もどっちも出てくる夢。ブラジルみたいなカラーリングのTシャツを着た男の子が、雪の日にも話したことがあるよねって言う。
私と話していた男の子が誰だったか、起きたら分からなくなってた。でも運命だって思った。夢の中で思った。そのことが夢の外でもずっとうれしくて、本当は運命じゃないから夢を見るのをやめようと思う。


インターネットに好きな人が流れてくる。
好きな人のことを好きな人が流れてくる。
光みたいだった名前が/顔が/話した言葉が/着ていた服が/一緒に食べたご飯が/眠ったベッドがみんなにもわたしと同じように見せられている。
かみさまはいつでも光のところにいて、
かみさまは食べられる言葉をくれて、
かみさまは最後には私を救ってくれる。
それでかみさまは、いつだってみんなのものだった。

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