ペス

   私の家にペスと名付けたとてもかわいらしい小さな(茶色の斑点の)子犬がいました。近付くとしっぽをさかんにふり足もとによって来ます。
 わたしの母親が、夕飯仕度の市場の帰りに拾ってきた子犬でした。母の足にからみつき、いつまでも ついてきたそうです。飼い犬が放し飼いの時代でしたから、犬は近所のあちこちにいました。 

    ペスはやがて大きくなりました。利口な犬でした。ペス、ペスと呼ぶとどんな時も、(どこにいたのか)いちもくさんに駆けつけてきます。
 ペスの寝床は、家と軒続きの裏の物置で、物置に敷いたムシロがペスの寝床です。  ペスはけっして物置の中ではオシッコをしませんでした。物置と家が軒続きなので夜になると戸締まりをしてしまいます。  母の話なのですが、ある夜わたしの父が(いつもどうり酒に酔い)就寝中の夜明け方 、ペスが裏の戸をひっきりなしに叩いていたそうです。ペスはオシッコのために外に出たかったのです。父は(酒の酔いもあったのか)終始無視だったそうです。ペスはその時、膀胱を痛めたのではないだろうか、いまでも心配になります。

 それから10年は経っていたと思います。ある日、裏庭(普段は行かない場所)の片隅に大きなウドが生えているのを見つけました。どうしてこんな所にこんな大きなウドが生えているのだろう。そうだ!この場所は、かってペスを埋めた場所だ!ペスのことが 急に昨日のように思い出されました。
    私はその後、犬は飼っていません。時々、ペスとの日々を思い出します。子犬の頃のペス、大きくなってからのペス。

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