ー安楽死を宣告された猫との35日間ー 19日目
BAKENEKO DIARY /DAY 19. 猫の記憶力
散歩をはじめて数日経ち、ミータは外に出るときには「リードを付ける」ことを覚えた。外に出たいときは洗濯干し場に行き、リードを装着してもらえるのを待つ。まず頭を通すと、右足はすぐに自分で適正な場所に入れられるが、麻痺の残っている左足はできない。なので、私がそっと左足を持ち上げて左足用の場所に入れるが、痛みがあるのか「ニャア」と小さく鳴く。リードを付けるのは、”嫌々“という感じで少しかわいそう。
元気が出てきたからか、以前は自由に出入りしていた場所へも行きたがるようになった。たとえば、庭に隣接する裏のおじさんの畑やフェンスを隔てた隣のお宅の庭。ミータは毎日のようにおじさんの畑でトカゲをつかまえたり、隣の庭のミカンの木の下で遊んだりしていたのだ。しかし、田舎とは言えそこはあくまで他人の土地。ミータのリードをつかんで、私がじっと立っているわけにはいかない。それでミータがそっちへ行こうとすると、「ミータ、だめ」と言ってリードを引っ張る。何度か引っ張ったり、押さえつけたりしていると、ミータは私が気を抜いているときに、目を盗んでサッととそっちへ行こうとするようになった。以前のことも覚えているし、新しいこともすぐに覚える。猫は記憶力が良くないというのは本当なのかな?と思う。
事故の前から、ミータの記憶力には感心していた。一度、獣医さんに「子猫のときに兄弟の猫と離れ、3ヶ月後に再会したらどうなりますか?」と聞いたことがある。獣医さんは「猫の記憶力はそんなにもちません。再会したら、もう他人の猫と同じです」と言った。「犬は3日の恩を3年忘れないが、猫は3年の恩を3日で忘れる」というホントかウソかわからない話も聞いたことがある。でも、ミータのことしかわからないが、私は猫の記憶力は人間と同じくらいあるのでは?と思ったりする。
ミータを連れて、2度引越しをした。もともと今の家がある場所に住んでいて、ミータはここで野良猫として私たちの前に現われた。前の家は築80年以上でとても古かったので建て替えることになり、隣の町に仮住まいのために引っ越した。それから1年半ほど後に、今の家が完成したので再び引っ越して戻ってきた。
隣町に引っ越したとき、ミータはなかなか引越し先の家になじまなかった。その家は田んぼのそばにあって、環境的には元いた場所とそう変わらない。けれど数日間、ミータは押し入れの奥に閉じこもり、明らかにふさぎこんでいた。慣れてからは毎日外に出かけたけども、前のように外でゆっくりすることはなく、短時間で戻ってきた。トイレは家の中のものを使い、昼寝はいつもベランダ。近所の猫ともちっとも仲良くならず、たまに遭遇するとすごい勢いでわめきながら家に帰ってきていた。
2度目の引越しは元いた場所、ミータにとっての故郷に戻ったことになるが、家そのものは建て替えたのでぜんぜん違う。もちろん1年半、ミータが戻ってきたことはなかったし、外構も変わっている。私はミータにとっては新しい土地と同じだろうな、前の引越しの時と同様、しばらく引きこもるのかなと予想していた。ところが、新しい家にミータはすぐに慣れた。引っ越してきて数時間は部屋の奥でおびえていたけれど、あっという間に猫ドアの使い方を覚え、悠然と外に出かけるようになった。さらに、近所の猫と出会ってもおびえないし、怒らない(仲が悪い猫はいるけど)。「この場所知ってる」とか「あの猫、前から友だちの〇〇ちゃんね」と感じているようにしか見えなかった。ミータの記憶、1年半たってもしっかり残ってる!?
猫の記憶力が長い、というのは私の願望でもある。交通事故にあってしまったけども、やっぱりミータには室内飼いは無理そう。それはつまり、事故の危険性が常について回るということ。でも、もし事故で大けがをしたことを覚えているなら、これからは道路へは出ないかもしれない。でも、事故や入院が辛い記憶としてミータのなかに残るとしたら…
残ってほしい記憶とない方がいい記憶。難しいな。