ー安楽死を宣告された猫との35日間ー 16日目
BAKENEKO DIARY /DAY 16. ミータは“いい猫”
消毒のために病院へ。チューブの挿入部分が赤くなっているとA 先生が言う。
「かゆいみたいなので、薬を変えますね。あとどうですか、食べてますか?」
「はい。少し、食べ始めました。」
「量は、前の半分くらいいけてます?」
「いえ、それはぜんぜん。」
「体重もまた少し減っているのでね、チューブからの栄養補給はもうしばらく続けましょう。」
A 先生が診察室から出て行かれ、看護師さんが包帯をまき直してくれる。ミータは看護師さんたちにさわられてもおびえる様子もなく、じっとしている。入院で病院に慣れたのかな?と考えながら眺めていると、看護師さんが私にたずねた。
「外に行きたがりますか?」
「あっ、はい…どうしても行きたいようで。あの、少し出してみました。」
「そうなんですね。リードを付けて、出してあげたらいいですよ。ミータちゃんの気分転換になりますから。」
良かった~。A先生からは外に出さないでと言われていたが、看護師さんはわかってくれていた。そして、ミルクが固まってカピカピになった背中の毛束を丁寧にほぐして、取れる固まりを取り除きながら言った。
「こんなにいい猫なんですからねえ。良くなってもらわないと。」
びっくりした。ミータは野良猫出身のありふれたキジトラで、人なつこいわけでも、スタイルがいいわけでも、美猫というわけでもない。正直、飼い主以外は「かわいい」とは感じない外見だなと思っていた。それなのに。“いい猫”だなんて。
ただ本当に、私にとってミータはずっと“いい猫”だ。ミータが来てから8年ほどになるが、別にラッキーなことがあったわけではない。帰宅すると玄関まで出てきてくれたり、帰るのが遅くなっても怒ることなく「エサほしい~」とうれしそうに寄ってきたり(実は怒っていたのかもしれないが)。相性の悪い猫が来るとどんなになだめても大声で怒り、雷が鳴るとツチノコのような歩き方で部屋の奥に隠れる。だから何っていうようなささいなことばかりだが、飾らず媚びず繕わず、存在そのものがピュアで「信じられる」。これはミータに限らず、猫全般の特長なのかもしれないが、「信じられる」存在が近くにいることは、とても安心できる。その意味で、ミータは私に安心しか与えてこなかった。
夕方、ホームセンターに行って赤いリードを買った。おむつもケージも購入したものの全く使わなかったので、一番簡易で安いの。夕方、外に出たそうなミータに装着して、早速、外に出した。これを付けておけば、万が一、大きな音や他の猫に驚いて走り出しても安心だ。嫌だろうけど、しばらくはリード付きの散歩だよ~、ミータ。