ー安楽死を宣告された猫との35日間ー 5日目
BAKENEKO DIARY /DAY 5. ミータがぶるった!!
入院以来、ミータに会っていなかった夫のPが、仕事を早めに終えて病院に行くと言う。鼻の骨折はどうなるのか、脚の麻痺はどうなるのかなど、私に聞いても埒があかないことをA先生に直接たずねたいらしい。娘Sはテニスの練習があり、ミータのことを気にして行きしぶっていたが、少しでもミータのことを考えない時間を作る方が良いと思い、そちらへ行かせた。
病院でPと待ち合わせ。ミータはまだICUにいるが、意識ははっきりしているようだ。立ち上がらないし、ぼーっとしているし、口は半開きで、よだれや血の固まったものがついているのは変わらない。しかし、名前を呼ぶと尻尾をふにゅふにゅと動かす。Pは、「尻尾が動いてるから、大丈夫なんじゃない?」と楽観的なことをいう。そう思いたい、思いたいけど、まだ排泄もできないし、立ち上がることもできない。
PがA 先生と話しているのを聞きながら、ICUケージのドアを開けてもらって、ミータを眺める。毛がボサボサだ。尻尾は動いているけど、わかってやっているのだろうか。A 先生は、排泄ができるかが第一関門、麻痺はどこまで残るかわからない、鼻の骨折や舌の怪我は自然に治るのを待つしかないことなどをPに話していた。
「ミータ。ミーちゅん、痛かったねえ。口が痛いねえ。そうか、口が痛いのか~。」
Pが、Sが赤ちゃんの時でもそんな話し方してなかったぞ、というような口調でミータに話しかける。看護師さんはなでてあげてください、と言うが、頭も口も、身体もどこか痛いのではと思うと、どこをなでれば良いのかわからない。おそるおそる、カピカピになった背中をさわる。
Sに見せようと、スマートフォンでミータの動画を撮っている時だった。頭を動かしづらいからか、こっちを見ようともしないミータが、身体をぶるっと震わせた。猫を飼っている人ならわかるだろう。猫が毛を逆立てるような、全身の毛を振り払うような、肩を入れ直すような感じでやる、あの、ぶるっ。一日に何度でもやる、あれ。顔を上げることすら辛そうでも、“ぶるっ”ができたのだ!
すごい、すごい。私も、Pも驚いた。身体を動かせたじゃないか。
普通ならなんでもないような些細な仕草が、回復への一歩に感じられた。
※この下にICU内の画像があります。(そんなにコワイ写真ではありませんが)