ー安楽死を宣告された猫との35日間ー 9日目
BAKENEKO DIARY /DAY 9. シシシと笑っていたい
こんなことで笑いが止まらないなんて。私ではなく、娘Sのことだ。病院に行くと、看護師さんがミータを面会室に連れてきてくれた。少し動けるようになったので、処置台の上ではなく床に毛布を敷いてもらって、その上にいる。すぐに座り込んでしまうけれど、広い場所に来ると、ヨロヨロを立ち上がる。ミータ、立つのが上手になったね。
さらに、今日は新しい動き。後ろ脚で顔をかいた! 猫としてはフツーの当たり前の動作。そして、まだあちこちに固まった血の付いた顔を、前脚でこする。これもフツーのこと。その様子を見て「シシシ、シシシ」と奇妙な笑い声をあげるS。
「ミータ、そんなにかいたら、また血が出るよ。シシシ。うわあ、そんなにこすって。シシシ。シシシ。」
笑い続けるSの様子がおかしくて、私も顔がにやける。その時、ノックの音がして、A 先生が入ってこられた。
「いけそうなんで、退院してもらおうと思います。とりあえず口から食べられるようになるまでは、自宅で食道チューブから高カロリーミルクを入れてください。チューブを付けていても、口からも食べられますから、できるだけ挑戦させて。今まで食べていた量の半分くらいまで、口からとれるようになるといいんですが。それから、当分は絶対、外に出さないでください。段差を飛びおりたりしてしまうと、近くでも帰ってこられなくなります。」
相談の結果、明日の夕方に退院ということになった。後から理由はわかったが、この時、ミータの背中の毛は、あちこち固まってカピカピだった。首元に食道チューブを包帯でゆるめに固定してもらっているし、元気なときのように、首を背中までまわしてなめたりすることはない。以前のようなフワフワの毛に戻るのかな、痩せてしまったし、目もよく見えていない気もする。食道チューブからの給餌も、うまくできるだろうか。いろいろ不安はある。でも、ここまで来たのだ。明日を楽しみにして、今はとりあえず「シシシ」と笑っていたい。