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ー安楽死を宣告された猫との35日間ー 6日目

BAKENEKO DIARY /DAY 6. 一般病棟へ

 昨夜、ミータが身体をふるわせた動画を見た娘Sは、驚喜していた。
「わー、すごい!すごい!ミータがぶるった!」
一度、身体をぶるっと震わせただけなのだが、事故直後を思い出すと、確かにすごい回復だ。

 冬休み入ったSと病院に行くと、ICUではなく、看護師さんが面会室にミータを連れてきてくれた。食道チューブで高カロリーミルクを注入しているせいか、うずくまったままではあるのだが、なんとなくシャキッとしたように見える。口を閉じられず、よだれをダラダラを垂らし続けてはいるが、出血はしていない。目にも、なんとなく生気が戻ってきたような。
 
「まだね、食べる気はないみたいで。ちゅーるをひとなめはしてくれたんですけどね。尿カテーテルを抜いて様子を見ていたら、おしっこは出ました。尿意を感じているかはわかりませんけどね。」

 看護師さんの話を聞いて、Sの表情はみるみる明るくなる。顔の腫れは少しひいたようだが、まだぼろぼろの顔をしたミータにむかって、「かわいいねえ、かわいいねえ。今日もかわいいねえ」と連発。そう、こんな姿でも、かわいいんだな。痛々しいけど、それでも、かわいい。

 入院中の犬が吠え続けている。ミータは静かな場所が好きで、犬も苦手だから、病院は本当なら逃げ出したいくらい嫌なはずだ。小さい頃、不妊手術や怪我で動物病院に来ると、いつも、診察台の上に肉球から?出る冷や汗のあとがくっきり残っていた。家に来るお客さんにも姿を見せなかったのに、今は、看護師さんたちにされるがまま。嫌がるそぶりも何もない。痛くて身体が動せないからなのか、脳の損傷で鈍感になっているから感じないのか。話す事ができないだけに、今までと違う状態をどう理解すればいいのかよくわからない。

 しばらく面会室でなでたり、名前を呼んだりしていると、ミータがむくっと顔をあげて周りを見まわした。脚は立たないし、麻痺があると言われている左手はくにゃっと曲がったまま。それでも、鳴こうとするかのように口を開けた。こうなると、突然、状態が変わって死んでしまいそうな雰囲気は感じない。A 先生がやってきて、「顔の腫れもひいて、安定してきました。後で一般病棟に移しますね」と言われた。明日、また会えるのだろうか。そんな不安は、もう持たなくていいみたいだ。やった! ミータ!

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