ー安楽死を宣告された猫との35日間ー 24日目
BAKENEKO DIARY /DAY 24. ミータが笑った
口から食べ出すと、ミータの顔つきが変わった。シリンジ給餌をしていた間は、身体は回復してきても、どこか”生き物“感が乏しく、存在感がぼんやりしていた。もちろん体調が万全でないという理由もあっただろうが、事故前に100あった感情の幅が、60くらいに狭まってしまっているような感じ。目の奥の力が弱かったのだ。私と娘のSは、身体に障害が残って気持ちを表現できないのではなく、感性そのものにも後遺症が残り、ミータであってミータでないような状態になってしまったのかなと少しさみしく思っていた。
ところが食道チューブを外してから、ミータは笑うようになった。以前のミータは良く笑う猫で、目が合って話しかけたり、膝の上に乗ってきたときに名前を呼んだりすると、よく目を細めて微笑んだ(夫のPは「それホントに笑ってんの?」と言っていたが)。しかし、事故後はすっかり笑わなくなっていた。
それが今日は、絞っていた感覚機能を開放したよう。食事にうれしそうに反応し、首のハンカチを取り替えるときにはイヤイヤな態度を出す。窓の外に鳥が来ると、はっと顔をあげて凝視するさまは、数日前とは明らかに違う。2日目でこうなのだったら、一週間後にはどうなる?
明日はSの大事なテニスの試合があるが、夫のPが出張中で、試合会場が遠方だったので私は観に行くかどうか悩んでいた。これなら私も行ける? 事故以来、ミータだけを家に置いて半日以上、出かけたことはなかったけど、いい機会かもしれない。私もノーマルモードに戻るリハビリをしなくては。最近の私ときたら、ミータのことをじろじろ見ているばかりで、そのうちミータに鬱陶しがられそう。
明日は朝7時出発、夕方5時頃に帰宅の予定。朝、一度、トイレのために外に出して、カリカリを多めにおいて。ウェットも少しお皿に出しておこう。外には出られないように猫ドアは閉めるので、奥に置いてある猫トイレも少し場所を変えて。ミータの留守番の段取りを考えていると、事故前の“日常生活”がずいぶん近くなってきたように感じた。