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ー安楽死を宣告された猫との35日間ー  12日目

BAKENEKO DIARY /DAY 12. 忘れてしまった?(涙)

 娘のSは食道チューブからのミルク注入に何度か失敗し、こわくなってしまった。ここは、私ががんばるしかない。それともうひとつ。退院時に、チューブの挿入部分に化膿止めの薬を一日に2回、塗るように言われていて、こちらにも手こずった。包帯の上部に指を入れて隙間を作り、挿入部分を露出させて塗るのだが、毛をそった生肌に切開した傷口が見えて、少々グロいのだ。走って逃げるような身体ではないが、嫌がって顔を動かすのでうまく傷に薬が塗れない。病院でA先生が「食道チューブを入れた後は、お世話というより“介護”です」と言っていたことを思い出す。言葉にはされなかったが、きっと「覚悟しておいてくださいね」と心の中で言っておられたに違いない。

 さらに気持ちが落ちてしまうことがあった。こちらは必死に看病しているのに、ミータが全く反応しないのだ。猫はあまり目をあわせないと言われるが、ミータはどちらかというと「目があう」猫だった。しかし、名前を呼んでも振り向かないのはもちろん、目もあわないし、耳や尻尾を動かすこともない。もともと感情表現が豊かというわけではなかったが、表現しないというよりも、「何も感じていないのでは?」と思いたくなるような態度。ツンデレの「ツン」とも、「冷たい」というのとも違う。脳に損傷を負ったせいで、感性まで失われてしまったのでは? 家に帰って状態が悪化したのでは? と次第に心配になってきた。

 なんとか食欲を引き出そうと、大好物だった出がらしの煮干しをこまかく刻んで口元へ運んでも、ほんの少し鼻を動かすだけ。ちゅーるを指先にとって鼻先に持っていくと、ぷいっと顔を横に向ける。好きなカリカリフードをお湯でふやかしてもだめ。Sが「どうして食べないの? おいしいよ」と一生懸命、言い聞かせるも全く反応なし。 “食べる”という行為を忘れてしまったのかも?と、この頃は本気で思っていた。

 夕方、退院後の初めて、チューブの傷口の消毒のため病院に行った。
「少しは食べてますか?」
「あ…いえ…なかなか食べません。」
「では、そのままチューブからの注入を続けてください。食べないと、よくなりませんからね。」
「はい。やってみます。」

 消毒の後、伸縮性のある薄い筒状の包帯に穴を開けて、看護師さんが服のようなものを作ってくれた。首の後ろ側に、巻いた食道チューブをはさんでおくことができる。服は薄めのブルーでグルグルとまかれていないので、動きやすそう。それに初めて服?を着たミータは、ちょっとかわいい。

 夜のミルク注入の前に、もう一度食事にトライ。やっぱり食べない。食べてほしい。なんでもいいから、少しでいいから食べてほしい。そのことばかりが頭の中をグルグル回るようになっていた。

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