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女神異聞録ペルソナ0 ゼロ・ストリーム【序章01】

 少年は会場の外に出ると、高校の制服をいつものスタイルに着崩しながら家路へと歩き出す。
 普段はしっかりとは締めないネクタイを慣れた手つきで緩め、シャツのボタンをひとつ外し、口からは周囲に響く大きな溜息をついた。
「俺より若い子が、なぁ……」
 彼が後にしたのは、通夜の会場だった。
 近年では珍しく自宅で催されたが、道に迷うことはなかった。電信柱に括りつけられた看板で念のための確認はしたが、あまり視界に入れないまま到着する。その頃には回り焼香が始まっており、少年は家で預かった香典を出して奥へ進み、可愛く笑みを浮かべる女の子の写真の前に備えられた遺影に手を合わせ、最低限の挨拶に留めて切り上げてきた。
 亡くなった少女との記憶はあまりない。ただ、残された両親とは面識があった。とはいえ、年に一回ほど交流がある程度の付き合いだ。家と家が古いしきたりの上に成り立つ間柄で、彼が幼い頃に何度かお菓子を貰ったことがある。あの時はみんなが笑顔だった……そんな記憶が少年の胸を締めつける。そんな両親が無念の涙を流しながら悲しみに打ち震えつつ、不意にやり場のない怒りを覗かせるのを見ていられずに逃げてきたのだ。
「交通事故、か……」
 少年は溢れる感情を飲み込もうと、夜の闇に紛れていた自販機で適当なお茶を買った。硬貨を入れても暗がりのままだったので、お茶が並ぶ付近のボタンを無造作に押し、出てきたペットボトルを取り出す。その刹那、通りがかったスクーターが緑茶であることを教えてくれた。彼は蓋を開け、ゴクゴクと飲み込む。しめやかな場でよほど喉が渇いていたのか、それとも言いたかったコトを押し込んでいるのか……一口で半分はなくなった。
「今からでもいいから、真偽不明の事件だって言ってくれたらさ……」
 少年は不意に自分の腕時計を見た後、空いた手でポケットからスマホを取り出す。斎場でのマナーで音が鳴らないようにしていたが、この間に着信はなかったようだ。その現実が、彼の心をより重くさせる。足取りもどこか鈍く、帰路の間に考えをまとめようとしているのは明白だった。

 彼の名は「緋皇ひおう しん」。飛空市に古くから伝わる名家に生まれた一人息子である。
 今日は緋皇家の名代として通夜に出たのだが、彼は父親から一報を受けた時点で特殊な事件性がないかを調べていた。魑魅魍魎や怨霊怪奇が関連しているのなら、そこは親の領分。遺族の溜飲も多少は下がろうというものだ。
 しんは縋る思いで、飛空警察署のある人物に直接連絡を入れた。相手は超常現象の絡む事件を裏からリークしてくれる警部で、親とは違う異能を宿す獅とも親交がある。得体の知れない情報を聞かせてくれ……その一心で、呼び出し音の長さにも耐えた。
 ようやく相手が電話口に出る。頼みの綱である飛空警察署の望月もちづき 高行たかゆき、彼の第一声がコレだ。
『はい、望月です。ああ、シンちゃんだよね。今日はどうしたの?』
 いつものように軽いノリで話しかけてくる……この時点でほぼお察しだったが、しんは交通事故の詳細からきっかけを掴もうと必死に耳を傾ける。しかし、望月の口から出てきたのは、ひどく冷静で事務的な響きさえする事実の羅列だった。

 昨日の夕方、飛空市内で起きた交通事故によって亡くなったのは、中学を登下校中の蒼馬そうま 真耶まや。病院にて死亡が確認されたという。彼女は青信号の横断歩道を渡っていたところ、赤信号で突っ込んできた軽自動車に轢かれた。その車はそのまま逃走し、現場は騒然となったそうだ。
 それに伴い、軽自動車を運転した東屋あずまや 喜美子きみこを迅速に逮捕。事故の目撃証言がかなり多く、真耶の友人のひとりが車のナンバーを憶えていたので、いわゆるスピード決着に繋がったという。今は救護義務違反で拘留しているが、報告義務違反に加え、警察の任意聴取の最中に憤慨し反抗したので公務執行妨害もオマケでつけて、最終的には過失運転致死傷罪まで持っていくつもりだと聞かされた。
「ああ、その辺のことは知ってる。ニュースにもなってたし、朝の全校集会はその話だった」
『シンちゃん直々の電話ってことは、何か思うところがあるんだろうが……今回に限っては、裏はない』
「そうか……」
 しんは誰からも一目置かれるほど実直な青少年で、感情が表に出やすい熱血漢だ。その落胆の一言が悲嘆に暮れているのは、誰の目にも明らかである。だから、警部である望月でさえ、反射的に「済まないな」と漏らしたほどだ。
『シンちゃんもさ、いつも俺の親バカ話をさ。しょっちゅう聞かされてるだろ?』
 望月は一児の父であり、いつも我が子の話をする家族思いの男だ。それがまだ赤子なものだから、話題に事欠くとコレばっかりを延々に語り続ける。しんはそれを何度も聞かされてはいるが、思い返せば同じ内容を聞かされた記憶がない……親になった人間はそういう心境を抱くものなのかと、少しだけ理解できた気がした。
『俺だってそうさ。シンちゃんの思うような奇怪な事件であってくれと……心のどこかで思ってた。でも、本件に限っては、警察で片付けられる事件だと確信した』
 望月もまた失望を感じたのか、徐々にトーンダウンしつつあった。それに気付けぬしんではない。目上の彼が何を想像しながら話しているのかを知るのはあまりにも容易だ。
『もしも、何かあったら連絡する。その時は頼むよ。緋色の牙を突き立てろ……』
 やり場のない怒りからだろうか。望月は異能を駆使して戦う若者を送り出す時に用いる言葉で、この話を締め括った。それを聞いたしんは観念したように「わかったよ」と伝え、そのまま電話を切った。

 緋皇ひおう しんが宿す異能とは、「ペルソナ」と呼ばれる心の力。
 彼は家業を継ぐため、幼少期から武術を学び、健全な心身を手に入れていた。だが、それはあくまで表向きの話。多感な時期に差し掛かり、しんは家業を継ぐ意味を考え始め、次第に心を曇らせていく。それは一族に必要なことであって、決して自分ではない。緋皇家の一人息子であるが故に、その宿命を自分が背負わなければならないだけで、他に誰かいれば……そう幾度となく思い悩んだある日、彼は宿命の日を迎えた。
 学校帰りの薄暗い路地裏を這うように蠢く、飛空市のどこかから漏れ出た「シャドウ」という名の異世界の化け物との邂逅である。飛空市を守護する役目を負う家に生きるしんは、自然と傍らに立て掛けられていた物干し竿を手に取って身構えた。
 その瞬間、彼は声を聞いたのだ。それは異形の敵からでなく、自分の中……まるで心から響くかのような声。
『お前は、なぜ……戦おうとしているのだ……』
 これは決して問いかけではない……しんはそう理解した瞬間、激しい頭痛に苦しみながら膝から崩れ落ちてしまう。眼前の敵に対して備えなければならない状況なのに。頭が、胸が、いや心が、魂が……自分の全てが混濁し、形容しがたい苦痛が全身を駆け巡る。
『家のしきたりを守るためか……それとも、身の危険を排するためか……』
「う! ぐああぁぁっ! あがっ!」
『お前の力は……他人のモノなのか?』
 獅はかろうじて「違う……」と答える余裕しか残っていない。
『そうだ。お前の力は、お前だけのモノ……』
「そ、そうか……俺は、俺はきっと、間違って、いたんだ……」
『お前は他人に勧められて、自分ではない道を歩もうとしていた……』
 全身を駆け巡る声は次第に、自分に寄り添うかのような心強さを帯びてくる。
『だが、わかったはずだ。お前は、お前の道を選ぶことができる、と……』
「そうだ……くっ! 俺は、俺で、俺の家を、何かを守ることを……自分で選ぶことが、いくらだって選ぶことができたんだ!」
『ならば、契約だ。この私が、お前の道を指し示す光となろう……』
 この時、獅は気付いていなかった。自分の瞳が、金色に煌めいていたことを……
『我は汝、汝は我。今こそ、我が名を呼べ……その名は……』
「フォルセティ!!」
 得体の知れぬ者の言われるがままに、しんは教えられもしない誰かの名前を勝手に叫んでいた。それは今まで聞いたことも考えたこともない単語で、まるで秘密の言葉のようでもある。
 その瞬間、自分の身体から何かが生み出されるかのごとき感触を得た。今までの苦痛はヴィジョンとして具現化し、彼は獅の前に立つと、目前に迫ったシャドウに神々しい光を纏わせ、そのまま霧散させる。その圧倒的な力に、さすがのしんも言葉を失った。
「お、お前は……」
『私の名はフォルセティ。お前と共にある輝きの貴公神……』
 後にペルソナと呼称される、獅の意思の力を具現化させたフォルセティは厳かに言葉を紡ぐ。
『これより、お前は私となる。この力でお前の道を切り開け』
「俺の、道を……」
『案ずるな。お前は私、いつも共にあらん……』
 両の目が妖しさすら秘めた色から元に戻り、力あるヴィジョンも自分の身体へと戻り、その景色までもがいつものように戻った。強いて言うなら、しんはこの瞬間に世間のしがらみに対して反逆の意思を示し、ペルソナを発現させたのかもしれない。
 以降、彼は導かれるように他のペルソナ使いと出会い、未知なる脅威との戦いに幾度となく身を投じてきた。家の手法に固執することはせず、さりとて今まで積み重ねたモノは素直に活用し、常に自分らしさ全開で難局を乗り越えてきたのだ。

 しんは望月警部を頼る前に、実は蒼馬そうま 真耶まやの事故現場にも足を運んでいた。
 父親から連絡を受けた際、本能的に「シャドウが引き起こした事件ではないか」と感じた。それなら、自分たちで解決することができる……そう考えたのだ。しかし、その痕跡はいっさい感じ取ることができなかった。さらに望月警部の言葉がトドメとなり、飛空市を離れている父親に代わって、通夜へ参列したというのがここまでの事の経緯だ。
「親父だって、行きたくなかったろうな……」
 今にして思えば、電話口の父は、息子である自分にえらく気を遣っていた。望月警部のような感じだったなと述懐し、しんは大きな自宅の門を開く。今日は寝つきが悪くなりそうだと思い、自室に置いてあるお菓子を食べながら眠気が来るのを待とうと心に決めていた。

―――

 あれから3日が経った。
 今日は月曜日。しんは高校生だ。ご多分に漏れず、新たな一週間の始まりに億劫な気持ちを抱きつつ、玄関で靴を履こうとしたその時、摺り硝子の扉に人影が見えた。
「おはよーございまーす! しんさんいますー?」
 家の敷地に入っているとはいえ、扉越しに名指しで呼びかけるとは……しんはしっかりと靴を履き、珍客を出迎える。
「どうも、緋皇ひおうです。しんは、俺です」
「あっ、よかった! いたいた! あたし、春華はるか! 白砂しらすな 春華はるか! お姉ちゃんの妹!」
 白砂しらすな 春華はるかと名乗る少女は、しんよりも年下。その証拠に、着ている制服は近くの中学校のものだ。それにしても要領の悪いご挨拶だが、獅にはある単語に心当たりがあった。
白砂しらすな……ってことは、皐月さつきの妹?」
「そうだよ! あー、今からシンちゃんって呼べばいい? お姉ちゃんもそう言ってたし」
 姉の皐月さつきは私立のお嬢様学校に通う優等生で、しんとも面識がある。とはいえ、それはペルソナ使いとしての付き合いであり、難局を乗り越えたこともある戦友としてであり、交友関係はないに等しい。たまに出会えば声をかける程度だが、妹の春華はるかは初対面だというのにグイグイ来る。しかも相手を不快にさせないギリギリを攻めてくるので、しんは内心「これは扱いに困るなー」と少し戸惑ってはいたが、当の春華はるかはどこ吹く風である。
「勝手にすればいいよ。話には聞いてたし。な、ワンパク妹さん?」
「うん、みんなに言われる。でさ、ちょっと相談したいことがあるんだけど……」
 戸惑いを下駄箱に放り込んだしんは、玄関の上がり框に座って話を聞くことにした。すると、春華はるかもちゃっかり隣に座って口を開いた。
「シンちゃんさ、前の交通事故のこと憶えてる?」
 憶えてるも何も……しんの呆れ顔でひとつ頷いた。何なら今でも、ちょっと気にかけている。
「実はあたし、マヤちゃんと同じクラスでね。昨日、家に電話があったんだー」
「あの、春華はるかってさ。たまーに、不思議ちゃんって言われることない?」
 しんの忌憚のないご意見に眉ひとつ動かさず、春華はるかは続ける。
「マヤちゃんがね、『金曜日に提出する宿題って何だっけ?』って聞いてきたの」
「ちょっと待ってくれ。さっきから言ってるマヤちゃんって、まさか……」
 話を遮ったしんを咎めもせず、春華はるかは急に真顔で呟いた。
「そうだよ、シンちゃん。フルネームは蒼馬そうま 真耶まや……」
「ちょっとそこで待ってろ、親父に聞いてくる」
 しんは乱暴に靴を脱ぎ、朝食を取っている父に事情を尋ねたが、息子と同じく表情を曇らせて戸惑うばかり。当然、母も同じだ。春華はるかの元に戻るまで、1分もかからなかった。
「何かが化けてるとか、そういうことか?」
「可能性はあるけど……」
春華はるかなりに、何か感じたことは?」
「フツーにマヤちゃんだったかな」
 このままだと最も聞きたくない答えに辿り着きそう……しんは表情を歪ませてしまう。
「生き返った、とは、思えない……かな?」
「それは全否定したいところなんだけど、確認するしかないな……」
 しんは腹を括り、母に「学校休む」と告げて、春華はるかに玄関を出るように促した。
「中学に行こう。蒼馬そうま 真耶まやに会わないと、何も進まない」
「あ、シンちゃんって、話がわかるね! ありがとー! あたしひとりだとやらかしそうで不安だったんだー」
「元気に『あー、生き返ったのー?』とか言いそうってことか?」
「それもあるけどさ。もし、シャドウ絡みだと困るもん!」
 そう口にした春華はるかもまた、姉と同じくペルソナ使いであることを明かす。その名は「シタテルヒメ」というらしい。ペルソナはシャドウに呼応して発現される能力であるため、ここで見せてもらうことはできないが、しんは少し安心した表情で呟く。
「そりゃ心強いな。いざって時は頼む」
「もう、すでに『いざ』って時なんだけどね!」
「じゃ、行くか……」
 しん春華はるかの案内で、蒼馬そうま 真耶まやが登校する中学校へと歩き出した。

春華はるかちゃん、おはよう! 宿題のこと教えてもらってありがと。なんとか間に合わせないとね~」
 5日前に死んだはずのクラスメイトとの再会……それが感動的になるはずもない。しんは首を傾げたまま固まってしまい、声をかけられた春華はるかですら「うん、そうなんだ……」と力なく返事するだけ。お互いがお互いに「この状況を何とかしてほしい」と思いながらも、それを言ってしまったら真耶まやがどうなるかわからないので、とにかく様子を伺うことに。
「まーた、ご飯の食べすぎで疲れてるの? 食べ疲れって、ホント春華はるかっぽい表現だよね! あ、そちらの方は?」
「あー! お姉ちゃんのぉ、友達のぉ、シンちゃん! マヤちゃんにね、そのぉ、あのぉ……会いたいって!」
 しんは心の中で「お前、なんてこと言うんだ!」とツッコんでいたが、真耶は屈託のない笑顔で話しかけてくる。
「シンちゃん先輩、ってことでいいのかな。初めまして、蒼馬そうま 真耶まやです」
「新聞やテレビで見たから知ってる」
 今度は春華はるかが「何言ってんの!」と小声で制しようとするが、本人は戸惑うことなく答えた。
「あれって、未来新聞っていうか……予言っていうのかな? なんだろうね、アレ。私、ピンピンしてるのに」
「し、知ってるのか? 自分がどうなったのかを……!」
「え、先輩? あれって『蒼馬さん、事故には気をつけてくださいねー』っていう警告みたいなものじゃないんですか?」
「マヤちゃん、そのね……新聞の記事って、フツーはウソつかないと思うんだけど」
 二人が慌ててる様を見て、ようやく真耶まやも違和感を得たのだろう。とても怪訝そうな顔で「どうしたの?」と尋ねるが、明解な答えを伝えられるはずもなく、二人は困惑するばかり。
「今日は3日の火曜日だよ? だから金曜日の宿題のコトを電話で聞いたんだけど……」
 しん春華はるかは、ここで完全に固まってしまう。今日は「9日の月曜日」であることは明白だ。
春華はるか、もしかしたらなんだけどさ……」
「あんまり聞きたくないんだけど、シンちゃんどーぞ」
「なんか、ヤバイことになってる気がする」
「えーっと……思ったよりもうすーい感想、ありがとう……ホントに高校生?」
「こんな少ない情報で、俺に何がわかるってんだよ……」
 地味に弄られたのが悲しいしんのポケットから、けたたましい音で鳴り響く。スマホが鳴っているようだ。
「あ、遅刻しちゃう! 先輩、また今度。春華はるかも急がないと遅れるよ!」
「あ、あたしはちょっとここにいるね……」
 真耶まやが小走りで校舎に向かうのを見届けた後、しんがスマホに出た。相手はわかっている。
「はい、緋皇ひおうですけど……」
「シンちゃん、やっと出た! たた、た、助けて! な、なんか窓口に来たクレーマーが、け、警察署を異界化させてるみたいなんだ!」
「はぁ? 望月さん、何を慌ててるんですか? こっちも聞きたいことがあるんですけど……」
 電話の主は望月警部だった。春華はるかが聞いても問題ないだろうと、通話をスピーカーに切り替える。春華はるかも何かを察して耳を傾けた。
 ただ、しんにすれば今さら望んでもいない連絡をもらってもな……と困惑しきり。できれば他の連中を当たってほしいと思っていたが、どうやら警察署の状況は深刻なようだ。
 そしてさらに、彼の口からまたしても聞きたくないような言葉が耳に飛び込んでくる。
「その、クレーマーってのが、ひき逃げの容疑者……勾留してた犯人らしくって!」
「え? 真耶まやを轢いた犯人が警察署を異界化させてるって、いったいどういう状況なんだ?」
「今は1階部分だけの被害なんだけど、どんどん広がるかもしれないんだよぉ! シンちゃん、助けて!」
 春華はるかは「あたしもサボりかぁー」と呟きながらも、しんに肝心なコトを共有する。
「もし仮に……マヤちゃんの認識がどんな形でも正しいんだとすると、あの事故はなかったことになってるんだよね?」
「事故がなかったって、俺はお通夜にも出て……」
「シンちゃん、そーゆーのは別にして。あの事故がなかったのなら、犯人も犯人じゃないってことだよね?」
「そうか! 真耶まやと違って、俺たちみたいに記憶のある状態でこうなったのなら……!」
 推論を突き合わせて一定の理解を共有した二人は、異変の起きたとされる警察署へと駆け出すのだった。

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