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【映画観覧記】『オン・ザ・ミルキー・ロード』(2016)


On the Milky Road #一骨画

『オン・ザ・ミルキー・ロード』(On the Milky Road)
監督・脚本・主演:エミール・クストリッツァ(Emir Kusturica)
出演:モニカ・ベルッチ、ミキ・マノイロヴィッチ

「アンダーグラウンド(1995)」には驚愕した。
もう絶対的に日本人にはない感覚、この質感はユーゴスラヴィア(現セルビア)のものである。
どうしてこうさらりと描けるのだろう、それも半笑い、茶化しているように人が死ぬ。
この映画、鳥の類い、アヒル、相棒のハヤブサ、猫に蛇、熊、動物がたくさんいる。
主演は監督自身、少し頭が足りないミルク運びの男。
ロバに跨り、傘を差し、望遠鏡で覗き見し、肩にハヤブサ、戦場に飛び交う弾を物ともせずにミルクを運ぶ。
その姿に安心してはならぬ。
「黒猫・白猫(1998)」とはちと毛色が違う。
音楽は刺激的、
絶えず生死の危険に晒せれているとそんな死生感が生まれてくるのだろうか?
陽気だけど歌詞は辛辣なジプシー音楽、束の間の休戦協定に酔い踊り狂う饗宴、
ツィンバロム(大型の打弦楽器)奏者でもある主人公が奏でる調べで踊り狂う婚約者、
感情移入してる暇はない、あれよこれよとしてるうちに状況は一変する。
ミルクの飲む蛇は、主人公を救う神の使いなのか?
そして話は、唐突に愛の逃走劇へ。
そこには現実感がない、追手から逃げているのに二人だけの世界で踊っている。
その行く末に待ち受けるものは、使いの蛇にも予想がつかない。
驚いたことに、最後の情景がこの前紹介した「裸の島」に被ってるように感じたからだ。
なんだろう、この飄々としていて、あっけら閑とした無常感。
悟りにも近い気持ちが芽生え、暫くは呆然となってしまった。
のほほんと怠惰に生きている世界観では捉えようもない虚無、だから笑うのかな?
誰を笑っているのかな?
生死が誰かの手に委ねられてしまってる世界に生まれる物語。
それでも懸命に生きていくコトが素晴らしく思える映画。