【映画観覧記】『ペパーミント・キャンディ』(2000)
『ペパーミント・キャンディ』(2000)
監督:イ・チャンドン
出演者:ソル・ギョング、ムン・ソリ、キム・ヨジン
この作品は何度か見返しているとても好きな映画です。
主演のソル・ギョングが、韓国の俳優さんの中で一番好きだ。
たぶん「シルミド(2003)」を見たのが初めてで、それからこの作品で、イ・チャンドン監督と再び組む「オアシス(2002)」は最も好きな映画。
彼は韓国ではカメレオン俳優と呼ばれているそうだ。
いわゆる役柄に成り切る手法、メソッド演技法(人格を掘り下げ役作りに徹底する演技)というのを忠実に実践してるのかも知れない。
その辺りでは、デ・ニーロ、アル・パチーノが重鎮、僕の中では共に大好きな俳優さんなので、当然ギョングさんも仲間入りなのです。
「殺人者の記憶法(2017)」でのギョングさんは鬼気迫るものがありとても凄かった。
やはり日本映画で80年代以降に失ってしまった何かを、韓国映画は持っている。
さてこの作品、先っけからボロボロになったギョングが現われる。
すごく危険な輩だ、酔っ払っているのか、それとも自暴自棄になっているのか、楽しげな川原でのピクニックに突如乱入する。
これが時間軸では現在、ここからなぜそんな体たらくになってしまったのか知るため、過去へ遡る列車に乗ることになる。
逆走する列車からの景観がとても奇妙だ。
並走する自動車や人も後退して見え、列車は先へ進むがゆっくりと時間は後ろへと向かう。
どんどんと若返っていく主人公、汚げな垢を過去へ戻っていく度に洗い流していく。
ある選択が彼を窮地に追い詰め、いやしかしそれに共感はできない、自業自得の苦境だからだ。
途中、光州事件(1980年市民による軍事政権に対する民主化要求蜂起)で主人公が歪んでいく転機が描かれる。
韓国映画では絶対に隠せない、いや暴いていかなければならない、韓国の闇。
彼は徹底的に弱い、そう簡単に言ってしまうとうつ病患者に元気を出せと言っているような傲慢さだが、弱いから
その弱さが主人公をイビツな人格形成に誘い、それが周囲を巻き込み、悪循環の波にもまれ、煮湯を飲まされていく。
過去へ遡れば遡るほど、彼は純真に、素直に子供に戻っていく。
初恋の彼女は「オアシス」で見事な演技をみせるムン・ソリさん。
切ない恋、絶望、身勝手な肉欲、自堕落な不倫、諦めの生活、流され漂い甘え人を傷つけていく彼の人生は、やはり罰を受けなければならないのかも知れない。
でも、誰かさんの人生も似たり寄ったりではないのだろうか?
少なくとも僕は、彼をバッサリ切り捨てるような真似はできない。
これって誰の上にも起こりうることだし、予定や計画などが及びもしない割り切れない偶発さが、生きていくことなのだ。
主人公はずっと問い続ける。
なぜ? なぜなんだ? なぜこうなってしまったのか!と。
諸行無常、とはこの映画のこと。
約一年ぶりに映画の記事を書きました。
相変わらず何かしら映画を見てるわけですが、胸を打つような作品に出会いません。
どうしてしまったんでしょう。
それだから過去見て震えた映画を回顧してみました。
お絵描きも楽しいです。
ソル・ギョングは絵になる。
少し「スカーフェイス」のパチーノさんみたくなってしまったけれど。
また始めていくので宜しくお願い致しまする。