【#refereenote 】vol.4 Ｖ・ファーレン長崎フレイレ選手の乱暴な行為について

ごきげんよう！
Jリーグで起きた一発退場の重要事項報告書を書いてみる#refereenote の時間です！
前回の更新から2週間ほど空いてしまいました。ただ、この2週間で4試合を消化するクラブもあるというまさに強行日程ですね。
選手には本当に怪我だけはしないでほしいです。夏を超え、疲労が回復しきらない中でさらに疲労を積み重ねると故障はさらに多くなってしまうと思います。
この状況は審判の皆さんも同じです。加えて、審判員の皆さんにはホームスタジアムはありません。全国どこでも中立の立場です。ご自身と選手の安全を守るためにも残りのシーズンも宜しくお願いします。
今期はあと3ヶ月ほどのシーズンですが、今後もサッカー人生は続くのでくれぐれもご無理なさらないように。

1.今回のケースの紹介

今回は明治安田生命Ｊ２リーグ第24節栃木SC vs V・ファーレン長崎＠栃木県グリーンスタジアムからのご紹介です。
試合後に退場処分を受けるシーズンを通しても、レアなケースでした。
SNS上でも話題になり、物を投げるのが悪い、ブーイングしているサポーターも悪い、主審が試合をコントロールできなかったなどさまざまな声が散見されました。
本件は先に伝えるべきことがあります。
事象のおさらいで選手の意図や感情を推測する部分があります。DAZNに明確に映らないシーンもありました。
あくまでも私の考え/解釈としてご理解ください。また、違った見解をする場合は是非教えて頂きたいです。コメントでも引用でもご自由にどうぞ。相手を尊重する限り、常に対話は開かれておりますので！
⑴93〜94分ごろ玉田選手が痛み、フィールドに倒れ、長崎GK高木和選手がハーフウェーライン付近にボールを出す
⑵95分玉田選手が担架で運び出され、代わりにルアン選手が入る
⑶95分50秒付近、プレーは栃木のスローインで再開される
⑷長崎側はボールが栃木から返されると思っていたが、田代選手は攻撃を続行し、ロングボールを前線に蹴り込む
⑸96分03秒付近、長崎がクリアし、再び田代選手に戻ってきたボールをルアン選手がチェイスする。このとき、田代選手がオビ選手にパスした後にルアン選手が田代選手に何か言っている
⑹96分46秒付近、ルアン選手と田代選手の間にボールがこぼれ、田代選手が先にボールをコントロール、足を伸ばしたルアン選手は遅れて田代選手を蹴ってしまう
〜その後、一旦試合終了
⑺終了と同時に田代選手の元にフレイレ選手、カイオ選手らが走って向かう
（ここから収まるまではわからず）
⑻その後、両チームが集まり、集団で対立を起こし、間もなく収束
⑼両チーム整列するが、長崎の選手が挨拶をする前に撤収しようとする
⑽挨拶後、ベンチへ引き返すときに両クラブが交わり、複数の選手（フレイレ選手含む）が言い合うも長崎はロッカールームへ撤収
11.ロッカールームに引き上げる際にフレイレ選手が長崎ベンチに向かって、物を投げる。投げた物はスタンドの方へ飛んでいく。スタンドは騒然となり、怒号が飛び、ブーイングが起きる
12.物を投げたフレイレ選手をルアン選手が抑え、ロッカーにほぼ押し込む
13.第4の審判員が物を投げた事象について主審に報告し、第4の審判員は長崎のロッカールームへフレイレ選手を呼びに行く
14.フレイレ選手は主審の元へ行く
15.大坪主審よりフレイレ選手に退場が命じられる
16.命じられた後も主審に抗議するが、その後は再びロッカーへ戻る
長いですね…
DAZNだと⑴から見るには2:06:30〜です。
加えて、DAZNでは名倉選手の爽やかインタビューのおかげで映っていないので、下記Youtubeから事象の確認を行いました。
リンクはフレイレ選手が物を投げるシーン（0:27〜）の直前からです。

2.5W1Hで整理しよう

では、例に倣い5W1Hで整理してみます。
・Why：乱暴な行為を犯す
・When：試合終了後、ロッカールームへ戻る途中に
・Where：長崎側ベンチ前付近からメインスタンドに向かって
・Who：V・ファーレン長崎4番フレイレ選手→メインスタンド
・What：手で持っていた物（恐らくペットボトル）を長崎ベンチ及びメインスタンドに向かって投げた
・How：ロッカールームへ戻る際に長崎ベンチに向かって上投げをし、メインスタンドの方向へ飛んでいった
＋判定後の態度について
最初は抗議したが、フィールドから離れるように伝えると速やかに従った

3.重要事項報告書

「試合終了後、V・ファーレン長崎4番フレイレ選手の乱暴な行為を犯したことによる退場処分について」
試合終了後、長崎ベンチ前でV・ファーレン長崎4番フレイレ選手はロッカールームに戻る途中で長崎ベンチ及び後方にあるメインスタンドに向けて手で持っていたボトルを上投げし、乱暴な行為を犯した。ボトルはスタンド前方の壁に当たり、フィールドの方向へ再び戻ってきた。そのまま、フレイレ選手はロッカールームへ戻るが、第4の審判員により、フィールドに呼び戻された。その後、物を投げを乱暴な行為を犯したとして、フレイレ選手を退場処分とした。
主審が退場を命じた後、最初は抗議したが、フィールドから離れるように伝えると速やかに離れた。

4.判定の簡単な解説

競技規則の観点から2つの条文を紹介したいと思います。
⑴「乱暴な行為」と「攻撃的な、侮辱的な、または下品な発言や身振りをする」の違いは？
退場となる反則の項目は8つほどありますが、その中に小題の2つがあります。
前者は以下のように解説されています。

乱暴な行為とは、身体的接触のあるなしにかかわらず、競技者がボールに挑んでいないときに相手競技者に対して、あるいは、味方競技者、チーム役員、審判員、観客またはその他の者に対して過剰な力を用いたり粗暴な行為を行う、または、行おうとすることである。
加えて、競技者がボールに挑んでいないとき、意図的に相手競技者やその他の者に対して頭や顔を手や腕で打つ場合、その力が微小なものでない限り、乱暴な行為を犯したことになる。

要するに、「プレーと関係ないところで暴力的な行為をしたら退場ですよ」ということです。
後者については、競技規則内で特に解説はありません。こういうときのための英語の原典を引用します！

"using offensive, insulting or abusive language and/or gestures"

そのままではありますが、行動よりも発言やジャスチャーにフォーカスしています。実際のケースに置き換えると、私が体験した一例ですが「クソ審判！」「死ね！」「ちゃんとみろよクソ野郎！」や睨みつけながらヤンキーのように猛然と迫ってくる、中指を立てられるなど、こういった行為が該当すると思います。
2つの違いは「実際の行動」か「発言やジェスチャー」です。
今回のフレイレ選手はボトルを投げているので、行為/行動のため乱暴な行為が適用されます。

⑵主審はいつからいつまで警告や退場を命じられるのか
次は「主審はいつからいつまでイエローカードやレッドカードを出せるの？」という問いです。
今回のケースは試合終了後、数分後に退場を命じています。
読者のみなさんはいつからいつまでだと思いますか？
答えは「試合前のフィールドの点検から試合終了後にフィールドから離れるまで」です。競技規則を引用しましょう。

主審は、試合前の競技のフィールド点検のために競技のフィールドに入ったときから試合(ペナルティーマークからのキックを含む)終了後に競技のフィールドを離れるまで、懲戒処置を行使する権限をもつ。試合開始時に競技のフィールドに入る前に競技者が退場となる反則を犯した場合、主審はその競技者を試合に参加させないようにする権限を持つ(第3条6項参照)。主審はその他の不正行為を報告する。

文字通りに受け取ると、Jリーグでは審判が90分くらい前にフィールドをみんなで歩いて点検しているあのときから警告とか退場とか命じられるのです！私は見たことないですけどね！審判経験の長い人だと試合前に警告/退場出したことあるとかないとか聞いたことだけはあります笑
もしあれば教えてください！笑
今回のケース、審判団は試合終了後もフィールド内にずっと留まっていました。その理由がわかったと思います。主審がロッカールームに引き上げた後ではフレイレ選手に退場処分は命じられないのです。これは大坪主審の素晴らしい判断だったと思います。素直にフレイレ選手が出てきたのもすごいと思いましたが…

5.終わりに

今節もDOGSOやPKに関する疑惑がいくつかありましたね。リーグも終盤戦に差し掛かるところでかかってくるものはそれぞれの試合で大きいはずです。私としてはその試合ごとの価値もそうですが、今はJリーグ本来の価値を守り、魅力を再度、一から訴えるフェーズだと思っています。
コロナウイルスの影響で観客が以前のようには戻れません。では、このまま戻らずにこれまで積み重ねてきた各クラブの努力や活動が無駄になってしまうのでしょうか。それは今いる選手、スタッフ、審判、フロント、ファン・サポーターなど、全てのJリーグのステークホルダー次第だと思います。
「このゴールすごくない？落ち着いたらでいいからJリーグ行こうよ！」「こんな美味しいスタグル食べたの！今度一緒に食べよう！」
「コロナの前まではこんなにみんなと一体感持って歌えたんだよ！応援が解禁されたら、またタオル回して歌いに行こうよ！」
そう言える今があるのか。指笛、ブーイング、怒号？拍手、手拍子、遵守？失ってしまったものは自分たちの手で必ず取り返そう。
あなたの行動はJリーグに勇気を与えていますか？