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何度も"相談"されるのは? ~お嬢さんのおばあちゃん~【交流分析 for Teacher②】

「交流分析 for Teacher」シリーズ記事では、学校現場の事例について交流分析を通した解釈を書いています。今回は学校現場の話ではありませんが、似たようなことが学校でも起きると考えて掲載しました。子どもや保護者と向き合うためのヒントにしていただけたら幸いです。

交流分析 for Teacher①は管理人の別アカウントに掲載しています。

このお話はオンラインショップ運営のM山さんにうかがいました。筆者も仕事の関係でお世話になっている方です。

個人が特定されないよう、設定は変えてあります。
その上で、お話をうかがった方に許可をいただいて掲載しています。

M山さんはオンラインショップのオーナーです。天然繊維の衣料を販売し、体を冷やさないで健康に暮らすためのアドバイスもしています。電話やメールなどで相談を受け、回数や時間などの制限はなくお客さんの話を聞きアドバイスをしているそうです。

以下は筆者が仕事の関係でM山さんに電話した時にうかがったお話です。

M山さんのお店に頻繁に電話で相談をされるお客さんがいたそうです。
そのお客さんは「おばあちゃん」と言っても良い年齢の方ですが、とても依頼心が強い方です。「このことはどうですか?」「教えてください」などとM山さんのアドバイスを仰ぐのですが、何度相談しても不安なのか、彼女からお店に2~3日に1度電話がかかってきて、しかも一回の相談がとても長いそうです。

(M山さん)「イメージとしては、まるで“お嬢さんのおばあちゃん”みたいな感じなの。その方は独り身で、一緒に暮らす家族は誰もいないらしくて。『一人だからさびしくて電話しちゃうのよ』『施設に入っても、周りの人とうまくやっていけないと思うし』って言っていつも電話をくださるんだけどね。こちらから電話を切らないと延々と話すの。依頼心が強い人なのかな。長年このお店をやっているけど、こんなことは初めてで、ちょっと困ってて」

彼女は誰にでも依頼心を向けるかというとそうではなく、M山さん以外の他のスタッフには威圧的な態度を取るそうです。

(M山さん)「うちの商品が彼女の指定した時間に配達されなかった時、お店に電話がかかってきて、他のスタッフが出たら『時間指定したのに!』と怒っていたそうよ。『教えてください』って相談したり、従うような態度を取るのは私に対してだけなの。不思議なことにね」
(筆者)「それは不思議ですね…その方が、“お嬢さんのおばあちゃん”みたいっていうのが気になりますね。どうしておばあちゃんなのに“お嬢さん”になっちゃうんでしょう?」
(M山さん)「前に一度、『父親のことが大好きだった』っていう話を聞いたのよ。彼女のお父さんはお医者さんで、いろんなことをよく相談してたらしいの。お父さんが彼女に対して過保護だったのか、“自分ではものごとを判断できない”って思ってるような感じがするわ。うちの店に電話があると、“相談”と称して日々のちょっとしたことを『どうしたらいいか』って聞かれるの。」
(筆者)「M山さんが彼女の相談に答えると、どうなりますか?」
(M山さん)「最初は丁寧に答えるんだけど、最後はいつも叱るような感じになっちゃうかな。」
(筆者)「そうなんですね…彼女は他のスタッフさんを叱るのに、M山さんには叱られるような感じになるんですね。」

M山さんの話を聞いて、頭に浮かんだのは「転移」と「逆転移」です。
相手の方は「おばあちゃん」ですが、M山さんが体験しているようなことを、私も高校の教員時代に生徒との間で体験したことがあるような気がしました。

(筆者)「私はその方のことを直接知らないので、違うかもしれないですが、今のお話を聞いてなんとなくM山さんは彼女の“お父さん”の代わりを演じさせられているような感じがします。彼女はM山さんのことを自分の“お父さん”であるかのように扱っているんじゃないでしょうか。最後はM山さんに叱られてしまうというのは、それが昔彼女とお父さんとの間によくあったことなのかもしれません。お店に電話して、『教えてください』って粘って話を続けて、最後には叱られてもまた電話してくるのは、何かお父さんとの関係に満足できていない部分があるんじゃないですかね。」

(M山さん)「うーん、じゃあどんな対応をしたらいいの?」
(筆者)「これもまた私の想像になっちゃうんですけど、彼女はお父さんにただ教えを受けるだけじゃなくて『自分の考えも聞いてほしかった』って思ってるような気がします。
『お父さん、これどうすればいい?』って聞いたら、
『こうすればいいぞ』じゃなくて、
『お前はどう思うんだい?そうかそう思うのか。だったらやってごらん?』って言ってほしかったのかなぁ…ていう感じがするんですよ。
もしかしたらM山さんがそう言ってくれるまでは、腑に落ちなくてお店に電話をかけ続けちゃうのかなあって思います。しかも他のスタッフさんじゃなくて、きっとM山さんから言ってほしいんです。彼女の中ではM山さんがお父さんの代わりだから。」
(M山さん)「じゃあ『これはどうですか?』って相談されたら、『○○さんはどう考えるの?』って聞いたらいいかしら」
(筆者)「そうですね。そうやって聞いてみてください。それで彼女が何か答えたら『いいと思いますよ』って肯定してみてください。知らず知らずのうちにM山さんが演じさせられている彼女のお父さんの役を、そのまま演じ切っちゃうんです。しかも彼女の希望する形で。M山さんが彼女の『理想のお父さん』になってあげるっていう感じです。それで彼女にすぐ変化があるのか、それとも変わらないのか分からないですが、ちょっと様子を見てみてもらえませんか?それでその後どうなったか、またお聞きしたいです」

その一か月後にまたM山さんに電話で伺ってみると、2~3日に一回あった彼女の電話が週に1回くらいに減ったそうです。

(M山さん)「話の内容はほとんど変わらなくて、健康のことが主なんだけど、前は全部『どうでしょうか?』って相談されてたのが、今は報告みたいな感じになったかな。『こんなことがありました』『私はこうしたんです』『こう思ったんですけど』って言われるようになって。
私のほうはね、前は『教えて!』って言われたら『教えなきゃ!』って思ってとにかくアドバイスをしてたんだけど、今は彼女自身が考えるように、彼女の考えを引き出すように言葉をかけるようになったかな。それで電話の回数も減ったし、時間を取られすぎることもなくなったわ。」

彼女のM山さんに対する振る舞いが「転移」で、それに対するM山さんの反応が「逆転移」にあたると思います。これは精神分析の用語です。
M山さんが体験したのと同じようなことを、私は教員時代に体験しました。
交流分析とは少し違う角度からですが、こういう見立てや対応の方法があることを、教員を辞めたあと、交流分析を学ぶより前に知りました。
次回は交流分析からは少し離れますが教育現場の「転移」と「逆転移」を語ってみたいと思います。



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