「交流分析 for Teacher」シリーズ記事では、学校現場の事例について交流分析を通した解釈を書いています。今回は学校の話ではありませんが、学校現場の参考にもなると考えて掲載しました。子どもや保護者と向き合うためのヒントにしていただけたら幸いです。
このお話は建築士のN山さんに伺いました。
Y子さんの事例
N山さんのカウンセリングで、Y子さんの何がどう変わったのでしょうか?交流分析の視点で解釈してみましょう。
「どうして○○してくれないの?」
Y子さんは、だんなさんに要求する時に「どうして○○してくれないの?」という言い回しをよく使っていました。やりとり分析で表してみると、下の図のようになります。
「子ども」の自我状態は、その人の子ども時代の行動や思考、感情の反復として現れることがあります。
Y子さんはおそらく子どものころ「どうして○○してくれないの?」という言い方で周囲の人を動かしてきたのではないでしょうか。「こういう言い回しをすると周囲の人が動いてくれる」という経験をしたので、不満がある時にこういう言い方をしてしまう「癖」のようなものが身についたのかもしれません。
だんなさんの素直な反応
だんなさんはY子さんとのやりとりで、初めのうちはたぶん平行な矢印で応じていたのだと思います。
お家を建てる話の時も、「なんで聞いてくれないの?」「なんで早く動いてくれないの?」などの要求があったのかもしれません。それに対してだんなさんも「じゃあ、してあげよう」と素直に応じてきたのかもしれません。
対等な夫婦のやりとりならば、「大人」の自我状態どうしのやりとりになるはずです。
なんらかのやりとりが始まると、相手はその矢印と平行な矢印を返しがちです。もしY子さんが「大人」の自我状態から矢印を向けてきたら、だんなさんもそれと平行に「大人」の自我状態から反応したと思います。
しかしY子さんが「どうして○○してくれないの?」と「子ども」の自我状態でやりとりを始めたので、それに対してだんなさんがずっと「親」の自我状態から応じ続けてしまったのではないでしょうか。
だんなさんは「このやりとりは変だ」と気づかず、「妻の不満は、家を建てたらおさまるかも…」と信じて行動し続けたのかもしれません。
交叉的交流(がっかりするようなやりとり)
しかし、実際に家が完成しても妻の不満がおさまるどころか「どうして○○してくれないの?」とずっと言われ続けて、だんなさんも疲れてしまったのかもしれません。「暗くなって自室にこもる」などの反応は「子ども」の自我状態の反応です。
矢印で表すと二本の矢印が交わる「交叉的交流」になってしまいます。期待した自我状態から矢印が返ってこず、Y子さんからするとがっかりするようなやりとりです。
「交叉的交流」について、詳しくは管理人の別アカウントの記事で解説しています。
A(大人)の自我状態の回復
だんなさんは家を建てたことでいろいろな負担が増え、その上Y子さんの不満が続いていたので、どうすれば良いか分からず、自信もなくなり、だんだんとA(大人)の自我状態のエネルギーが下がっていってしまったのだと考えられます。
A(大人)の自我状態は、「冷静さ・客観性」にもとづいて、次のようなアクションを起こせます。
A(大人)の自我状態について、詳しくは管理人の別アカウントの記事で解説しています。
家を建てるまでは、だんなさんのA(大人)の自我状態はちゃんと働いていたと思います。そうでなければ「家を買う」などという大きな決断はできないでしょう。だからこのだんなさんは、本当は「頼りになる人」です。
でも、家を建てた後のY子さんとの関わりでA(大人)のエネルギーが減っていき、次第に「頼りになる部分」が埋もれて見えなくなってきてしまったのではないでしょうか。
プラスのストローク
このようにA(大人)の自我状態のエネルギーが低下してしまったときは、「ストローク」を受け取ることで回復することができます。
「ストローク」は「人の存在や価値を認める言動や働きかけ」のことです。「プラスのストローク」と「マイナスのストローク」があり、「感謝すること」は「プラスのストローク」にあたります。
Y子さんが「感謝」という形でプラスのストロークを向けてくれたことで、だんなさんのA(大人)の自我状態がだんだんと回復してきたのだと考えられます。
「どうして○○してくれないの?」という言葉がけは、相手の価値を値引いているので「ディスカウント」です。
Y子さんにとっても、相手が何かを「してくれない」という所よりも、何かを「してくれている」という点に意識を向けられるようになったことがプラスに働いたのだと考えられます。
ストロークとディスカウントについて、詳しくは管理人の別アカウントの記事で解説しています。
まとめ
この事例は初めは住宅に関する相談からはじまりましたが、実は心の在り方や交流のしかたが関係していました。N山さんのように、建築関係でありながら心や人間関係についても相談できる人というのはとても頼りになる存在だと思います。
N山さんが言っているように、Y子さんはもともとたくさんのエネルギーを使える人であるようです。そのエネルギーを、不満ではなく感謝することに使うことで、家族全体が良い方向へ変化できたのだと思います。Y子さん夫婦の関係が良くなることで、お子さんも元気になって良かったですね。