No.3_辰巳工業株式会社
はじめに
お祖父様の代から約70年、合金鋳造の技術を守り続ける辰巳工業株式会社。主にポンプなどの機械部品を製造している会社です。「合金」とは、2種類以上の金属を混ぜ合わせた特別な金属で、その中でも有名なのが「ステンレス鋼」。鉄にクロムを加えて錆びにくくしたり、さらに他の元素で強度や耐腐食性をアップさせた素材です。キッチン用品から建築資材、機械部品にまで広く使われています。辰巳工業では、この合金を溶かして型に流し込み、冷やして固める「鋳造」という伝統的な技術で、さまざまな部品を作り上げています。今回は、2代目のお父様、3代目のお母様から会社を受け継ぎ現在4代目となる今回は代表取締役副社長の辰巳雪絵さんにお話をうかがいました。
どんな会社ですか?
祖父が1957年に創業して、「含油銅合金」の製造をするところから始まりました。この技術は、金属に油を含ませることで摩耗を減らし、浸み込んだ油が金属表面にじわじわと染み出し焼付くことなく円滑に機械を動かせる画期的な材質でした。
私たちが作る製品は長期間、過酷な環境に置かれることが多いため、耐腐食性、耐久性を高めるために新しい素材や技術を積極的に取り入れながら品質を向上させてきました。例えば、1973年に移転した茨木市の工場では「高周波溶解炉」を導入し、ステンレス鋼の鋳造が可能になり、この技術革新により、さらに幅広いニーズに応えることができるようになりました。また、ステンレスと他の金属を組み合わせる高度な溶接技術を独自に開発して、ゴミ焼却炉で使うバーナーノズルなども作っています。さまざまなお客様の要望に幅広く応えながら、オーダーメイドで特別な部品を作ることも、私たちが得意とするところです。
私たちの職場は、高温・高熱下での作業が続く厳しい環境ですが、ものづくりへの情熱を持ち続け、毎日生産に取り組んでいます。私自身も幼いころからこの仕事を見て育ち、無形から有形のものが生み出されるものづくりの現場が大好きだったので、他の仕事をする選択肢は考えられませんでした。現在は20代から80代まで約60名の従業員が和気藹々と働いています。年齢や国籍に関係なく、みんな平等に意見を出し合いながらそれぞれの得意分野を活かしています。これが私たちの「人財力」であり、誇りです.
日頃どんなものを作っていますか?
私たちはさまざまなタイプの複雑な形をした機械部品を製作していますが、インペラー(羽根車)やケーシングと呼ばれるステンレス製のポンプ用部品がその一例です。ポンプは身近な例では、自転車の空気入れやプッシュ式ハンドソープ容器など、空気や液体を吸い込んで圧をかけ押し出すための機械装置のことをいいます。私たちが作っている製品は、上下水道施設で水を移動させたり、工場の水を冷却したり危険物を運んだりするための大規模なポンプに使われています。普段は水中や地中にあるので、目にすることはほとんどありませんが、私たちの暮らしを支える重要な部品です。
製作の工程は、部品の設計から始まります。その設計図を基に木材や樹脂などで模型を作ります。木型は私たちの技術と経験が詰まった大事なもので、熟練の職人が製作しています。一昨年からは3Dプリンターを導入し、樹脂型の模型を短時間で作ることも可能になりました。
次に、砂型を作ります。砂は高温で溶けた金属を流し込んでも耐えられる鋳造に適した素材です。使用後の砂は樹脂等の除去をし90%以上回収します。まさに循環型社会のお手本です。完成した砂型に、高温で溶かした金属を注意深く注ぎ込みます。職人になると注ぎ込むときの飛び散り方を見ただけで、どの種類の金属が入っているかわかるといいます。そのまま型を一晩置いて冷まし、ゆっくりと固めます。金属が型の中で均等に固まるために、適切な時間をかけて冷やすことが必要なのです。翌日、固まった金属を型から取り出し、研磨などの表面加工を施して鋳造品が完成します。
私たちの会社は山の中にあるので、現場に触れていただく機会はなかなかありません。 約4,000年前メソポタミアで始めたと言われる鋳造は、奈良の大仏と繋がり今日に至っています。できるだけ多くの方にこの魅力を知っていただきたいと思っています。
印象深い出来事はありますか?
30年位前、私たちは製品保証する為の成分分析装置が社内になかったので外部に分析依頼をしていました。そのころは成分調整をした金属を溶かし、分析用のサンプルを取りますが製品は既に完成していました。その後出荷するころには分析結果が判明しますが、分析値が外れる事はありませんでした。理由は材料の全てが成分管理されたものを使用し、正確に軽量すれば分析値が外れる事はなかったのです。しかし偶発的にある成分のみ過剰に混入し、異常品が出荷されてしまいました。そのときは速やかに全ての製品を回収して問題を防ぐことができましたが、この経験から分析を自社で行うことの大切さを痛感しました。高価なものでしたが、思い切って金属分析器を導入しました。今では溶解中、そして溶解後に成分分析を行い、次工程に移りますので、成分の異なった製品を製造する事は皆無になりました。これは会社にとって技術力や信頼を高める上でとても大事な決断だったと思います。
お仕事で大切にしていることはなんですか?
ものづくりには普段からの心がけが現れますので、いつでも「正直、誠実、素直」であることを大切にしています。いつもお納めした製品が、これから使用されるお客様の設備や装置を通じて、社会に役立つことを願いながらものづくりをしています。製品を送り出す際に「頑張って活躍してね」という気持ちで送り出しています。
また、社内で技術を磨くだけではなく、地域の方々や外部の方との交流を通して磨かれているものも大きいと思います。ありがたいことに、地域の方々も私たちの存在を快く受け入れてくださっていて、近隣の農家の方からお野菜を差し入れしていただくこともよくあります。
先日は、休日を利用して社員8人で能登地方のボランティア活動に参加してきました。地震の影響で倒壊した建物がまだだいぶ残っていて、胸の痛くなるような光景が広がっていましたが、現地で瓦礫の撤去や修繕などの復興作業のお手伝いをしてきました。きっかけは、2月より黙って有休を利用してボランティアをしていた社員に見習いました。社員たちも通常の業務では得られないような視点や経験を積んで、成長する機会を持てたのではないでしょうか。これからも地域に根ざしながら社会に貢献する姿勢を持って、技術力と人間力を兼ね備えた人材の育成に力を入れていきたいです。
今後の課題はありますか?
AIとの共存です。人員を削減するためのAI活用ではありません。AIは処理能力においては素晴らしいと思います。ですが予期せぬことが起こった時には生産性向上を妨げる可能性があります。人が優れている柔軟性やコミュニケーション能力を活かし課題解決することでAIと共存していきたいと思います。
ライターが感じた辰巳工業株式会社さんの魅力
サラサラの砂がしっかりと固まって砂型になる様子や、真っ赤に輝く液体状の金属が型に流し込まれる瞬間は迫力があって神秘的でもあり、圧倒されました。ものづくりの原点を感じるような光景でした。上下水道やゴミ焼却炉などのインフラを支える機械部品が、こんなに大変な暑い思いをしながらつくられていることを目の当たりにして、長い年月にわたって一生懸命に作り続けている職人さんたちの努力に感謝の気持ちが湧きました。
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