No.01_高石工業株式会社
はじめに
私たちが毎日のように使うお風呂やトイレ。シャワーのノズルやウォシュレットから水が飛び散らず、水圧を自由に調整できるのは、ついあたりまえのように感じているかもしれませんが、じつはその裏でゴムの部品がしっかりと水や空気を漏れないように守っているのです。これらの部品は「ゴムパッキン」や、断面がアルファベットの「O(オー)」の形をしていることから「Oリング」と呼ばれています。1946年の創業以来、水道周りのパッキン製品をつくってきた高石工業株式会社にお邪魔して、社長の高石秀之さんにお話を伺いました。
どんな会社ですか?
ゴム部品メーカーは日本国内には500社ぐらい、海外も含めるとたくさんの同業社がいます。私たちは主に水回りの部品を製作し、50年以上にわたって住宅設備機器のトップメーカーであるTOTOに数多くのゴムパッキンを納めています。ここ茨木の本社工場をはじめ、兵庫、鳥取、そしてベトナムの4ヶ所に工場を持ち、従業員数は約100名と小規模ですが、そのぶん小回りが効くことが強みになっています。
金型の製作から検品まで一貫した工程管理体制が整っているため、お客様からの細かいニーズや試作品の相談にも応じることができます。私たちのスローガンである「小さなことにしつこく真剣」という言葉通り、どんなに小さなご相談でも妥協することなく真摯に向き合い、お客様の期待や難しい要求に迅速に丁寧に応え続けることで信頼を築き、取引先として最優秀賞をいただけるまでになりました。
また、ゴム業界では製造工程やノウハウが企業秘密として守られることが多いですが、私たちは工場を公開して実際にどんなものをつくっているか見ていただきたいと考えています。初めてのお客様にも安心してご相談いただける「親切でオープンな会社」を目指しています。
日頃どんなものを作っていますか?
ゴムと一口に言っても、いろいろな種類があります。例えば、水道用のゴム、油や高温に強いゴム、ガスや特殊な化学物質に耐えるゴム、食品や医療の分野でよく使われるシリコンゴムなど。私たちの会社でつくっているのは、主にキッチンやお風呂場、トイレなどの水道周りで使われるゴムパッキンです。すこしでも水漏れすると大変なことになりますから、温度や湿度の変化に強く、長期間使っても変形したり破れたりしないように、さまざまな工夫を重ねます。
作り方は、ゴムの原材料にさまざまな薬品を混ぜて練り込み、強度や耐久性を調整します。こうしてできた様々な種類のゴムで、試作品も合わせると数えきれないほど多様なゴムパッキンを作っています。
ちなみに、Oリングはほとんどが黒色をしています。その理由は、ゴムの強度を高めるために「カーボンブラック」という炭素の粉末を混ぜているからです。このカーボンブラックを加えることで、ゴムがより強く長持ちするようになります。どんな原材料や薬品を使うか、どう混ぜるかは企業秘密。ラーメン屋さんの秘伝のスープのように会社ごとに違います。こうして日々試験を繰り返しながら、厳しい品質管理の下、安全で長持ちするゴムの製造開発をしています。
印象深い出来事はありますか?
2010年、私たちの会社は大きな危機に直面しました。私が3代目社長を引き継いで4年目のことです。工場の改善や改革も行い、新しいことにもチャレンジしようとしていた矢先のことでした。大切な取引先に納めた部品のリングが切れるという深刻な不具合が発生し、大変厳しいお叱りを受けました。その後の監査では、問題ないと思っていた管理や教育の仕組みも全然だめ、と言われて天地がひっくり返るようなショックでした。もう会社が潰れてしまうと思いましたが、若い幹部層が「このままではいけない」と立ち上がってくれてベテラン社員とも協力し、何度もお客様のところへ行ってアドバイスを受けながら、工場の品質管理体制や製品の検査方法を徹底的に見直しました。その結果、なんとか信頼を取り戻すことができました。
先代から築いてきた信頼関係のおかげでもあったと思いますが、このときお客様が私たちを見放さずお付き合いくださったことはありがたかったですね。以来、社内のコミュニケーションがより深まりました。当時の工場長から「あの時、一番変わったのは社長だ」と言われたことが印象に残っています。
お仕事で大切にしていることはなんですか?
この経験は、日頃から謙虚さを忘れず、お客様に安心して選んでいただける会社であり続けるために大切なことを教えてくれました。製造過程の早い段階から各社員が細かいことにも真剣に取り組み、「おかしいな」と感じたことがあればすぐに指摘し合える風土を育む、いわゆる「ヒヤリハットの法則」に基づいて安全意識を高めて、問題の早期発見と未然防止を行なっています。
作業中だけでなく普段からのコミュニケーションや気持ちよく挨拶することも大切にしています。以前はシャイで挨拶が得意でなかった社員も、誰かが来られると自然に立ち上がって挨拶してくれるようになりました。私自身、毎朝のトイレ掃除と会社の門の前で従業員や通行される皆さんへの挨拶を10年以上続けています。最初は怪訝な顔をされていましたが、今は「子どもたちの見守りをありがとうございます」と言っていただいたりして、自然と地域の方とお話しするきっかけが生まれています。
こうした小さなことの積み重ねが、自分達が作るものの安全性や品質の向上に繋がっていると思います。私が何も言わなくても、社員一人ひとりが自主的に動いてくれるのが嬉しいですね。
今後どんな挑戦をされますか?
創業以来、新しいことにも挑戦してきた当社ですが、特に大きなターニングポイントになったのが10数年前から始まった水素ステーション向けのOリングの開発です。はじまりは、九州大学の教授からの一本の電話でした。水素分子は非常に小さいので、一般的なゴム製品ではこのガスを漏らさずに封じ込めることは至難の業です。私も最初は無理だと思いましたが、好奇心が勝って依頼を受けてしまいました。後から、じつは10社以上の会社に断られていた挙句に当社にたどり着いて、救いの神だと思ってくださっていたと聞きました。これはまさに「小さなことにしつこく真剣」が試される取り組みでした。2年以上の年月をかけて試行錯誤を繰り返し、50種類以上もの試作品を作った結果、日本では先進的な水素ステーション向けのOリングを開発することができました。
もちろん、長年培ってきた水道周りのゴム部品という主軸製品の基盤があってこそ未来に向けての挑戦も続けることができます。社長の道楽とも言えるかもしれませんが、社員も真剣にこのプロジェクトに取り組み、この事業を通して得た技術と経験を水道周りのゴム部品にも活かすことができるようになりました。また、水素のことなら当社へとお問合せもいただけるようになり、結果的に私たちの会社のアピールポイントになっています。
水素技術は2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、これからますます注目される分野です。年末にはドイツでの展示会があり、今後も積極的に世界市場に進出して水素用ゴム製品の認知度を上げて、未来のエネルギー供給を支える役割を果たせたらと思っています。また、主軸である水道周りの製品分野では2030年にTOTOが世界での売上倍増を目指しており、当社もその目標についていけるように、鳥取に大規模な工場を新設しています。工場の拡張には数年をかけて段階的に設備を整えていく予定です。
これからも私たちの作るゴムの力で、みなさんの日常や未来を支えていきたいと思っています。
ライターが感じた高石工業さんの魅力
高石工業さんを訪れてまず感じたのは、皆さんが笑顔で挨拶してくださる温かい雰囲気です。社長もとても親しみやすく、素人でも理解しやすいようにざっくばらんにお話ししてくださったおかげで、すぐに緊張が解けました。お話を伺うまではOリングの存在さえ知りませんでしたが、シャワーノズルやウォシュレットの影の立役者だと知って、ゴムを見る目が少し変わりそうです。また、この小さなゴムのリングが、これから世界で活躍するであろう水素ステーションを支える重要な役割を果たしていることにも夢を感じました。日常から未来までを繋ぐゴムをつくる高石工業さんの活躍を、これからも注目していきたいです。
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