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警護業務受注までの流れ

2.警護業務受注までの流れ

前回記事で紹介した、法令で定められた要件をすべてクリアし、ボディーガードとして働くことのできる体制が整い、身辺警護・要人警護業務を適正に実施するために必要な知識と技術を習得したら、いよいよ警護の仕事を受けます。

(1) 警護問い合わせ

身辺警護・要人警護の仕事は、“警護の問い合わせ”から始まります。
通常、電話やメール,自社ウェブサイトの依頼フォームなどから、問い合わせが入りますが、他にも、ボディーガードのネットワークや、仕事のコネクションからの紹介などもあります。

警護問い合わせでは、様々な質問やリクエストを受けますが、以下のような間違った問い合わせを受けることも多くあります。

・○○月××日に、ボディーガードを○名お願いしたいのですが可能ですか?
・明日なのですが、ボディーガードを○名出せますか?
・身辺警護をお願いしたいのですが、おいくらですか?
・身体の大きな黒人のボディーガードを用意できますか?
・ボディーガードと一緒に防弾車を用意できますか?

平和な日本では、身辺警護・要人警護業務自体がめずらしく、依頼するお客様も、どのように問い合わせて良いのかわからず、上記のような質問をしてくることがよくあります。そしてこれらの質問には、大きな間違いがあります。

・○○月××日に、ボディーガードを○名お願いしたいのですが可能ですか?

→ 警護希望日の情報は良いのですが、何名のボディーガードが必要となるかについては、セキュリティのプロである警護側が判断・提案をします。
・プリンシパル(Principal: 警備対象者)は誰なのか?
・プリンシパルの社会的地位や社会的知名度は?
・警備中どこに行くのか?
・何をしに行くのか?
・移動手段は?
・同行者は?
・想定される脅威は?
・なぜ警護が必要なのか?
・持病やアレルギーの有無は?
・常備薬は?
など、さまざまな情報をもらい、これらの情報を基に警護チーム(警備業者)は、脅威の評価を行います。そして、この脅威評価に基づいて警備計画を考案し、そこで初めて何名のボディーガードが必要となるのかが決まるのです。事前に何の情報も提供せずに、『○名のボディーガードをお願いします』とリクエストしてくるケースは、その根拠が、セキュリティの素人による判断か、または単に予算の問題だけを考えたものです。ボディーガードの業務は、脅威評価や警備計画を間違えると、現場で大事故や大怪我,場合によっては死に至ることもあります。素人の判断や予算の都合だけで『○名のボディーガードを派遣します』とは、怖くて言えません。

・明日なのですが、ボディーガードを○名出せますか?

→ 第2章でも紹介しましたが、身辺警護・要人警護業務を適切に実施するためには、大きく4つのステージが必要となります。
 ステージ1: 情報収集
 ステージ2: 情報分析・脅威評価
 ステージ3: 警備計画・警備準備
 ステージ4: 警備実施・補正改善

警備を実施する前に、最低でも3つのステージの作業が必要となるわけですが、これを、今日の明日ですべて完了するのはほぼ不可能です。大規模な警護業務ともなれば、3ヶ月近い準備期間を経て、ステージ4の警備実施に至ります。小規模な警護でも、最低1週間の時間は必要となります。また、先の問い合わせ同様、何名のボディーガードを出せば良いのかは、事前の情報提供(情報収集)と脅威評価,警備計画を経ないと割り出すことができません。

・身辺警護をお願いしたいのですが、おいくらですか?

→ 具体的にどのような警護になるのかを想定してからでないと、費用の見積もりを算出することはできません。この問い合わせもまた、警護業務実施に必要な4つのステージを知らないことから出てくる質問です。

・身体の大きな黒人のボディーガードを用意できますか?

→ なぜ身体の大きな人が必要なのか。なぜ黒人が必要なのか。しっかりと理由を確認する必要があります。身体の大きさや肌の色は、本来、警護効果と何の関係もありません。単に見た目だけを求めているのであれば、警備業者ではなく、モデル事務所に問い合わせるべきです。しかし、もし本当に警備上必要な要件として、身体の大きさや肌の色が関係してくるのであれば、その理由を明確にした上で、必要な準備を整えて警護にあたります。

・ボディーガードと一緒に防弾車を用意できますか?

→ 先の『身体の大きな黒人ボディーガード』という問い合わせと同じく、『なぜ防弾車両が必要となるのか』を明確にする必要があります。特に日本国内では、銃器を使った攻撃・襲撃はあまり起きません。それにもかかわらず『防弾車両が必要』ということはつまり、銃器による攻撃・襲撃が想定される、ということになります。ではなぜ、そのプリンシパルは銃器で狙われるのでしょうか。銃器で狙われるような職業や人物なのでしょうか。これらの質問を投げ返すと、問い合わせ者の多くは、「いや、ただ何となく念のため…」と答えます。併せて防弾車両を準備する費用などを説明すると、「やっぱり防弾車でなくていいです」と言う方が多いです。警備体制や警備手法は、適切な脅威評価によって決定されます。そして脅威は、現実的な可能性の高さによって評価されるべきものなのです。

警護問い合わせの段階で大切なことは、警護依頼の方法をまったく知らないクライアント(Client: 依頼者)に対し、適正な警備を実施するための4つのステージの必要性と重要性を説明し、理解していただいた上で、まずは最低限必要な情報を提供していただくことです。加えて、警護を必要とする理由や、リクエストする内容の理由と目的,クライアントやプリンシパルが見ている最終ゴール(目的)などを明確にするため、必要なインタビュー(聞き取り)を行います。これらはすべて、後の“脅威評価”に繋がっていきます。この最初のアプローチを間違えると、適正な警備ができなくなるだけでなく、プリンシパルや警護チームを危険にさらすことにもつながります。


クライアント(問い合わせ者)から必要な情報の提供を受けたら、次に警護チームはアドバンス・ワーク(Advance Work: 警護事前準備作業)に取り掛かります。


次回は《警護業務受注までの流れ (2)アドバンス・ワーク》について紹介します。


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