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警備実施前準備“アドバンス・ワーク”
アドバンス・ワーク① 情報収集〜脅威評価
身辺警護や要人警護を必要とするクライアント(Client: 警備依頼者)から、警護に関する問い合わせや依頼が入り、必要となる基礎的な情報を収集したら、警護チームは次に、より具体的かつ詳細な情報の収集を始めます。これは、クライアントからの聞き取り(インタビュー)などで入手した情報だけでは、次に行う脅威の評価や適正な警備体制のプランニングを行うことができないためで、セキュリティのプロフェッショナルとしての立場から、より具体的で詳細な情報を追加収集し、また、必要に応じてクライアントからの情報を修正し、確実な脅威評価へと繋げていきます。この、警護チームが実施する事前情報収集→脅威評価→警備計画→警備準備までの行程をまとめて、アドバンス・ワーク(Advance Work: 警備事前準備作業)と言います。
1. 情報収集 (Information/Intelligence Gathering)
アドバンス・ワークの作業で最初に実施されるのが、必要な情報の収集です。先に入手した、クライアントなどからの基礎情報を基に、警備上必要となる追加情報を収集していきます。クライアントが事前に警護チームに提示する基礎情報は、あくまでもクライアントが依頼者の立場から判断し、提示したもので、警備上必要な情報がすべて揃っていることはほとんどありません。そこで、セキュリティのプロフェッショナルとしての立場から、警備上必要な追加情報を、様々な手法で入手していきます。
(A) プリ・アドバンス・ワーク (Pre-Advance Work)
OSINT(オシント: Open Source Intelligence)と呼ばれる情報収集の手法で、既にインターネット上などにある様々な情報を、パソコンなどを利用して多角的・包括的に収集し、その正確性を見極めてから情報をまとめます。この後現地などで行う(B)インタビューや(C)現地査察・下見の前にまず実施し、このプリ・アドバンス・ワークで入手できなかった情報について、またはプリ・アドバンス・ワークで入手した情報の正確性や詳細,情報の新鮮さなどを確かめるために、インタビューでどのような質問を行うべきか,現地査察でどのようなポイントを下見しておくべきか、などのチェック項目をリストアップします。プリ・アドバンス・ワークは、単にOSINTを利用した情報収集活動ではなく、現地でのより詳しい情報収集活動において、“漏れ”や“間違い”が発生しないように、準備するための作業でもあります。
(B) インタビュー (Interview)
クライアントやプリンシパル(Principal: 警備対象者),関係者や訪問先担当者などと面会し、警備上必要な情報に関する質問を投げ、回答を得ます。質問項目については、プリ・アドバンス・ワークで収集した情報を基に、事前に準備しておきます。併せて、警備業務を実施するのに必要な警護チーム側からの要望や情報の提供,協力要請なども行います。
(C) 現地査察・下見 (Site Survey/Recce)
プリンシパルの自宅(滞在先ホテル)や職場,訪問予定場所などを実際に訪問し、現地の査察・下見を行います。いきなり現場へ出かけて行き、チェックをしようと思っても、“漏れ”や“見落とし”が出てしまうため、現地査察・下見もまた、プリ・アドバンス・ワークでの情報を基に、チェック項目を事前にリストアップしておきます。併せて、各ロケーションへのアプローチ・ルートや車両乗降ポイント,平時の移動動線や緊急時の避難ルートなども確認します。
2. 脅威評価 (Risk/Threat Assessment)
収集した情報(食材)は、そのままでは警備業務(料理)に利用できないため、警備業務に利用できるように調整(下ごしらえ)します。この作業が“脅威評価”です。“危険評価”や“危機評価”などと呼ぶところもあります。
適正な警備業務を実施するためには、その大前提として、『何を護るのか』『何から護るのか』を明確にしなくてはなりません。『何を護るのか』については情報収集活動で明確にし、『何から護るのか』については、この脅威評価で明確にすることができます。『何を護るのか(for what)』と『何から護るのか(from what)』が明確になれば、自然と『どう護るのか(how)』という警備プランが浮かんできます。あとは、その通りに警備を実施し、現場での状況に併せて調整していくだけです。
警備業務の方程式とは、
何を護るのか(for what) + 何から護るのか(from what) = どう護るのか(how)
なのです。
脅威評価を行う上で最も大切なことは、根拠ある『現実性・可能性』を見極めることです。
警備業務を知らない一般の人々や、専門教育をちゃんと受けていない警備員や警備会社では、ありとあらゆる脅威に対して、すべてが恐怖に感じてしまったり、逆に、現実的に存在する脅威に対して、何の根拠もなく「たぶん大丈夫だろう」「何も起こらないだろう」と楽観的に判断するミスを起こしてしまいます。大切なことは、収集した様々な情報を基に、想定される様々な脅威ひとつひとつに対し、その脅威が実際に起こりうる『現実性』と『可能性』を正しく評価することです。この評価を正しく行うことができれば、すべてが怖く感じたり、存在する脅威に楽観的な対応をしたりするミスはなくなります。世の中に100%安全・100%危険というものは存在しません。現状がどの程度なのか、その状態から、少しでも安全性を上げるためにはどうしたら良いのか、これを把握・判断するのが脅威評価です。つまり、脅威評価で失敗してしまうと、適正な警備・警護が実施できなくなることを意味し、結果、現場で何か起きた際に対応できない、といったミスが発生してしまうのです。
平和な日本では、危険な状態が発生するということがあまりため、脅威評価ミスによる楽観的警備でも、結果的に何も起こらず、自分たちが実施した警備が適正であったか否かの正しい判断ができないまま各警備業務を終える警備会社も少なくありません。そのような警備は、ある時、突然危険が発生した場合、当然対応しきれず、大きな損害や問題を引き起こすのです。
なぜ、日本の警備会社には定年退職したような年配の方や、仕事に就くことができない若者などが多いのか考えたことはありますか?それは、警備会社自体が脅威を正しく評価できておらず、何の根拠もなく「たぶん大丈夫だろう」「何も起こらないだろう」という楽観的評価を基に警備計画を立て、警備を実施しているためで、「どうせ何も起こらないのだから、警備員なんて誰でもできる。」という結論に行き着いた結果です。正しい脅威評価ができている警備会社であれば、何か危険が発生した際に対応できる人材の確保と、そのための人材育成を行っているはずで、警備業務を“誰でもできる単純な仕事”とは考えないものです。警備業界全体にも影響し得る、警備業務の最も重要な要素、それが“脅威評価”なのです。
次回は《アドバンス・ワーク② 警備計画〜警備準備》について紹介します。