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ボディーガードの適正〜ボディーガードに向く人・向かない人

「ボディーガードになりたい」と思っても、残念ながら誰でも簡単になれるような仕事ではありません。ボディーガードの適正とは、努力でどうにかなる部分と、努力だけではどうにもならない部分があります。どのような人がボディーガードに向いていて、どのような人が向いていないのか。ボディーガードに必要な4つの資質を紹介していきます。

ボディーガードに必要な4つの資質

ボディーガードとなる人には、大きく以下の4つの資質が必要だと言われています。
① 警備力
② 人間性
③ 安心感
④ 向上心

それぞれ詳しく説明していきましょう。

① 警備力

当然のことですが、ボディーガードは要人警護・身辺警護のプロフェッショナルでなくてはなりません。これでクライアント(Client: 依頼者)からお金を頂くわけですから、警護の素人では困ります。警護のプロフェッショナルとして必要なスキル・知識については、後々詳しく紹介していきますが、例えば、警備に必要な情報収集能力があること,収集した情報を分析し脅威を正しく評価できること,分析した脅威評価に基づいた警備計画が立案できること,周辺観察能力が優れ、的確な状況判断と行動が取れること、などが挙げられます。この“警備力”は、高度な教育訓練を受け、努力することで習得が可能なものです。

② 人間性

いくら警備力が高くても、人間として、また一社会人として成熟していなければ、ボディーガードには適しません。様々なプリンシパル(Principal: 警備対象者)を護るボディーガードは、時にVIPが参加する晩餐会などのフォーマルなパーティーに同行したり、著名人のそばで一緒にメディアに映ってしまうことなどもあります。位の高いプリンシパルになればなるほど、人間として、一社会人として成熟していないボディーガードを近くに置きたがりません。彼らの社会的イメージに悪い影響を及ぼすためです。
また、ボディーガードは警備中、普通とは異なるサスピシャス・サイン(Suspicious Signs: 不審兆候)に敏感になっています。危険が起こる時は必ず、事前に不審な兆候が出ます。これをサスピシャス・サインと言いますが、ボディーガードの仕事は、危険が起きてから対処することではなく、危険が起こる前にこのサインを察知し、できるだけ早い段階でプリンシパルを危険から遠ざけることが必要となります。
人間として、一社会人としてのコモン・センス(Common Sense: 一般常識)が無ければ、このサスピシャス・サインを見つけ出すことはできません。普通と異なるサインを見つけるためには、“普通”とはどのような状態なのかを理解している必要があり、その人(ボディーガード)自身がまず“普通”でなくてはなりません。非常識な人,社会人として成熟していない人は、“普通”という状態がわかりませんので、当然“普通ではない状態”にも気付きづらくなります。ボディーガードがコモン・センスを持つことは、必須条件です。

③ 安心感

警備力と人間性が備わっていれば、ボディーガードとしてほぼ合格ですが、さらにこの“安心感”が加わって初めて、仕事としての警護業務に従事できます。
“安心感”とは、クライアントやプリンシパル,その他の関係者が抱く、ボディーガードへの“安心感”を指します。いくら警備力が高く、人間性が備わった立派な人物であっても、例えば、いつもオドオドしており、自信がなさそうで、弱そうに見えるボディーガードに、クライアントやプリンシパルは“安心”を感じません。ボディーガードには、しっかりとした見た目(容姿)や、堂々とした立ち居振る舞い,安心感を与えるコミュニケーション力なども求められるのです。

サービス業である民間ボディーガードでは、プリンシパルに対し、“安全と安心”を提供することでお金をいただきます。この“安全と安心”という言葉を、よく警備会社などが使いますが、本当にその意味を理解して使っているところは多くありません。

“安全”とは、しっかりとした根拠に基づいて、物理的に状況をセキュア(Secure: 安全化)したことであり、第三者が客観的に見ても、確実にセキュアされた状態を指します。つまり、プリンシパルがどう思おうとも、間違いなく状況が安全になっている状態を意味します。これに対し“安心”とは、実際に状況がセキュアされているか否かに関わらず、当該関係者が主観的に安全を感じている状態を指します。つまり、実際にはセキュアされていなくても、プリンシパル本人が不安を感じていない状態であれば、それを“安心”と言います。
日本では、見た目(身長や筋肉)や格闘家というだけで警護を行う警備会社が少なくありません。しかし、本来ボディーガードがやるべき仕事や待つべきスキルというものを知らないクライアントやプリンシパルは、その見せかけだけのボディーガードを見て、なんとなく“安心感”を感じてしまうのです。このことで、現場に出たボディーガードや派遣した警備会社は、自分たちがしっかりとした警護を行った、と勘違いしてしまいます。なぜなら、日本は平和で滅多なことで事件は起こらないため、未熟な警護でも、なんとなく“警護っぽいこと”が完遂できてしまうからです。

実際にセキュアされていない状況の主観的な安心感は、心の中では安心できていますが、実際に何か事件が起きた際には、当然適切な対応などできません。状況は最初からセキュアされていないからです。セキュリティの本来あるべき姿は、『しっかりとしたセキュアに基づいた根拠ある“安心感”の提供』です。根拠のない主観的な“安心感”は、卓球のピンポン球のように中身が空っぽで、ちょっとした外的圧力ですぐに潰れてしまいます。ボディーガードに求められる“安心感”とは、“警備力”と“人間性”という中身が詰まった上で、さらにその外側に被せられる“殻”のようなものです。しかしこの殻がとても重要で、先に述べたように、クライアントやプリンシパルは、ボディーガードがやるべき仕事や持つべきスキルなどは知らないため、どうしても、中身よりも先に“殻”を見てボディーガードを評価しがちです。「人は見た目で判断できないが、人は見た目で判断する。」やはり、容姿や立ち居振る舞いなどの見た目も、クライアントやプリンシパルに“安心感”を与えるためには重要なファクター(要素)なのです。

④ 向上心

警備力があり、人間性が備わり、かつ安心感を与えることができるボディーガードは、ほぼボディーガードとして完成した人物です。しかし、『自分はもう一人前のボディーガードだ』と思ったその瞬間から、その人のスキルは落ち始めます。『人は立ち止まると腐る』のです。常に、より良い警備をするためにどうしたら良いのか,より良いサービスを提供するために他にできることはないか,自分自身のスキルをさらに向上させるために今後どのような努力が必要なのか、などを意識しているボディーガードは、立ち止まることをせず、常に向上し、そして常に謙虚です。国内外を問わず、『自分は立派なボディーガードだ』と思っている(または豪語する)ボディーガードを多く見てきましたが、残念ながら彼らには人間としての魅力は感じませんし、尊敬もできません。クライアントやプリンシパルも同じ人間ですから、同じようなことを感じます。どのような職業でも、プロフェッショナルとしての自信や誇りを持つことは大切です。しかし、自信過剰や行き過ぎたプライドは、その人の成長を止め、最終的に“人間性”をも削ってしまいます。日本には、素晴らしい言葉があります。
『実るほど、頭を垂れる稲穂かな』
常に向上心を持ち、謙虚に努力し続けることが、どのような職業においても、プロフェッショナルに必要な資質であり、ボディーガードも例外ではありません。


次回は、「人を護るとはどういうことか」を紹介します。


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