超熱血塾 vol.4 「ごきげん道」を極めよう! 辻 秀一さん
目指しているのは、いつもごきげんな人……?
突然ですが、わたしには目標としている人がいます。
トミナガカヨコさん。
ドラマ『きのう、何食べた?』※1 の主人公・筧史朗(シロ)さんのご近所さんにして、よき相談相手の主婦。シロさんとスーパーの店先で出会ってからというもの、特売品やいただきものを分け合ったり、一緒に料理をしたりする。女優・田中美佐子さんが演じているキャラクターです。
ゲイカップルの日常や、だからこその諸事情が描かれている本作品。カヨコさんは、シロさんがゲイであることをあっさりと受け入れ、愚痴を聞いたり的確な一言を与えたりする。
自分の日常を楽しみながらシロさんと付き合うカヨコさんに憧れている(ぜひドラマでも、原作漫画でもたしかめていただきたく)。
いばふくの講演「超熱血塾」を体感!
さて、スポーツドクターの辻秀一先生の「自分で自分の機嫌をとる」というお話※2 を聞いたことからの、冒頭である。
そうだった。わたしがトミナガカヨコさんを目標とするのは、自らごきげんに生きている人だからだ。
辻先生は言う。
「目標を達成するためには、それにふさわしいパフォーマンスができる・行動できる、そんな自分をつくること。
このパフォーマンス、たった2つでできてるんですよ。『内容』と『質』です。今この瞬間もそう。みなさん、何をするかの『内容』、についてはわかりますよね。だけど、それをどんなココロでやるのかという『質』が重要なんです」
ココロの状態によって人生の質が変わる。
ココロの状態がよくないと、会話の質が悪くなる。思考の質が落ちるからだ。
「質」って? ココロの状態って?
目に見えないものだから、意識がしにくいけれど……と辻先生はつづける。
「Quality Of Life(クオリティー・オブ・ライフ)※3」。
病気を治すことよりも「本当に生きるとは」を考え、人が自分らしく心豊かに生きること。人生の質を決めているのは、自分の心の状態なのだ。
自分で自分のココロをマネージメントすることで、ゆらがず、囚われず、生き生きのびのびとできる。これが機嫌のいい状態になる境地だ。これを「Flow」と言う。
反対に、不機嫌な状態を「Non Flow」と言い、ストレスを感じ、何かに囚われているココロの状態。
「Non Flowの状態がつづくと、病気になりやすいとも言われています」
ごきげんな状態の「Flow」。自然体であって、この状態が続くと「ゾーン」という究極の集中状態になる。
両極の「Flow」と「Non Flow」の状態によって、人生の質が変わる。機嫌がいい「Flow」状態では、人生の質が上がり、何かに打ち込む時間が増え、一緒に仕事をしたいと仲間も集まってくる。結果や成果がいい方に変わるのはもちろん、自身の変革や成長にもつながる。
機嫌が悪いことは、どんな流行病よりも感染力が強く、周りに悪影響を与える。質も下がる。
「ごきげん道」を生きるための8か条
ここからは、ごきげん道を生きるための考え方として、辻先生が示す8か条をご紹介します。日々練習することで、自分のものにしていこうではありませんか!
① ごきげんの価値を考える
ごきげんであるとなにがいいのか? 機嫌がいいと、面白いアイデアが浮かびやすい。自分のいいところに目を向けられる。他者の話を素直に聞ける。……ごきげんの価値を言語化することにチャレンジしてみよう! ごきげんでいることは価値があると認識することが大切です。まずは20個を目指して、ごきげんの価値を書き出してみよう。
② 今に生きる(自分でリセットする)
ひとは、整理のつかない過去や予測不能の未来を考え、不安や心配を抱えてしまいがち。「今」に意識を集中させることで、ココロを整えることができます。今の重なりがあることを知って、自分で気持ちの切り替えができるように練習しよう。
③ 一生懸命は楽しい!
まずは一生懸命が楽しいってことを知って、人生を豊かにしていこう。たとえば、子どものとき、一生懸命泥団子をこねるようなことをしていたでしょう。ところが大人になってくると損得勘定が出てくる。得じゃないと頑張れなくなる。結果や成果が出る前に、「一生懸命」があることをお忘れなく!
④ ありがたいと考える
自分を大事にしている人は、周囲への「ありがとう」を増やします。感謝をする対象を見つける習慣ができているわけです。相手から言われる前に、自分がありがとうと言うことが大事。油断をすると文句が出ちゃいますからね。ココロが乱れそうになったら、「ありがとう」を探してみよう!
⑤ 自己ツールを大切にする(表情・言葉・態度)
外からの情報や環境、状況に反応して表情・言葉・態度が出る。けれどももっとも影響力をもつのは、自分の口から出る言葉。それを自分の耳が聴いています。内省が一番影響してくるんです。自分を大事にするからこその、笑顔やあいさつ。自分がどんな情報を入れるか、そこから出る自己ツールをよくよく観察して発していこう。
⑥ 好きなことを考える(食べ物)
好きな食べ物はなんですか? 好きなもののことを考えてみよう。……どうですか? 自分の「好き」を考えただけで、さっきよりごきげんになっていませんか? 心身ともにリラックスした時に発するアルファ波が出ているんです。好きは自由! 考え、イメージするのも自由! 自分の「好き」を考える時間をつくろう。そして、まわりのひとにも聞いてみよう。
⑦ なぜ自分はそれをやるのかを考える
目標は大事。ただ、目標だけを追い続けるのは、出口があるかわからないトンネルを進みつづけなきゃいけないようなもの。必要なのはその理由を考えること。なぜ自分はそれをやるのか、やりたいのか? 自分に問う。自分の行動に対して「なぜ」を問いかける練習をしてみましょう。
⑧ 感情に気づく(ライフスキル)〈ネガティブなものでもOK。人間だもの〉
わたしたちは、いつも「出来事」に脳みそを接着させて生きています。出来事の要因は全部外にある。けれど、あなたの人生の中心はあなたで、あなたの中にいろんなことを感じている「感情」があるはず。その感情に脳みそを向けることが、何より自分を強くしていくんです。ネガティブな感情でもOK。「いまどんな気持ち?」を自分に問うて、感情を書き出す練習をしてみましょう。意外と言語化できないひとが、少なくないんだとか……!?
「スポーツは文化である」
スポーツドクターである辻先生は、たくさんのスポーツの種目やそこで活躍する選手のことを例に出して、わかりやすく説明をしてくれた。
が、わたしは思ったよりエピソードに反応できなかった。というよりも、「スポーツ」というキーワードを無意識に、他人事としてとらえていたのかもしれない(だから冒頭、トミナガカヨコさんを引っぱりだしてまで、自分ごとにしようとしていた……)。
「スポーツ」との間の距離――わたしがスポーツから離れてしまったのは、いつだろう……? 講演のなかの、辻先生の言葉が残った。
「スポーツは文化である」
文化=Cultureとは、人として心豊かに生きるための人間活動を指す。
え? 文化とスポーツは分野を異するものでしょう、と話を聞いていると、スポーツの本質が見えてきた。
辻先生はスポーツと文化が相反するものとされる現状には、日本の「体育」があると言っていた。
体育のイメージ、みなさんはどんなものが浮かぶだろうか?
うさぎとび、訓練、鍛錬、訓練、鍛錬、気合、根性、しんどさあってのもの……。
わたしもずっと、体育の時間が苦手だった。ドッヂボールではいつも元外(もともと外野の略)で、人数が少なくなったときに増員させられ、飛び交うボールから逃げ惑っていた。思い出しただけでもこわい。
「一番」を求めたり、より高度な技の習得を目指す日本の体育教育には、改善の余地があると、辻先生は言う。
そうか。ふりかってみると、わたしとスポーツと親しくなれず、袂を分かつこととなったのは、小学生の体育のとき……。3月生まれのわたしは、小学低学年では身体も小さく、運動能力も低かった。それは、クラスメイトよりも発達が遅かったからだとわかったのは、つい最近のこと(4月生まれの人とは約1年の差になる!)。かけっこはいつもビリだし、ドッチボールは元外だし、ボールを当てられて泣いているような子どもだった。そういう失敗(運動音痴はダメなのだと思っちゃうような)経験があるから、体育は嫌いになるし、クラブや部活の選択はむろん文化系にとびつき、今に至る。
あのときからわたしは、ずっとスポーツを遠ざけていたんだ。
時は経ち、大人になって、ココロがすこしくたびれたときや元気がないとき、「ココロとカラダを整える手助けをしてくれるような専任のコーチがいたらなあ……」と真剣に考えたことがある。そうして、いやいやそりゃむずかしいよなあ、とその考えを打ち消し打ち消しここまできた。スポーツと自分は交わることがないと思っていたから。
辻先生のお話は、わたしのココロのスキマをすーっと埋めてくれた。
スポーツは文化であるという考え方は、「応用スポーツ心理学」にあると言う。この考え方は、スポーツだけでなく、社会にもあらゆる仕事にも活かせる。もちろん介護の仕事にも。
スポーツとわたしは再会を果たすことができた!
WBC優勝までの道のりは涙を拭って応援したし、プロ野球は球場に行って観戦もした。両国国技館には、大相撲を観に行って、今では力士の名前も言えるし、推しもいる。
なあんだ、できるじゃん。
かつてのわたしに、いまに「スポーツ」と仲直りできることを教えてあげたい。
text by Azusa Yamamoto
photo by Nazuki Hosokawa