〈ケアデザインサミット2023〉第三部くらしとまちづくり―北養会 伊藤浩一さん
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普段、「いばふく」をウロウロしているわたしからしても、伊藤さんは謎の存在。法人の“偉い人”には違いないのだが、いばふくのイベントのエンディングには必ずギターを持って登場するし、いつ会ってもなんだか楽しそうなのだ。
今回マイクを握った伊藤さんも、ニコニコ顔である。
「私が所属している北水会グループ。どんなグループかといいますと、病院や介護福祉、保育園、医療・介護の専門学校、フィットネスクラブなど、50事業を展開しています。総従業員数は2590人。茨城県の水戸市、つくば市、東京・江戸川区、荒川区にて事業展開しています!」
はつらつと話はじめた伊藤さん。ええ、なんていう大きな……マンモス組織なんだ! いままで、鼻たらして一緒に遊んでた近所の兄ちゃん的存在だったのに。
「大きく分けて3つの仕事をしています。
1つ目は、『水高(スイコウ)スクエア』という、北水会の象徴的な場所ですね。医療・介護福祉・教育の分野が、東京ドーム1個分の敷地内に12施設あります。このなかの個々の施設の施設長をやっています」
規模も巨大……。「このまえ、東京ドームでレッチリのライブ観てきました〜。最っ高!」そう言って、ロッカー・伊藤ははしゃぐ。
「2つ目の仕事は、いばふくを主催する『いばらき中央福祉専門学校』の学校長代行です」
ご存知、“茨城から福祉で世界を元気にするプロジェクト”「いばふく」の生みの親の顔でもある。学生を前に講義をすることも。
「本日のケアデザインサミットの会場である『ちいきの学校』が3つ目の仕事です。
私は、誰もが自分らしく生き生き生活できる社会をつくりたいと思って、日々がんばっています。具体的に、どんなことをしているのかっていうのをお話していきますね」
①水高スクエアの顔
一日に3000人が利用するという「水高スクエア」。ここには日々730人もの専門職員がそれぞれの分野で活躍している。
「介護福祉士、薬剤師、介護支援専門員、専門学校教員、医師、看護師、医療事務、施設管理者、理学療法士、放射線技師……もっともっと細分化していったら面白いと思うんですが、いま思いつくだけでもこんなにも多様な専門職がこの場所には存在します。
3000人がいる場所って、もうひとつのまちですよね。僕は、専門職がつくるまちだと考えています」
専門職の個々の能力を、一部の人たちだけのものにしておくのはもったいない。人々の役に立つプロフェッショナルの技術を地域に向け、開いていこう、という動きがあるという。
たとえば、レストラン×管理栄養士。「水高スクエア」の中にあるレストランは、誰でも利用できる。そこで食べられる料理は美味しいうえに、栄養計算がばっちりされている。
高校野球×理学療法士。身体の構造のプロである理学療法士が、高校球児にどんなフォームで投げたら肘に負担がないか、無理のないストレッチの方法などを指導しているそうだ。地域の学校の部活を理学療法士が支えている。
プロバスケットボールチーム×福祉施設利用者。「茨城ロボッツ」と、水高スクエア内にある救護施設「もくせい」とのコラボ。ここに所属する心に病をもつメンバーたち(もくせいチーム)が、ロボッツのグッズにバーコードシールを貼る作業でチームを応援している。特筆すべきは、たまにロボッツの現役選手もやってきて、一緒にシール貼りの作業をしていること! もくせいチームのメンバーのコンディションによっては、たまにシールが曲がって貼られることもあるらしいが、
「曲がっててもいがっぺ!」
とのこと。
この寛容エピソードを聞いてから、スポーツニュースで毎回「茨城ロボッツ」を追う筆者である。
②福祉専門学校の顔
いばらき中央福祉専門学校で、「いばふく」を開催。いばふくと学校のイベントとして合わせて開催することで、学生たちが主体的に動くしくみを作る。
「この間やった『FUKUSHI BEANS ’23』というイベントでは、学生がスタッフとなって、お客さんを案内するんです。福祉の仕事の説明をしたり、イベントの司会をしたり。介護の業界に入る前の段階で、業界の内外を知り、能動的に動く経験をしてもらうのがねらいです」
たとえ、人材不足の波や難題にさらされたとしても、自ら動くことを知っている人は、アクションが起こせるはずだと、伊藤さんは言う。
③ちいきの学校の顔
2022年6月にオープンした「ちいきの学校」。「シニアが元気はイイことだ!」というキャッチコピーがあるように、地域のお年寄りに活躍してもらうためのカフェだ。もちろん、お客さんは誰でもウェルカム。
「最近、子ども食堂をはじめました。子どもや経済的ゆとりがない家庭にお弁当を配るというのは手段でしかない。僕らの目的は、シニアが元気に活躍してもらう場をつくること。
認知症の症状が見られるおばあちゃんにも、お弁当作りを手伝ってもらいます。『子どもたちがお腹すかせてんだ。ごはん作ってあげてよ』って言うと、すーぐ来てくれます。『介護サービス受けなよ』なんて言っても、動かないんです。頼りにしていることをお伝えする。
ここでは、いつも僕は怒られてます。『そんなこともできないのか』って。『包丁持つ手があぶなっかしいから、貸しな』って。おばあちゃんたちは手が覚えてますからね、手際いいんです。僕はなんにもできなくって、オロオロしているだけ(笑)」
発想の転換
今あるものを当たり前だと思っていて、それがプロフェッショナルでかけがえのないものだとなかなか気がつけないもの、と伊藤さんは言う。日常を守る福祉業界、当たり前は決して当たり前ではないのだ。
「その当たり前(だととらえられていた当たり前)を『発想の転換』する。とらえ方を変えて、自分たちはほかと違うことをやってたんだ、特別なんだっていうことに気づいてもらう。その気づきが人の活性化につながって、暮らしや地域にも広がっていく。
人や地域が活性化するきっかけの種をたくさん撒いていきたいと思っています。……おしまい!」
伊藤さんがいつも笑顔でいて、人当たりがやわらかいのは、たくさんの人と人をつなげてきたから。どんな人にも生き生きと暮らしてもらうためには、まず自分が生き生きと。
そういうことなんですかね、伊藤さん?
打ち上げではギターをかきならし、わたしたちを魅了してくれました。
▼水高スクエア
https://hokusuikai.or.jp/suikou-sq/
▼いばらき中央福祉専門学校
https://www.ibachu.ac.jp
▼いばふく
https://www.ibafuku.com
▼ちいきの学校
https://chiikino.com
text & photo by Azusa Yamamoto
photo by Takehiko Kobayashi