僕らのパターン・ランゲージ作成・研究(立ち上げフェーズ:2008〜2010年)
2008年の後半は、僕が本格的に実践のパターン・ランゲージを作成した。「ラーニング・パターン」(学習パターン)だ。そして、そのとき、7人のメンバーとパターン・ランゲージを作成するために、作成プロセスを考えて、実施した。それが現在に至る、僕のパターン・ランゲージ作成プロセスのベースとなった。また、後に僕らのパターンの特徴となるパターン・イラストと、そのキャラクターである「まなぶくん」が誕生した。
2008年PLoPに、プロジェクト・パターンやリサーチ・パターンの論文を投稿したが、ソフトウェア系の人たちばかりのライターズ・ワークショップでは、「人間の活動は、人間に自由があり解が唯一ではないので、パターンにできないし、すべきではないのではないか」という議論でほぼ終わってしまった。その頃は、まだPLoPでもそんな感じだったのだ。
2009年の春から1年間僕は、サバティカル(在外研究)で米国ボストンに住み、MITのCetner. for Collective Intelligenceの客員研究員として研究をした。そのなかで、創造をオートポイエーシスのシステムとして捉える「創造システム理論」を生み出し、その観点で、パターン・ランゲージの機能を捉えることを提唱し始めた。こうして、社会的なコミュニケーションのメディアであるだけでなく、創造における発見のメディアであるという理解に至った。
このとき、MITの同僚や共同研究者たちとCOINs (Collaborative Innovation Netowokrs) カンファレンスを立ち上げ、僕はそこでも創造の研究や、のちにはパターン・ランゲージについて発表することになる。
2009年のPLoPでは、ラーニング・パターンの論文を出した。このときは、前年とは異なり、『Fearless Change』のLinda Risingがモデレーターのライターズ・ワークショップのグループになり、実践のパターンについて、まともに話し合ってもらえ、ポジティブなフィードバックをたくさんもらえた。ラーニング・パターンの《まずはつかる》の英語名の「Jump In」は、このときのLindaのアイデアを採用したものだ。
改めて振り返って実に興味深いのは、この時期にすでに、暮らし系のパターン・ランゲージをつくっていたということだ。井庭研の修士学生の一人が子育てのパターンを書いているのだ。さらに興味深いのは、このときは、井庭研は社会学の研究をする研究室だったので、この子育てのパターンは、調査の方法としてつくられていたということだ。専業主婦とワーキング・マザーのそれぞれの実践についてインタビューをし、それをもとにつくられたパターンを、今度は見せて、それをベースにさらにインタビューを深めていくという活かし方をした。これは、井庭研で最初のパターン・ランゲージを扱う修士論文となったほか、2010年に開催された最初のAsianPLoPで発表もした。
2010年には、「パターンランゲージ」の授業で、ラーニング・パターンを用いた対話のワークショップを実施した。試しにやってみたら、ものすごく盛り上がり、なぜそうなるのかの理解を深めてから、その後の僕らの定番の活用方法となった。
パターン・ランゲージに関する論文、発表、講演は、以下の通り。
2008
湯村 洋平, 若松 孝次, 井庭 崇. 2008. 「プロジェクト推進のためのパターン・ランゲージとその進化」, 情報処理学会研究報告 数理モデル化と問題解決(MPS), Vol. 2008, No. 17(2008-MPS-068), pp.93-96.
佐々木 綾香, 小林 佑慈, 井庭 崇. 2008. 「研究活動を支援するリサーチ・パターンの提案」, 情報処理学会研究報告 数理モデル化と問題解決(MPS), Vol. 2008, No. 17(2008-MPS-068), pp.89-92.
井庭 崇. 2008.「ハイエク、ルーマン、アレグザンダー: 自生的な秩序形成と知識の理論」, 進化経済学会 第12回大会.
加藤 剛, 井庭 崇. 2008. 「コンセプトメイキングを支援するためのパターン・ランゲージの提案」, 情報処理学会研究報告 数理モデル化と問題解決(MPS), Vol. 2008, No. 85(2008-MPS-071), pp.47-50.
Takashi Iba and Yuji Kobayashi. 2008. “A University Class for Learning and Writing a Pattern Language,” in the 15th Conference on Pattern Languages of Programs (PLoP 2008).
Miyuko Naruse, Yusuke Takada, Yohei Yumura, and Koji Wakamatsu, Takashi Iba. 2008. “Project Patterns: A Pattern Language for Promoting Project”, in the 15th Conference on Pattern Languages of Programs (PLoP 2008).
Yuji Kobayashi, Mariko Yoshida, Ayaka Sasaki, and Takashi Iba. 2008. “Research Patterns: A Pattern Language for Academic Research,” in the 15th Conference on Pattern Languages of Programs (PLoP 2008).
井庭崇研究室. 2008. 「教育支援と地域活性化のためのパターン・ランゲージ」, 展示, SFC Open Research Forum 2007 (ORF 2008).
2009
井庭 崇. 2009. 「『コラボレーションによる学び』の場づくり:実践知の言語化による活動と学びの支援」, 人工知能学会誌, Vol.24, No.1, pp.70-77.
Takashi Iba, Toko Miyake, Miyuko Naruse, and Natsumi Yotsumoto. 2009. “Learning Patterns: A Pattern Language for Active Learners”, in the 16th Conference on Pattern Languages of Programs (PLoP 2009).
井庭 崇, 加藤 剛, 小林 佑慈, 三宅 桐子, 下西 風澄, 花房 真理子, 四元 菜つみ, 飯田 麻友, 坂本 麻美. 2009. 「学びを支援するためのパターン・ランゲージ:SFC 学習パターンの制作」, 日本認知科学会 第26回大会, pp.222-223.
加藤 剛, 井庭 崇. 2009. 「パターン・ランゲージによる学び」, 日本認知科学会 第26回大会, pp.248-249.
中條 紀子, 井庭 崇. 2009.「育児支援のパターン・ランゲージ」, 日本認知科学会 第26回大会, pp.362-363.
井庭 崇. 2009. 「自生的秩序の形成のための《メディア》デザイン:パターン・ランゲージは何をどのように支援するのか?」, 10+1 website.
Takashi Iba. 2009. “An Autopoietic Systems Theory for Creativity,” in the 1st International Conference on Collaborative Innovation Networks (COINs 2009), published in Procedia - Social and Behavioral Sciences, Vol.2, Issue 4, 2010, pp.6610-6625.
井庭崇研究室. 2009. 「学習パターンプロジェクト」, セッション, SFC Open Research Forum 2009 (ORF 2009).
2010
Takashi Iba and Toko Miyake. 2010. "Learning Patterns: A Pattern Language for Creative Learning II," in the AsianPLoP '10: Proceedings of the 1st Asian Conference on Pattern Languages of Programs (AsianPLoP 2010), Article No.4, ACM, pp.1–6.
井庭 崇. 2010. 「創造システム理論の構想」, 進化経済学会 第14回大会.
井庭 崇, 学習パターンプロジェクト. 2010. 「学習パターン:学びのパターン・ランゲージ」, 招待講演, パターン祭り2010「AsianPLoP2010の報告と展望」, 情報処理学会 ソフトウェア工学研究会 パターンワーキンググループ.
Takashi Iba, Mami Sakamoto, and Toko Miyake. 2010. "How to Write Tacit Knowledge as a Pattern Language: Media Design for Spontaneous and Collaborative Communities," in the 2nd International Conference on Collaborative Innovation Networks (COINs 2010), published in Procedia - Social and Behavioral Sciences, Vol. 26, 2011. pp.46–54.
井庭 崇, 江渡 浩一郎, 増田 直紀, 東 浩紀, 李 明喜. 2010. 「パターン・サイエンス - パターンの可能性:人文知とサイエンスの交差点」, 東浩紀 編, 『思想地図β』, Vol.1, 2011 Spring, 合同会社コンテクチュアズ, pp.145-173.