相手の不可解な言動は、その人が 《体験している世界》 を 《内側から捉える》 ことによって理解する (大変な状況のなかでの暮らしのヒント)
今回紹介するのは、《体験している世界》と《内側から捉える》です。
今の状況は、誰にとっても異常でストレスフルな状況です。
家族が思ってもみなかったことを言い出したり、
仕事仲間や友達と意見・考えが合わなかったり、
子どもがわがままや感情的になったり、
身近な誰かが精神的に不調をきたしたり、
しているかもしれません。
いったい何を言っているのか、何を考えているのか、何が起きているのか……
そう思う瞬間があるのではないでしょうか。
自分の視点や常識から考えて、その人の言動が理解できない。
感情的には、つい、そんな相手を責めてしまいがちです。
でも、人は、これまで生きてきたなかで培われた自分なりの世界観と捉え方をもっていて、それをもとに物事を捉え、世界を認識しています。
そのため、同じ状況・出来事に直面しても、人によって異なる意味で捉えることになります。
例えば、子どもと一緒に過ごしていて、《体験している世界》は同じだと思っていますが、果たしてそうでしょうか?
いま日本や海外で何が起きているのか、
ウィルスはどのようなものでどう恐ろしいのか、
学校が休校になっているのはなぜか、
どうして友達と遊べないのか、
いきなり始まった不自由な生活がいつまでこれが続くのか、
そういったことをそれなりにきちんと把握しているのは、自分たち大人だけではないでしょうか?
様々なニュース・情報に触れ、理解しているのは自分たちだけで、子どもはそうではないのではないでしょうか?
もちろん、親がわかるように噛み砕いて説明しているとは思います。
でも、それは親からの説明であって、直接いろいろなことを知るのとは異なる体験です。
何だかわからない恐怖と、あれはしてはだめ、これもしてはだめ、というなかで、ただただ家にいる。
子どもが《体験している世界》は、そういう世界ではないでしょうか。
他にも夫婦で、違う視点・感覚で、今の状況を感じていることもあります。
離れたところにいる仕事仲間や友達はまた、まったく異なる「世界」を生きている可能性があります。
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そこで、相手がどのような「世界」を生きているのか、対話と想像によって、その内側から捉えるようにすることで、相手の考えや気持ちがどのように生じたのかを理解するようにします。
相手が今、どのように「世界」を見て、どのような「世界」を生きているのか。
そういうことを、じっくり対話して話を聴いたり、想像したりして、その世界のなかでどのような気持ちになっているのか、なぜそういう発言・行動に出たのかを、本人の気持ちに寄り添い、理解します。
喩えるならば、その人の「世界」のヴァーチャル・リアリティ(VR)世界に入り込むようなものです。
「君の名は。」の瀧くんと三葉(みつは)が入れ替わるような感じで、相手になりきると言ってもいいかもしれません。
その人になりきってみたときに、どういう「世界」を体験していそうかをイメージするのです。
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そうすると、その人が生きている「世界」がどのようなものか、そして、それにともなって生じる感情はどのようなものなのかを理解できるようになります。
そうなれば、今の言動や抱えている感情が、どういう文脈のなかで生じてきたのかを理解することができます。
その結果、それまで不可解に思われた行動や発言も、その文脈のなかでの「当然の反応」として捉えられるようになり、その人への理解が深まります。
こうやって深く理解し合いながら、感情的にぶつからずに、よい関係を築いていきたいものです。
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今回紹介した《体験している世界》と《内側から捉える》は、『対話のことば:オープンダイアローグに学ぶ問題解消のための対話の心得』に収録されている、対話における重要な心得です。
この『対話のことば』で取り上げているのは、「オープンダイアローグ」という、フィンランドでセラピーの方法です。
オープンダイアローグでは、精神的に問題を抱える本人と家族、医療チームの複数人が、対話を重ねていくと、問題が解消していくという驚くべき効果があると知られています。
日本でもここ数年、専門家の集まりやシンポジウムがいくつも行われ、雑誌やテレビでも話題になりました。
『対話のことば』は、このオープンダイアローグで大切にされていることが、日常生活でもとても役立つという思いから、日常生活の対話に活かせるようにまとめ直しました。
その本質の一つが、相手の《体験している世界》を理解するということです。
そして、『対話のことば』では、《体験している世界》を理解するためにできることが9つ紹介されているのですが、そのなかの一つに《内側から捉える》があります。
今回は、《体験している世界》を《内側から捉える》という組み合わせで紹介しました。
他の心得については、ぜひ『対話のことば』の本やカードを見てみてください。
『対話のことば』は、多くの方から、とても参考になった、自分の対人関係の改善に活かせた、という声をもらっています。
対話力を高め、よりよい関係をつくっていくことに活かしていただければ幸いです。