十二国記新刊を読んですぐの呻き
2019/12/4
※新刊『白銀の墟 玄の月』全4巻のネタバレも含む
※直感的に書いてるのでキャラクタやら国やらの名前が雑
※とりとめがない
読み終わってしまった~~~~~~読み終わってしまった…
魔性の子から始まった戴国の物語に一先ずの完結を見た訳ですが、良かったなぁと思う一方、やっぱり天はこえぇなぁと思っている。
慶の陽子に始まり、延主従、恭王即位、短編集で他の国の様子も経て、十二国という世界とその世界を回す天と王と麒麟の話を垣間見てきた読者にとって、戴国の初期の様子は正直「あまりにも出来すぎていて怖い」と思っていましたが、やっぱり碌なことにならなかったじゃないですかーヤダー!!!(最終的には落ち着けたとはいえ)
陽子も尚隆も、細かくは描かれていませんが奏王一家も、昇山した珠晶でさえも、もうすでに賢王かどこかしらできっと賢王になられるだろうと感じさせる(ほぼほぼ主人公たちなので思い入れと願望が多大に詰まっていますが)王たちは皆、王になりたいと思って王になった者ではなかった人物ばかりになってます。
その中で泰王驍宗は自ら王にならんと昇山し、そもそも民の間でも次王として期待されていた傑物で、前代麒麟の死から荒廃していく国の被害を最小限に抑え続け、弱点となりうる胎果の幼い麒麟ですら驍宗の助け…というかある意味なりゆきとはいえ饕餮を指令に下し…という。なんだお前は、スーパーマンか?出木杉驍宗では??という様子だったので、それが逆に不安要素だなぁと思っていた訳です。素直に行くとは思えない。そして当然素直に行かなかったんですよね。
陽子は胎果として説明が足りなすぎる状態で十二国へ帰還し、そもそも王に即位するまで苦難の旅路を辿ります。右も左も分からず異世界に飛ばされたと思ったら陰湿な差別と怪物に追われ、人に何度も裏切られ、元の世界にも居場所は希薄で、仲間だと思った同じ海客ともお前は違うと拒絶される。そんなどうしようもない世界の人間の愚かを噛み締めてそれでも王として立つ。 尚隆も一度自らが治める国を亡くし、麒麟ともども胎果ゆえに即位の遅れから国は荒廃し、頼れる人物も当初はほぼほぼいなかったはず。 珠晶は自ら昇山したけれども、自分が王になるのだという野心ではなく、変わらぬ国と周囲の無気力への無意識な義憤から立ち、黄海の厳しい旅の中で知らぬ世界と自分の意思を確認することになった訳で、誰も彼もが苦難を背負ったからこそ「王としてなにを民に成すべきか」を見つめなおしてきた。
そんな中驍宗はそもそも王ではない時点でも轍囲の無血解決や炭の代わりになる植物による民の救済のように、王に相応しい人格と実力と条件が揃っていた。優良物件すぎる。欠点はちょっと顔が怖いくらいだったのでは?
だからこそ今回の新刊では、本来は王の敵、もしくは相互不干渉の関係となりうるものたちが「仁義」という頼りないもので王を助けた、その裏側では多くの「犠牲」を払うことになった。この「仁義」と「犠牲」が今回の象徴になるのかなと思っています。
驍宗をスーパーマンか?超人か?出木杉?などと言ってきた訳ですが、忠に仁に篤く物事の道理を理解した傑物でありながらも野心があり、プライドも高い。この野心とプライドは必ずしもマイナスではなく、だからこそその人と成していて、王の選定を受けた際に「よく選んでくれたな」(記憶があいまい)と、ぶっちゃけ正直選ばれたかったんだよね~ってことを隠さず喜ぶ驍宗の人間らしさは結構好きなんですよね。
そんな驍宗が理想通りのスタートを切った、もしもそのまま理想的な王の行いが行われれば、ドヒ達はもちろんのこと、先王に重宝された玉商であったり、十二国の世界では政教分離なんて考えははなからないだろうとはいえ、常に権力というものと宗教というものは本来は(互いに協力関係を結ぶことで互いに躍進する場合も多いですが)寵遇されるものではないでしょう。士農工商が地で生きているような世界観で正当とされる流れのトップにとって、裏側の世界、社会からドロップアウトしていく貧民、一方で過剰な富を貯めるもの、王権とは別で尊崇を集める権力、それらは本来決して安易に看過してはならないものたちです。ただの存在としてみれば相容れぬ者たちでも、個人個人が相容れぬ訳ではない、事情と都合と信念がある。
相手の気持ちになって考えろ、と言うと穴だらけの理論ですが(人の気持ちは本人しか分からないものなので)、今回の物語はありとあらゆる「仁義」によって救われた物語であり、天による運命を打ち壊すのはまさしく人の心による行為なのではないかなぁ?と思うんですよね。
轍囲の人々を守ったから、籠に思いを乗せた名もなき轍囲の民が、白斤の民が王を救ったし、昇山時に李斎を饕餮から助けなければ他国まで巻き込もうとする大胆な忠臣が出ただろうか、黄海の民と混じって生活をし朱民たちへの理解もあったからこそ巡って耶利と泰麒は出会った。仁義によって恩を返したいという、人の意思により起こる状況の転換。それもすべて天の所業といってしまえるといえばそうですが、それじゃああんまりにもでしょう。
そしてその裏には犠牲がある。王を救った名もなき轍囲の民の娘が、戦闘で命を落とした協力者たち、巻き込まれる形で虐殺された民や、王権の混乱で貧した国によって出た犠牲者。数々の犠牲者の中で特に強く背を押した結果になるのは『魔性の子』で出てしまった被害者たちでしょう。泰麒の麒麟とは思えぬ気丈さ、強かさ、冷徹さ、大胆さは、何よりも自分がただいるべき場所へ帰るためだけに犠牲となった、本来はそんな絶望を感じなくてもよかったはずだった異世界の無辜の犠牲者たち。
…まぁ多くの犠牲を出しちゃったから辞める訳にもいかねぇんだよな、って考え方はコンコルド効果で危険なんですけど。
広瀬先生良かったなぁ…広瀬先生本人はミリも救われていないのですが、広瀬先生にバチバチの感情移入した私は救われました。無駄ではなかった、故郷の犠牲と記憶をただ忌むべきものじゃなくしてくれたのだなぁ。
阿選はね~~~、盛り上がりすぎてありがちとはいえ(阿選も被害者だったり…?)(実は忠臣として本当の黒幕から守っていたりする可能性も…)などと考えていたので、順当な小物(能力とやらかしたことに関しては大物だと思う)と化してしまったですね。しかし彼もまた哀れであって、必死にもがけばもがくほど驍宗の影になってしまう。驍宗の元にいた麾下たちは変わらずに信をおいて主上の力になった一方、本来の優秀な麾下へ顔向けできないからと妖魔に頼るようになってしまった阿選。驍宗が暗闇の中でも必死に行った王としての儀式に対して、国を放り出した結果民からの信を得られなかった阿選。でも驍宗が本当に阿選をライバルとして見ていたことが判明している以上、これもまた人の心によってなされた所業なんだなぁ。
そしてある意味前半の謎だった、嫉妬で驍宗を弑したならなぜ国政を行わないのか?という疑問、国自体を壊すつもりだったというのが単純な答えですが、どちらかといえば、もうすでに離れ始めていた驍宗と阿選の埋まらない差を、明らかにはっきり形にしてしまったという泰麒に対する逆恨みが一番強かったんだなぁと思うんですよね、途中までは驍宗憎しだったのが、いつのまにか驍宗よりも麒麟に気持ちが行っているのに阿選自身も気づいたのか…泰麒……魔性の子……(そういう意味ではない)
とりとめもなくダカダカ打っているのでオチないです。柳もやっぱり妖魔が巣くってるんですかね…?しかし麒麟の指令がいれば通常問題なくいくはずでは…??気になりすぎる。小野主上…続きを……(長編はこれで最後という話もありますが)短編集が楽しみですね。長編で世界を知っているのが前提ですが短編集狂おしいほど好き。