
量子コンピューターは何をもたらすのか?
12月9日、大きなニュースが飛び込んできました。

投資家の中には
「この技術が暗号資産の脅威になるのではないか?」
と不安に思う人もいるかもしれません。
そこで今日は、この量子技術についてお話します。
まず、このニュースについて言えることは、
コンピュータの夢物語が現実になりつつあるということです。
私のような”技術オタク”は、おそらく「2001年宇宙の旅」に登場するHAL 9000を初めて目にしたときから、コンピュータの可能性について考えてきたことでしょう。
ちなみに、この映画が公開されたのは、最初のスーパーコンピュータが1964年に開発されてからわずか4年後のことです。
そして最近、再び私たちの想像を超える出来事が起きました。
Netflixで公開された「AfrAId」という映画のワンシーンには、家族用デジタルアシスタントであるAI「AIA」が、家族の母親の博士論文を手伝う場面があります。
そこでそのAIは、彼女の論文をわずか0.007秒で読み込むのです。
どうしてそんなことが可能なのでしょうか?
答えはまさに、「量子コンピューティング」です。
このAIは家中のあらゆる技術を駆使して計算を行い、家事やスケジュール管理、さらにはビジネスまでサポートしています。
このドラマを自宅でのんびり鑑賞していると、ハリウッドでも量子コンピューティングの世界を変える可能性が認識され始めているのだと実感しました。
量子の未来は予想以上に早く到来
今年2月にオーランドで開催されたシンポジウムで私は、量子コンピューティングがこの10年後半における最大の技術革新になると語りました。
その時のプレゼンテーションで共有したのが次の図です。

この図が示す通り、人類の進歩は長い間、非常にゆっくりとしたものでした。
しかし、産業革命の時代には電力、ライン生産、自動車の登場によって進歩が加速しました。
情報化時代になるとその速度はさらに増しましたが、それでも量子技術が現実化した際の進歩のスピードには及びません。
そして、技術大手のGoogleが、従来のスーパーコンピュータでは不可能だった計算を可能にする量子コンピュータを開発しました。
最新の量子コンピュータは「Willow」というチップによって動作し、最強のスーパーコンピュータが「1兆の1兆倍年」かかる計算を、わずか5分未満で完了させました。
これは宇宙の年齢を超える時間です。
このブレイクスルーは、2019年にGoogleが初めて主張した「量子超越性」の議論に終止符を打ちます。
当時は批判もあり、従来のスーパーコンピュータがGoogleの量子コンピュータの能力に追いついたとも言われました。
しかし、今回の進展は全く新しい種類の成果と言えるでしょう。
この成果の中心にあるのは、量子力学という驚異の世界です。
その詳細は専門的すぎるのでここでは触れませんが、Googleはその量子力学の世界で長年の課題となっていた課題を克服したのです。
これは市場で言えば、「概念実証」から「スケーラブルな製品」への移行、
つまりアイデア段階から実際の運用が可能な段階に進んだことを指します。
そして、Googleがこの分野で前進する中、Microsoft、Intel、IBMといった他の技術大手もそれぞれ独自の量子システムを開発しています。また、小規模なスタートアップ企業も追随しています。
一方、中国は量子研究に152億ドル以上を投入しています。
これは単なる技術競争ではなく、市場の覇権争いです。
各企業は異なるアプローチを採用しています。Google、IBM、Intelは超伝導キュービット(量子ビット)を使用しており、他の研究機関では光子や捕捉イオンを実験に使用しています。
現実的な性能
しかし、今回の計算結果は、量子コンピュータの能力を試すためのものであり、現実の問題を解決するものではありません。
技術にはまだ多くの誤りが生じており、実用には至っていません。
それでも、ハーバード大学の物理学教授でQuEraの共同創設者であるミハイル・ルキン氏は、「昨年1年間の進展を見ると、もはやこれはSFではない」と述べています。
量子コンピュータがその可能性を発揮すれば、新薬開発や人工知能に革命をもたらすでしょう。
では、暗号資産への影響はどうでしょうか?
私は現時点では心配することはないと考えています。
なぜなら先ほども書いたように、現状の量子コンピューティング技術でできることは非常に初歩的なことに限られるからです。
そのため、私が知る限りでは、暗号資産に影響を与えられるような量子コンピューターが生まれるのは当分先になるでしょう。
そして、仮にそのようなものが生まれたとしたら、その影響は暗号資産に限ったものではありません。
既存のビジネスや、金融システムなど全てのものに影響があるはずです。
また、既に暗号資産には幾つかの対抗策もあります。
もちろん、技術の発展は予想を上回るものです。
しかし、量子技術が発展するのと同様に暗号資産技術も発展していくはずです。
そのためこの技術を「脅威」として見るのではなく、
「技術の新たな可能性」として捉えていくのが良いでしょう。
イアン・キング