Change Agent(組織変革者)としてのHR⑭「組織文化(前編)」
あらすじ
DXプロジェクトが始動した当初、営業部とマーケティング部はそれぞれの専門性を活かしつつ、協力してプロジェクトを進めていた。しかし、進行が中盤に差し掛かるにつれ、両部門の文化や価値観の違いが顕著になり、次第に対立が生じ始める。
営業部の若手エースであり、DXプロジェクトのリーダーを務める佐藤健太(27歳)は、営業部のスピード重視とマーケティング部のデータ分析重視がぶつかり合い、チームの進行に支障をきたしていることに気付く。当初はそれぞれの部門の主張を調整しながらプロジェクトを進めていたが、根本的な解決には至らず、プロジェクトの停滞が深刻化していく。
営業部の田辺翔太(25歳)は、短期間で成果を求めるスタイルを持ち込み、次々と大胆な提案を行うが、計画性に欠ける点をマーケティング部から指摘され、次第に苛立ちを募らせる。一方、マーケティング部の吉村直人(30歳)は、徹底したデータ分析を重視する姿勢を崩さず、田辺のスピード重視の提案をたびたび否定する。このような部門間の緊張は、プロジェクト全体の効率を著しく低下させる原因となっていた。
佐藤はこの状況を受けて、HR部門の主任である篠崎瑞穂(32歳)に助言を求める。瑞穂は「コミュニケーションの重要性」や「組織文化の違い」を理解し、対立を解決するための基本的な理論と手法を提供。佐藤はこれを参考に、まずはメンバー一人ひとりと向き合い、信頼を再構築する取り組みを進めた。
対立の解消と新たな課題
佐藤は瑞穂の指導のもと、「生産的なコンフリクト」と「非生産的なコンフリクト」を区別し、チームの対立を問題解決のきっかけに変えることを目指した。田辺と吉村、そして慎重な中堅社員である矢島薫(29歳)の間で意見を融合する新たな議論の場を設けるとともに、部門を横断するマトリックス構造を試験的に導入。これにより、チーム内の情報共有が改善され、効率的な連携が進む兆しが見え始める。
一方で、プロジェクトが進むにつれて新たな課題も浮上する。それは「リーダーシップ」と「権力構造」に関する問題であった。佐藤自身も、自分のリーダーシップスタイルが状況に応じて柔軟に適応できていないのではないかと自問し、瑞穂や外部コンサルタントであるローレンス・グリーン(45歳)から助言を受ける。状況に応じたリーダーシップ(コンティンジェンシー理論)の重要性を学び、メンバーそれぞれの強みを引き出す新たな方法を模索する。
さらに、プロジェクトの後半では、組織の「力の動態」や「組織構造」の問題が顕在化。職能別構造が部門間の連携を阻害していることに気付き、より柔軟なマトリックス構造を採用することで、営業部とマーケティング部の融合を図る。しかし、既存の文化や価値観を持つメンバーにとって、これを受け入れるのは容易ではなく、特に田辺と吉村の間では新たな摩擦が生じた。
文化の違いが浮き彫りに
プロジェクトが最終段階に差し掛かると、営業部とマーケティング部の文化的な衝突が一層激しくなる。田辺は「スピードと成果」を最優先にする営業部の価値観を主張し、吉村は「計画とデータ分析」を重視するマーケティング部の文化を守ろうとする。矢島は両者の間で調整役を務めるものの、次第に限界を感じ始める。
この状況に対し、佐藤は再び瑞穂に相談。「組織文化」という深層的な問題に向き合うべきだという助言を得る。瑞穂の説明により、文化の形成プロセスや、それが組織のアイデンティティに与える影響を理解した佐藤は、異なる文化を融合させ、新たな価値観を創造するための行動を起こす。
次なる挑戦
これまでの対立や摩擦を通じて、チームは徐々に強い一体感を築き始めた。しかし、営業部とマーケティング部の文化の違いを根本的に解決し、新たな共通文化を形成するという課題は依然として残されている。次なるステップでは、全員が共有できる「成功体験」を創り出し、それを通じて新たな文化を構築するための具体的な施策が求められる。
果たして佐藤たちは、この課題を乗り越え、プロジェクトを成功に導くことができるのか?文化の違いを乗り越えた先に待つ、新たな組織の可能性に期待が高まる。
登場人物
佐藤 健太(さとう けんた)
27歳。DXプロジェクトのリーダー。文化の衝突を解消し、プロジェクトを成功させるために奮闘している。
田辺 翔太(たなべ しょうた)
25歳。営業部の若手社員。成果第一主義でスピードを重視するが、慎重な計画を求める他部門のスタイルに苛立ちを感じている。
矢島 薫(やじま かおる)
29歳。営業部の中堅社員。慎重な性格で、マーケティング部との橋渡し役を務めるが、自身のスタンスがプロジェクトにどう影響するかを考え始めている。
吉村 直人(よしむら なおと)
30歳。マーケティング部の主任。データ分析を重視する文化を代表するが、営業部の即応性に感化されつつある。
篠崎 瑞穂(しのざき みずほ)
32歳。HR部門の主任。組織文化の理論と実践に精通し、佐藤を支援する。
高橋 麻衣子(たかはし まいこ)
40歳。プロジェクトの最終責任者。全社的な視点で文化の融合を推進する立場にある。
第1章:文化の衝突
午後2時、プロジェクトの定例会議。議題は、次のプレゼンテーションに向けた営業部とマーケティング部の連携方法だった。
「この提案、期限までに完成させるのは無理です!」吉村が厳しい口調で言い切った。
田辺が苛立ちを隠せない表情で即座に反論する。「データ分析に時間をかけすぎてるからじゃないですか。僕たち営業部は、これくらいのスピード感で動いてます。」
「スピード感だけで動くから、提案に説得力が欠けるんですよ。」吉村も譲らない。
矢島は重苦しい沈黙を破り、「両方の言い分が分かります。でも、今のままではどちらもゴールに辿り着けません。」と仲裁を試みたが、言葉は空回りしていた。
佐藤はこの状況を見て決断する。「この問題の本質は文化の違いにあります。私たちはまず、なぜこうした文化が生まれたのかを理解する必要があります。」
第2章:文化とは何か
翌日、佐藤はHR部門の瑞穂に助言を求めた。オフィスの一角で話を聞いた瑞穂は、静かに頷きながら口を開いた。
「組織文化とは、組織内で共有される価値観、信念、行動規範の集合体です。言葉にしなくても、従業員が何を重要と考え、どのように行動するかを決定するガイドラインとなります。」
佐藤は眉をひそめ、「それなら、営業部とマーケティング部の文化は、具体的にどう違うんでしょう?」と尋ねた。
瑞穂はホワイトボードに簡単な図を描きながら説明を始めた。
「営業部は、成果を最優先し、スピード感を重視する文化を持っています。一方、マーケティング部は、データに基づく慎重な計画立案を重視する文化があります。これらの違いは、お互いに補完し合う可能性がある反面、対立の火種にもなります。」
佐藤は深く考え込んだ。「文化が違うのは分かります。でも、どうすればそれを融合させられるのでしょうか?」
第3章:文化の創生と維持
瑞穂は「文化はリーダーシップと日常の行動によって形作られ、維持されます」と語った。
「例えば、営業部が短期間で成果を上げることを重視しているのは、過去の成功体験に基づいています。その一方で、マーケティング部は失敗を防ぐために慎重さを価値観として持つようになりました。」
矢島が会話に加わった。「その価値観が部門ごとのアイデンティティを形作っているんですね。でも、それが壁になっている現状もあります。」
瑞穂は頷き、「文化を変えるには、まずそれぞれの価値観を尊重しながら、共通の目標を見つけることが重要です。共通の成功体験をチーム全体で作ることが、その第一歩です。」
第4章:文化の学び方
「従業員は文化をどうやって学ぶんですか?」田辺が質問した。
「文化は、新しい従業員がリーダーや同僚の行動を観察することで学びます。また、成功事例や日々のやり取りを通じて、自然と染み付いていきます。」瑞穂の説明に、田辺は納得した様子で頷いた。
「確かに、新人時代にベテラン社員から『こうするのがこの会社のやり方だ』と教えられたことを、今も守っています。」矢島も同調した。
佐藤は静かに答えた。「私たちは、新しい文化を作り、それを次世代に伝えていく必要がある。そのためには行動で示すことが大事です。」
第5章:挑戦の始まり
ミーティングの最後に、佐藤はこう宣言した。「これから、私たちは異なる文化を尊重しながら、新しい文化を作り出す挑戦を始めます。それは簡単なことではありませんが、全員で取り組めば実現できると信じています。」
瑞穂が付け加えた。「文化の変革には時間がかかります。でも、今の対立を成長の機会として捉えることで、より強い組織になれるはずです。」
メンバーはその言葉に新たな決意を抱き、行動を起こす準備を始めた。
組織文化(Organizational Culture)の解説
組織文化の定義
組織文化とは、組織のメンバーによって共有される価値観、信念、規範、行動様式、シンボルの集合体を指します。これらは組織の日常活動や意思決定、対外的な振る舞いに影響を与えます。組織文化は見えないが強力な力として、組織の成功や失敗を左右します。
学術的な定義
エドガー・シャイン(Edgar Schein, 1985)
定義: 「組織文化とは、あるグループが外部の適応や内部の統合における課題を解決する過程で学び取った基本的な仮定の集合であり、それらは組織の構成員に対して正しい方法として共有され、伝えられるものである。」
解説: シャインは組織文化を「基本的仮定」として捉え、組織の内部で暗黙のうちに共有される信念や価値観が、組織の行動や思考を規定すると述べています。
ホフステッド(Geert Hofstede, 1991)
定義: 「組織文化とは、組織のメンバーによって共有される、行動や意思決定の指針となる精神的なプログラムである。」
解説: ホフステッドは文化を「精神的なプログラム」と表現し、個人の行動に影響を与える組織レベルの規範として説明しています。
デニソン(Daniel Denison, 1990)
定義: 「組織文化は、組織の成功に影響を与える要因としての価値観、信念、行動規範の共有されたシステムである。」
解説: デニソンは、組織文化が組織のパフォーマンスに直接的な影響を与えると指摘しています。
組織文化の特徴
共有性
組織文化はメンバー間で共有されるため、組織全体に一貫性を与えます。
見えにくさ
文化は多くの場合、暗黙的であり、具体的に記述することが難しい側面があります。
継続性
文化は時間の経過とともに形成され、次世代に引き継がれます。
適応性
組織文化は外部環境の変化に応じて進化することがあります。
組織文化の要素
シャイン(1985)は、組織文化を以下の3層構造として説明しています。
目に見えるアーティファクト(Artifacts)
物理的な環境、シンボル、行動様式、儀式など、外から観察できる要素。
表明された価値観(Espoused Values)
組織が公式に掲げるビジョン、ミッション、価値観。
暗黙の仮定(Underlying Assumptions)
組織の根底にある無意識の信念や規範であり、最も強力な文化の基盤。
組織文化の機能
内的統合
組織文化はメンバー間の共通の価値観を提供し、連帯感や一体感を醸成します。
外的適応
組織が外部環境に適応する際の行動指針として機能します。
意思決定のガイド
組織文化は、メンバーがどのように行動し、意思決定をするべきかを示します。
動機づけ
組織文化が従業員のモチベーションに影響を与えます。
組織文化のタイプ
クインとキャメロン(Cameron & Quinn, 2006)は、「競争価値モデル(Competing Values Framework)」を基に、組織文化を4つのタイプに分類しました。
階層文化(Hierarchy Culture)
安定性と統制を重視。明確なルールや手続きが存在する官僚的な文化。
例: 公共機関、大企業。
市場文化(Market Culture)
結果重視で競争力を強調する文化。効率性や利益が最優先。
例: 営利企業、営業主導型組織。
部族文化(Clan Culture)
人間関係を重視し、チームワークや共同体意識が強い文化。
例: スタートアップ企業、家族経営企業。
アドホクラシー文化(Adhocracy Culture)
創造性と革新を追求し、柔軟性を重視する文化。
例: IT企業、研究開発組織。
組織文化の形成と維持
リーダーシップ
リーダーの行動や価値観が文化の形成に大きな影響を与えます。
選考と社会化
採用プロセスを通じて、文化に適応する人材が選ばれ、オリエンテーションやトレーニングを通じて文化が浸透します。
成功体験の共有
組織が直面した課題や成功体験が文化として定着します。
儀式と象徴
例: 年次行事、表彰制度、スローガン。
組織文化の変革
組織文化の変革は難しいが可能です。そのためには以下のプロセスが必要です。
文化の診断
現在の文化を分析し、ギャップを特定する。
リーダーシップのモデル化
リーダーが望ましい文化の行動モデルを示す。
新しい価値観の導入
新しい行動規範や価値観を浸透させる。
文化変革の定着
成功事例の共有や報酬制度を通じて、文化を新しい組織基盤として根付かせる。
組織文化の重要性
パフォーマンスへの影響
強力で一貫性のある文化は、従業員の生産性や顧客満足度の向上に寄与します。
競争優位性の確保
他社には模倣しにくい独自の文化は、競争優位性を築く重要な要素です。
従業員エンゲージメントの向上
健全な文化は、従業員の満足度と定着率を高めます。
結論
組織文化は、組織の日々の運営から長期的な戦略まで、多岐にわたる影響を持つ重要な要素です。その形成や変革には計画的なアプローチとリーダーシップが必要です。適切に構築・維持された文化は、組織の成功を後押しする強力な推進力となります。
※上記のブログは以下参考書と自社独自プログラムを元に、著者がAIツールを用いて作成・編集・再作成したフィクションです。
ピープルマネージャーのためのChange Agent養成講座
最後まで読んでいただき有難うございました。
著者:松澤 勝充
神奈川県出身1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年 (株)トライアンフへ入社。2016年より、最年少執行役員として組織ソリューション本部、広報マーケティンググループ、自社採用責任者を兼務。2018年8月より休職し、Haas School of Business, UC Berkeleyがプログラム提供するBerkeley Hass Global Access ProgramにJoinし2019年5月修了。同年、MIT Online Executive Course “AI: Implications for Business Strategies”修了し、シリコンバレーのIT企業でAIプロジェクトへ従事
2019年12月(株)トライアンフへ帰任し執行役員を務め、2020年4月1日に株式会社Everyを創業。企業の人事戦略・制度コンサルティングを行う傍ら、UC Berkeleyの上級教授と共同開発したプログラムで、「日本の人事が世界に目を向けるきっかけづくり」としてグローバルスタンダードな人事を学ぶEvery HR Academyを展開している。
保有資格:
・SHRM-SCP(SHRM)
・Senior Professional in Human Resources – International (HRCI)
・Global Professional in Human Resources (HRCI)
・The Science of Happiness(UC Berkeley)、他