ハノイノヒト #1-1 「日本のモノを海外で売るって言葉だけは簡単」
ベトナム・ハノイで奮闘中の若手にスポットを当て、気が向くままに根掘り葉掘り聞いていくこの企画。
早速となる第1回目は、地方銀行の海外事務所に駐在されている古澤さんにいろいろとお話を伺ってみました。彼がこの国に赴任するまでの経緯や背景には、驚きの連続でありました。また今後の展望についても聴かせていただきました。
――まずは、簡単に自己紹介を。
はい。古澤といいます。常陽銀行という茨城県の地方銀行のハノイ事務所に、県庁からの派遣で駐在しています。ベトナムに来たのは2018年の12月ですから、およそ1年半が経ちました。……あ、今年でちょうど30歳です。
――ん、銀行から直接ではなく、県庁のご出身なのですか。
ええ、そうですね。茨城県の常陽銀行と、栃木県の足利銀行、そして茨城県庁から私、それぞれ1名が赴任して来ています。多角的な業務の遂行や相乗効果を期待しての配置だと捉えています。
ここ数年、県内の企業のベトナム進出が特に顕著でして、それに呼応する形で常陽銀行も2018年3月にハノイ事務所を開設しました。
――そういう事でしたか。
普段どのような仕事をしているのでしょうか。
私自身の仕事としては、県産品のPR(販路開拓支援)、外国人材を茨城県企業で受け入れるための情報収集、観光誘客イベントへの出展、官公庁の方が来越する際の各種手配・サポート対応が主な仕事になりますね。県庁と連携する場合がほとんどですよ。
確かに、こちらの日本人の集まりなどで自己紹介をする場面はよくありますが、なかなかピンとこないという方は少なからずいらっしゃいますね(笑)
――官公庁の方、というと……それこそ県知事や議会議員の方も来られるケースがあるのでしょうか。
そうですね。今年はさすがに、世界情勢などもあって非常に難しいと思いますが、昨年は2回ほどその機会がありましたよ。
”政治家”とか”先生”とかって聞くと、皆さんきっと雲の上の存在のように捉えてしまいがちかもしれません。でも実際は気さくな方が多いです。具体的な話は……うーん、ここではちょっと控えてもいいでしょうか(笑)
――はい、そうしましょうか(笑)。
話を戻して、ベトナム国内での実例などはありますか。
もちろんです。せっかくですから紹介させてください(笑)
茨城のブランド和牛に、”常陸牛”というのがあります。歴史も意外と古くてですね、幕末の頃に徳川斉昭*1という方が音頭をとって黒毛和牛を飼育し始めたのが発祥だそうです。
2014年からベトナム、その翌年にはタイにも輸出しています。シェラトンハノイホテルが海外第1号。ハノイだと他にも、HangCao通りの”蓮”やLyThuongKiet通りの”Kimono”などで取り扱っていただいてますね。……あ、写真ありますよ。ほら。
*1 徳川斉昭…とくがわ・なりあき。15代将軍徳川慶喜の実父で水戸藩主(現在でいう水戸市長)。幕末期において藩政改革に成功したとされる名君。記録によれば、1833年頃に現在の水戸市見川町に黒牛用の牧場を設置させている。
――自分が携わることでモノが国境を越えていくというのは、達成感も当然でしょうが、その試練たるや計り知れないものがありそうです。
そうですね。日本のモノを海外で売るって言葉にすると簡単ですが、実際には需要の調査、広報戦略、輸出入に関わる諸手続、商流の構築など、さまざまな課題があります。その中で私が直接どうにかできることって、全体のほんの一部に過ぎなくて。県内企業をはじめ、JETRO、中小企業グローバル推進機構、コンサルティング会社……そしてそこに携わる方々の協力のもと推進しています。
ちなみに、今現在だと”梨”には結構苦戦させられていますね……。
――”梨”、ですか。
常陸牛同様に生ものですけど……。もしかして、冷凍ができないですか。
はい、いい線いってますね(笑)。
事の発端は、現場の視察時でした。
例えば、輸入された梨がハノイやホーチミン市内のスーパーマーケット等に無事に流通しているか、どのように陳列・販売されているか、実際に手に取る消費者側の反応はどうか……。自分が直接その現場に出向いてはじめて分かる事もあるんですよ。
あるお店では、常温で陳列されていて、品質が著しく落ちていた事がありました。しかもですね、その茨城産梨の隣に韓国産梨が約半額で陳列されており、まるで韓国産の販促のために使われていた時もありました(苦笑)
――えぇっ、そんな事もあるんですか!?
それはさすがに洒落にならないですね……。
ベトナムに限らず、東南アジア諸国ではまだまだ生鮮食品の冷蔵・冷凍輸送が徹底されていません。特に野菜や果物などの保冷ですね。中には「冷蔵・冷凍のものを輸送する過程で一度常温に戻ったとしても、再度冷蔵・冷凍させれば何も問題ないだろう」という考えのベトナム人もいるようで。私も始めてこの話を聞いた時は心底驚きました(笑)。
物流に関わる部分については、今後詳細な調査を実施予定です。具体的には、「温度・湿度・振動などを検知する機械を商品と一緒に箱に詰めて、輸送過程のどの部分に問題があるかを特定する」、「商社へのヒアリングや店頭の販売状況を見て、美味しい状態で消費者のもとへ届くよう、翌年以降の輸出量を検討する」など、県庁と検討を進めています。
――日本国内での販促の常識や慣例が通用せず、また違った問題が発生したり、その対策を講じる必要があるというのは、なかなか大変ですね。
ええ、仰るとおりですね。
特に私の場合、日本にいた頃は違う部署の経験が長かったのでなおさらです。ですので、本庁の関連部署の方によく相談して、指示をいただいたり、方針を相談したりしています。
――え、そうだったのですか?
元々ずっと関連部署にいらっしゃったのだとばかり。
他の海外拠点に赴任している方ですとか、あるいは茨城県以外の自治体からベトナムに来ている方であれば、そうした前歴を活かして辣腕を振るっている方もいらっしゃいます。
でも、私の場合はというと……入庁して間もない頃は土地改良事業や広報・広聴業務が中心でした。そういう意味では、ほんの些細な偶然がいくつも積み重なった結果なのだろうと思っています。
全てのきっかけは……、
学生時代に今の妻とベトナムで出会った事、でしょうか。
――後編に続く。
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