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【ちしき山】

むかしむかし、あるところに、まずしい村がありました。

その村の村人たちは、まずしいのは、自分にちしきがないからだと言いました。

「ちしきがあれば、金もちになれる」

口ぐせのようにそう言っていました。

その村には「ちしき山」とよばれる、高い山がありました。そこには、ちしきがあるといいつたえられていました。しかし、高い山だったので、村人はだれも行ったことがありませんでした。

ある日、まずしさにつらくなった村人が、ちしき山にのぼるとけっしんしました。村人はちしき山につくと、ちしきをさがしはじめました。

「おーい、ちしきはどこかね?ここにおらんかね?」

山はとてもしずかで、だれの声も聞こえませんでした。

「なんだ。ちしきなんてないじゃないか。ちしき山なんて、うそだ」

村人はとてもおこって、山をおりました。村に帰ると、その村人はみんなに大声で言いました。

「ちしき山はうそだ。ちしきなんてない。あんなところに行くものでない」

それを聞いた村人たちは、みなびっくりしました。

つぎの日、ほかの村人がちしき山に行きました。

「きっと、ちしきはある。わしなら見つけられる。もうまずしいのはまっぴらだ」

村人はちしき山につくと、いいました。

「おーい、ちしきはどこかね?わしに顔を見せてくれんか?」

村人はちかくにあった木をけとばしました。するとあたまの上にはっぱとみがおちてきました。村人は、赤いみを手にとってみると言いました。

「なんだこのみは。けっ、ちしきなんてどこにあるんだ。ちしき山なんて、うそだ。ちしきなんて、そんなものはない」

そういうと、赤いみを遠くになげて、山をおりました。村につくと、その村人は、大声で言いました。

「あんなところに行くでない。なんにもない。つかれるだけだ」

それを聞いた村人たちは、みなびっくりしました。そして、ある村人がいいました。

「こっちの人も、あっちの人も、ちしき山にはちしきはなかったと言っておる。やっぱり、あの山にちしきなんてない。ちしきは、みんな金もちがもっていってしまったんだ」

すると、ほかの村人も、そうだ、そうだと声を合わせました。そして、ちしき山から帰ってきたばかりの村人がいいました。

「そうだ、そうだ。みんなわかっただろう。今夜はわしのおごりだ。みんなうちに来い」

そうして、村人たちは、どんちゃん、どんちゃんと、うたげをはじめました。村人は、あるったけの食べものとさけをふるまいました。しばらくすると、一人だけ、うたげに行かなかった村人がいることに気がつきました。ちたろうでした。

「おい、ちたろう、あいつはどうした?」

うたげのおうちの村人は、聞きました。

「明日、ちしき山に行くといって、はようねております」

村人の一人がそういうと、うたげにあつまった村人たちは、みんなはらをかかえてわらいました。

「前から、ちたろうはかわりものだが、ついに気がくるったか。二どあることは三どあると教えてやれ。そんなちしきもないやつが、ちしき山でちしきが見つかると思うかね、みなのしゅう」

わっはっはー。村人たちはまたわらって、さけをのんでは、またわらいました。うたげはよふけまでつづきました。

日がちしき山にのぼりはじめたときでした。村でかわりものとよばれたちたろうが、朝早くからめしをたいて、おにぎりを作っていました。

「わしは、ちしき山をこの目でじっくりと見てくる。ちしき山は高い山だ。じっくりまわるのには、時間がかかる。おにぎりをこしらえてもっていこう」

そういって、ちしき山にむかいました。その時、ねむけまなこで家のとびらをあけ、うたげの家にいた村人が外に出てきました。ちしき山にむかうちたろうのうしろすがたを見て、こう言いました。

「ちしきがないものには、言ってもわからんね」

ちしき山についた頃、まだ山はすずしく、よく歩けました。ちたろうは、ちしき山をしばらくのぼると、ぐるっとあたりを見まわしました。しかし、どこもかしこも同じように見えました。おなかが空いたちたろうは、木にこしかけて、おにぎりを一つ食べながら、考えました。

「みんなどこの道を通ったのか。わしは、ちがう道に行ってみよう」

ちたろうはおにぎりを食べ終えると、また歩きはじめました。こんどは、ぐるりぐるりと、まわり道をしていきました。しかし、なかなかちしきは見つかりません。ちたろうはのどがかわき、木にこしかけて、竹づつから水をのみました。

しばらく休むと、またちたろうはぐるりぐるりと歩きました。しかし、ちしきは見つかりません。ちたろうはたくさん歩いたので、またおなかが空きました。おにぎりをまた一つ食べながら、考えました。

「ちしき山は高い山だ。まわってもまわってもまだまだ道がある」

ちたろうは、しばらく休んでまた歩きました。しかし、なかなかちしきは見つかりません。ちたろうはのどがかわき、木にこしかけて、竹づつから水をのみました。とてものどがかわいていたので、もう水がなくなってしまいました。

「水をさがしにいかなくては」

ちたろうは、わき水をさがして歩きました。しばらくすると、大きな岩が目の前にあらわれました。そして、そのわきから、ちょろちょとと水がわいていました。ちたろうは、わき水で顔をあらい、水をのみ、そして竹づつに水を入れました。ちたろうが大きな岩のむこうがわを見ると、おばあさんがすわっていました。

「ばあさん、そんなところで、どうした?」

おばあさんは、ちたろうを見て言いました。

「おなかがすいた。何か食べるものを持っていないかね」

ちたろうは、さいごの一つのおにぎりをおばあさんにわたしました。おばあさんは元気になりました。

「ここで何をしている?」

おばあさんは、ちたろうに聞きました。ちたろうは言いました。

「ちしきをさがしに来た」

おばあさんは聞きました。

「なぜちしきをさがしているのかね?」

ちたろうは言いました。

「まずしいから、金もちになれるちしきがほしい」

すると、おばあさんは言いました。

「はたおりをして、おりものをとなりの村にお売りなさい」

そういうと、おばあさんは森の中にきえていきました。

ちたろうはびっくりして、しばらく立っていました。

「ばあさんがきえた。まぼろしか?」

ちたろうはほっぺたをつねりました。

「いたっ。わしは生きている。だいじょうぶだ」

ちたろうは歩きながら考えていました。

「わしはとなりの村に売ったことはない。おりものが売れるのか」

時間がたって、日がだんだんと低くなって来ました。ちたろうはくらくなるまえに帰ろうといそぎました。家につくと、ちたろうはかぞくにおばあさんの話をしました。そして、はたおりをして、となりの村におりものを売りに行きました。すると、すぐに売れました。ちたろうは毎日毎日はたをおり、となりの村に売りに行きました。

そのようすを見ていた同じ村の村人たちは、まねをしてはたをおり、となりの村に売りにいきました。村人たちはうれしくなって、もうけた金でまいばんうたげをしました。

「今日は、高く売れたぞ。さあ、わしのおごりだ」

わっはっはー。村人たちは、こうしてまいばんだれかの家でうたげをしました。みんなにかわりものとよばれたちたろうは、うたげにはいきませんでした。そして、みんなから、ちたろうはけちだと言われました。

かわりものとよばれたちたろうは、家でなやんでいました。みんながはたおりをして、となりの村に売りに行くと、だんだんとちたろうの家のおりものは売れなくなりました。

「そうだ、あのばあさんに聞いてみよう」

つぎの日の朝、ちたろうはまた早く起きて、おにぎり3つと水の入った竹づつを持って、ちしき山にのぼりました。そして、あの大きな岩のあるばしょに行きました。すると、またおばあさんはいました。ちたろうは聞きました。

「ばあさん、はらへってないか?」

おばあさんは言いました。

「はらへったぁ」

ちたろうはおばあさんにおにぎりを一つあげました。するとおばあさんは、もぐもぐとおにぎりをほおばって、いいました。

「はらへったぁ。もう一つおくれ」

ちたろうはもう一つあげました。そして、おばあさんに聞きました。

「はたおりをして、となりの村に売ったら、おりものはよう売れた。しかし、それをみんながまねして、わしのおりものがなかなか売れなくなった」

おばあさんは、二つ目のおにぎりをほおばると言いました。

「めしをそまつにするんでない。はら八分目にしなされ」

そういうと、おばあさんは森の中に消えていきました。ちたろうはほっぺたをつねりました。

「いたっ。わしは生きている。だいじょうぶだ」

ちたろうは家にかえると、かぞくにおばあさんの話をしました。すると、かぞくは言いました。

「とう、なんでめしを少なくするんだ?おりものが売れた金がもうないのか?」

ちたろうはかぞくに言いました。

「めしをたいせつにするんだ。たいせつにしなければ、金はいくらあってもすぐきえる」

ちたろうのかぞくが、はら八分目にすると、おりもので売れた金は少なくても、みんなでごはんは食べられました。しかし、それでもちたろうはなやんでいました。

「これでは、毎日のめしを食うことで、せいいっぱいだ」

つぎの日の朝、ちたろうは早く起きて、おにぎり三つと水の入った竹づつを持って、ちしき山にのぼりました。そして、あの大きな岩のあるばしょにいきました。すると、またおばあさんはいました。ちたろうは聞きました。

「ばあさん、はらへってるか?」

「はらへったぁ」

ちたろうは、おばあさんにおにぎりを一つあげました。するとおばあさんは言いました。

「そのおにぎりをぜんぶくれないか」

ちたろうは、もっていたおにぎり三つをぜんぶおばあさんにあげました。

「ばあさん、わしは、めしをはら八分目にした。くらしはわるくはならないが、よくもならん」

すると、おばあさんは立ち上がり、赤いみをちたろうにわたしました。

「このみをうえて、よくせわをするといい」

そういうと、おばあさんは森の中に消えていきました。ちたろうはほっぺたをつねりました。

「いたっ。わしは生きている。だいじょうぶだ」

ちたろうは家に帰ると、かぞくにおばあさんの話をしました。すると、ちたろうのかぞくは言いました。

「なんのみだか、わからない。ばあさんは、おにぎりがほしいだけではないのか。さいしょは、一つでまんぞくしてたのに、つぎは二つ、そしてこんどは三つ。ばあさんは、よくばっているのではないか」

ちたろうのこどもが、その赤いみをかじると、とてもにがいあじがしました。

「まずい。こんなまずいみは、食えん」

そういうと、こどもは外に出て、みをぺっと口からはきだしました。ちたろうはいそいで外に出て、そのみをひろい、あらってなめてみました。

「にがい」

こんなににがいみに、おにぎりを三つも出してしまったちたろうは、かぞくにもかたみがせまい思いをしました。しかし、ちたろうは思いました。

「あのばあさんが、おしえてくれたことは、これまでまちがいがなかった。二どあることは、三どある。このみもたいせつにしよう」

ちたろうは、そのみのたねをうえて、毎日水をやりました。ちたろうのかぞくは、はたおりをつづけ、ごはんははら八分目にし、たねに水をやりました。しばらくすると、たねからめが出て来ました。ちたろうはうれしくなってたくさん水をあげました。すると、つぎの日、めが弱っていました。

「やはり、だめか」

ちたろうはがっかりして、水やりをやめました。するとつぎの日、めが大きくなっていました。

「水がなくても育つのか」

ちたろうはしばらく水をあげませんでした。しばらくすると、めが少し弱っていました。こんどは、水をあげました。するとつぎの日、まためが大きくなっていました。ちたろうはめが少し弱ったら、水をやりました。

めがどんどん大きくなって、ひざくらいの高さになると、まためが弱くなりました。

「こんどは、こやしか?」

ちたろうはこやしをあげました。するとみるみるうちに大きくなり、ちたろうと同じくらいのせの木になり、花がさきました。せわをすると、花はたくさんさきました。

ある日のこと、ちたろうは体をわるくしてしまいました。はたおりをする元気がありませんでした。しかし、赤いみのなる木のせわは、毎日しました。ちたろうが木を見にいくと、赤いみがなっていました。

「ついにみがなったか」

ちたろうはうれしくなって、そのみを食べました。

「にがい」

みはとてもにがいままでした。しかし、つぎの日、そのみを食べたちたろうの体はとてもよくなりました。

「あのみはくすりか?」

また、ちたろうはみをたべました。すると、つぎの日、ちたろうは元気になり、はたおりができるようになりました。そして、かぞくに赤いみの話をしました。

「あのみはくすりだ。これをとなりの村に売りにいく」

そうして、おりものと一緒に、赤いみを売りにいくと、よく売れました。木はどんどんと赤いみをならせましたので、毎日ちたろうは赤いみを売ることができました。それを見ていた村人たちは、その木によってたかってやって来ました。

「このみはどこからもって来たのか?」

村人の一人が聞きました。

「ちしき山からもってきた」

ちたろうは答えました。そして、そこにいた村人たちが言いました。

「わしにもこのみをわけてくれ」

ちたろうはそれぞれに少しずつみをわけました。村人たちは、自分の家にうえました。めが出てくるとよろこんで、たくさん水をあげました。村人たちはどんどんと水をあげました。すると、めが弱りました。

「もっと水をもってこい」

しかし、水をあげればあげるほど、めは弱くなり、ついに、めはしんでしまいました。ある村人は言いました。

「こんなものは売れん。やめた、やめた」

そして、赤いみがたくさんなっているちたろうの木をみて言いました。

「あれは、たまたまだ。あの家の前の土にだけなるんだ。そうだ土をもらおう」

その村人は、ちたろうの土をもらいに行きました。

「ここの土をわけてくれないか」

そうして土をもらって、自分の家の前に、もういちど赤いみをうえました。すると、こんどはめが出ませんでした。村人は言いました。

「こんなものは売れん。やめた、やめた」

そして、赤いみがたくさんなっているちたろうの木をみて言いました。

「あれは、たまたまだ。あの家がもらったみがよかったんだ。そうだ、ちしき山にみをとりに行こう」

その村人は、ちたろうに聞きました。

「赤いみはどこに行けばあるのか」

そうしてばしょを教えてもらい、つぎの日ちしき山にいきました。ちたろうが言ったとおりに行くと、大きな岩が見つかり、そこにおばあさんがいました。村人は言いました。

「ばあさん、赤いみをおくれ」

おばあさんはいいました。

「はらへったぁ」

村人は、おばあさんにおにぎりを一つあげました。するとおばあさんは言いました。

「そのおにぎりをぜんぶくれないか」

すると、村人はおこりました。

「ばあさん、一つあげたじゃないか。わしもはらがへっている。わしにもメシがひつようだ」

すると、おばあさんは言いました。

「もう一つだけ、くれないか」

すると、村人はもっとおこって言いました。

「よくばっちゃいけないよ。この米にわしがどれくらいくろうしてると思ってるんだい」

すると、おばあさんは、森の中にすっと消えていきました。村人はこしをぬかしました。

「も、も、もののけだぁ!」

村人はいそいで山をおり、大声で村人たちに言いました。

「あの山には、ちしきなんてない。よくばりなもののけがいるだけだ。二どと行くもんじゃない」

それを聞いた村人たちはあわてふためきました。

「もっと話を聞きたいやつは、こんやうちに来い!わしのおごりだ!」

その夜、村人たちは、うたげをしながら、もののけの話をしたんだとさ。赤いみがたくさんなっているちたろうは、その話を聞かず、今日もかぞくではら八分目にして、明日もまた赤いみを売りに行くために早くねたんだとさ。

おしまい。

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