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藍井エイル「心臓」「EVIL」「Dance with me」:別々の表情を見せ、異なる記憶を残す三つの音楽

前回のシングル「HELLO HELLO HELLO」を発表してからそれほど間を置かずに、藍井エイルが新しいシングル「心臓」をリリースしました。表題曲に加え、「EVIL」と「Dance with me」という曲、および各曲のインストゥルメンタルを収録しています。「HELLO HELLO HELLO」では意外性のあるボーカル表現に驚いたものですが、今作も予想外のアプローチが散見されます。

繰り返されるピアノの硬質的な音は静かで、冷たい。音に触れられるのなら、氷のような冷たさを感じるのではないでしょうか。そして次第に他の音を吸い寄せ、熱を帯び、聴く人の心に火を灯します。表題曲の「心臓」で印象に残るのがピアノの演奏です。シンプルな音だからこそ、そのリフレインの効果がはっきりと感じられます。随所で顔を見せるピアノの音に狂気すら感じました。

変わり種のアプローチから、藍井エイルの軸に戻る。「EVIL」は、今回のシングルのなかで、従来のイメージに比較的近いアレンジが聴ける曲です。ギターとピアノが両翼として機能し、ストリングスがエイルらしいボーカルを支えます。スピード感を維持したまま突き進み、聴き手の背中をぐいぐい押すようなポップ・ロックです。

場面は転換し、新しい世界を映し出す。最も意外で、最も驚いた曲が「Dance with me」です。民族音楽的というべきか、ポップスらしからぬ雰囲気を漂わせるサウンドに、エイルにしては珍しく粘度の高いボーカルが貼り付きます。エイルの歌声はクリアでまっすぐ届くのが特徴ですが、この曲ではまとわりつくイメージが浮かびました。


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