TM NETWORK「Angie」:ひとつの物語に溶け込み、別の物語に導く音楽
アルバム『DEVOTION』とシングル「Whatever Comes」に続き、2023年の最後にTM NETWORKが発表した新しい曲は、タイトルを「Angie」といいます。『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』の挿入歌のひとつであり、秋の始まりから終わりまで全国を回ったツアー〈TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days -DEVOTION-〉で披露されました。
ピアノが生み出すのは、心を揺さぶる旋律。穏やかに、けれども力強く響くストリングス。シンセサイザーで構築されたサウンドは、表情を見せない無機質さとメランコリックな空気を漂わせますが、聴き手を包み込む懐の深さも感じます。音を彩るのは、Rhodope 2 Ethnic Bulgarian Choirというサンプリング音源* を使い、ウツの声を重ねたコーラスです。三分ほどの曲のなかで、前半は音や声で埋めすぎないシンプルな構成ですが、後半に入るとボリュームが出て壮大なアンサンブルに包まれます。
初めて「Angie」を聴いたのはツアーの最終公演です。そのとき、どこか演劇のようであり、物語の存在を強く感じました。劇判として制作された曲だからでしょうか、音やメロディ、それに歌の雰囲気は、物語に溶け込む一面を持ちます。一方で映画の文脈から離れて耳を傾けてみると、曲だけで別の物語を綴れるであろう生命力を感じました。物語の一部となり、別の物語につながる――そうした多面的な曲ではないかと思います。
* 『TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days -DEVOTION- AFTER PAMPHLET』(リットーミュージック)より