Hiromi The Trio Project「Move」:ジャズ・トライアングルが立ち上げるプログレの音楽世界
緊張感を一気に高める鍵盤の連打。Hiromi The Trio Projectのスタジオ・アルバム『Move』で開幕の役を担うのは表題曲の「Move」です。Hiromi(上原ひろみ)がベーシストのAnthony Jackson、ドラマーのSimon Phillipsと制作した『Move』では、一作目の『Voice』に輪をかけて三人のコラボレーションが濃密になりました。そうした作品を象徴する素晴らしい演奏が「Move」でも聴けます。ピアノのアグレッシブな音が世界を描き、ベースが厚みと奥行きを与え、ドラムの多彩な音の移ろいが曲を前に押していきます。
鋭い音の連鎖でスリリングな印象を与えるアンサンブル。断続的に鳴るピアノの音が、わずかな空白も表現のひとつとして取り込み、耳に身体に心にダイブします。Hiromiのピアノは全体的にタッチが強めで、重みを感じる音ですが、それでいて展開は実にスピーディー。大きな充実感が得られる演奏です。また、Anthony JacksonとSimon Phillipsが巧みな演奏でリズムを構築していく展開は圧巻の一言。ピアノの旋律に導かれ、あるいはピアノを導き、音を積み上げるリズム・セクションです。
プログレ好きの友人に勧められて聴くようになったためか、Hiromiのトリオ演奏からはプログレを感じることが多々あります。とりわけ「Move」でその傾向が強く、ダイナミックな展開に加え、Hiromiによる強いタッチのピアノとSimon Phillipsが叩く音にプログレの空気を感じました。プログレの盛期である1970年代前半の曲を彷彿とさせます。ジャズとロックの領域が重なり生まれたミクスチャーな音楽地帯。ジャズであり、ロックでもあり、濃厚なプログレの空気に満ちた世界が目の前に広がります。