にがくてあまい レシピ69 ビーツのリゾットとビーツとバナナのジュース
『にがくてあまい』の69話「ビーツのリゾットとビーツとバナナのジュース」がマッグガーデン・オンラインで配信されています。68話* で一区切りついた物語は、69話から新たな展開を見せます。コメディとシリアスの掛け合いが軽快なテンポで進み、さらりとした手触りの中にも、よく噛んで味わいたいトピックの存在を感じることができます。
http://comic.mag-garden.co.jp/eden/58.html
62話までの数話で主に描かれたのは、仕事の面で迷い続ける「マキ」の姿でした。63話** では「マキ」が迷いから抜け出した証を見せるように企画を書き上げ、その企画は69話で実行されます。
こうした時間差の展開はこの漫画では以前にも見られました。例えば、57話(10巻の最初に収録)で展開したエピソードが、時間差で11巻のメイン・テーマにつながりました。69話でも似たような展開を見せており、11巻の最初に収録される63話で打たれた布石がここで活きてきます。
***
伏線を回収すると、物語は新たな展開、新たな気持ちの錯綜を見せます。「マキ」はかつて自分を打ちのめし、迷走するトリガーとなった「ギルバート」と再会します。広告プロデューサーとして憧れ、少しでも近づけたかと思った矢先に突き付けられた圧倒的な力の差。それが迷いを増幅させることになりました。しかし今度は少し異なる様子を見せます。
「ギルバート」がライバルとして目の前に立ちはだかる…と反射的に「マキ」は思い、その圧倒的な力の前に膝を屈しそうになります。しかし彼は「マキ」の作ったCMに対抗できるものを作りたいのだ、と語ります。彼は言葉を継ぎ、自らが抱く不安、そしてその不安を打ち消すためのアクションを語ります。彼は彼なりにもがき、少しでも前に進もうと手を尽くしていたのであり、決して絶対的な存在ではありません。かつて呑み込まれた暗闇に捕らわれることなく、どこかふっきれたように、「マキ」はおいしそうにビーツのリゾットを頬張ります。
***
「ものをつくる」ということに対する誠実さと言うべきか、敬意と言うべきか。目には見えないけれど有ると無いとでは、できあがるものかわ大きく変わるであろう姿勢。敬う姿勢。「マキ」がつくったCMに対して挑みたい、そのCMに張れるものをつくりたい、と「ギルバート」は言います。そこにあるのは戦いではなく、互いに影響し合う関係です。プロフェッショナル同士の中にあるのは相手との上下ではなく、丁々発止にも似たスリリングな相互作用なのかもしれません。
それはそれとして、今回は「ギルバート」の魅力が詰まった話でした。「ギル美」に始まり、人懐っこさ、ドMキャラ全開、ものづくりへの敬意、そしてお約束のオチ。それほど古参のキャラクターではありませんが、他の登場人物と充分に張り合えるだけの個性を持ち、独自のポジション(ドM)を確立しました。「オトナ気ない大人を描くほど楽しいものはありません」とは、1巻のあとがきで小林ユミヲさんが書いた言葉です。この漫画は「オトナ気ない大人」のオンパレード。「ギルバート」も然り、ですね。それがいい。
* https://note.mu/iamfjk/n/n2771b5a6f408
** https://note.mu/iamfjk/n/n00d4fbb0c923
オリジナル:http://inthecube.exblog.jp/24902438/