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Zara Larsson「Lush Life」:ベースの音が魅せるサウンド、1980年代的世界の再構築

ミュージック・ビデオを流すtvkの番組で不意に目にした映像に衝撃を受けました。「この曲を歌っているのは誰だろう?」と思って調べると、Zara Larsson(ザラ・ラーソン)というシンガーであることを知ります。曲のタイトルは「Lush Life」。今年リリースされたアルバム『So Good』に収録されています。

アレンジで印象に残るのは主にベースの音ですね。厚みがあって、曲の輪郭を描きます。ベースとハンドクラップが共謀して、聴き手をアジテートします。ベースが心地好い――それは僕にとって素晴らしい曲の証のひとつです。心も身体も動かされることが多々あります。

サウンド全体に1980年代の雰囲気を感じるのは、上に乗るユーロビートのような音の影響かもしれません。30年が経って、軽くてキラキラした音が再び求められているのでしょうか。スタッフは当時を知っているのかもしれませんが、Zaraのファンにとっては知らない世界でしょうね。当時を知るリスナーにとっては懐かしく、それぞれの記憶に触れられる。そんなタイムマシン的サウンドかなと思います。

ミュージック・ビデオを観たときの第一印象は、やはり30年ほど前の雰囲気がある、ということですね。その要因として大きいのは、シンプルというよりは「チープ」と表現したくなる映像エフェクト。彼女が一人で披露するダンスも2010年代的とは言い難い(Olivia Newton-Johnの「Physical」のような)雰囲気を感じますが、ここまで来ると意図的、戦略的な「パロディ」なのではないかと思います。リバイバルと表現するよりも、1980年代の雰囲気をパロディで再構築してみた、と言う方がしっくり来ます。

2つのミュージック・ビデオが制作されており、もうひとつのバージョンを観ると、独特の雰囲気を醸します。階段やセットの中を歩くシーンがありますが、それらの佇まいがシュールで、現代アートにも見えます。日本で言うならば、佐々木マキの絵(『1973年のピンボール』や『ダンス・ダンス・ダンス』)のような感じでしょうか。衣装のカラーリングもまたポップで、時代を遡っている感じがあります。

Zaraのハスキーな歌声は独特で、オリジナリティの高い存在感を放っています。甘くなくて、どこか突き放したような、世界を斜めに見ているような声ですが、その一方で、音と絡み、調和する声ですよね。歌声と音が組み合わさると、今なのか昔なのか、あるいは今と昔が渾然一体となっているのか、時間が交差するミクスチャーを体験できます。

また、イギリス出身のラッパーTinie Tempah(タイニー・テンパー)が参加したバージョンも配信されています。Zaraのボーカルを一部ミュートして、そこにラップを組み込みます。Zaraの歌からTinieのラップにバトンが渡されると、カメラが切り換わり、すっと世界が変わります。ラップは音に乗りながら、サーフィンで波を捕らえるように、クールな流線型を描きます。そして再びZaraのボーカルが満ちる世界に放り込まれるのです。


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