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LINKIN PARK『Papercuts: Instrumentals』:音に意識を集中して、曲の新たな一面を浮き彫りにする、別の世界を立ち上げる

長く活動するアーティストの音楽を聴き続けていると、スタジオ・アルバムの他に、ライブテイク、リミックス、未発表曲、デモ音源も楽しめます。加えて、インストゥルメンタルを忘れてはなりません。ボーカル・トラックを抜いたバックトラックは、曲のもうひとつの顔を見せ、新しい印象と楽しみを与えてくれます。ボーカルに向かう意識がすべて音に集中するためでしょうか。

かつてLINKIN PARKはスタジオ・アルバム『LIVING THINGS』と『THE HUNTING PARTY』のア・カペラとインストゥルメンタルを世に出したことがあります。他のインストゥルメンタルは聴けなかったのですが、2024年6月の終わりに『Papercuts: Instrumentals』がリリースされました。同年4月に発表したベスト・アルバム『Papercuts - Singles Collection (2000-2023)』と同じ曲のインストゥルメンタルをまとめたものです。特にキャリア初期の曲が聴けるのが嬉しい。

デビュー作に収録された「Crawling」や最初のシングル「One Step Closer」、二枚目『Meteora』で人気の高い「Faint」や「Breaking The Habit」、Jay-Zとのマッシュアップ「Numb/Encore」などが並びます。ボーカル入りのオリジナルを聴いていたときには気づかなかった音やメロディに出会えました。ギターやピアノの細かい音符の流れ、曲にアクセントをつける短い音、声の陰に隠れていた打ち込みの音などに触れて、今まで聴いてきた曲にさらなる奥行きが生まれます。

印象深かったのはバンドのシンボル曲である「In The End」です。淡々としたピアノの音で始まるイントロから心を奪われ、エンディングでピアノが最後の一音を奏で終えるまで、この音楽世界の住人であり続けます。インストゥルメンタルを聴いたとき、Mike ShinodaのラップがミュートされたVerseに驚きました。ラップの裏で鳴っていた音――水滴が落ちるような打ち込みの音や分厚いベース――がダイレクトに届きます。漂うのは、どこか寂しげな雰囲気。薄い音ではありませんが、「ラップが欠けている」と認識するためか、音が持つ哀愁が際立ちます。Chorusでの激しいギターから再びVerseに入ると、さらに濃くなった哀愁が絡みつきます。

逆説的に歌声の存在感が大きくなるのが、個人的に思うインストゥルメンタルの魅力です。耳は音を聴いていますが、イメージがMikeのラップやChester Benningtonのボーカルを再生します。記憶で鳴る声を呼び起こしてサウンドに接続し、聴く人のなかで、その人だけの音楽が生まれる。例えば「Numb」「Papercut」では、伸びやかな歌声が欲しくなり、自然と頭の中に響き渡ります。あるいは「What I’ve Done」「New Divide」で響く濃厚なギターのリフやドラミングから熱いボーカルへの渇望が生まれ、耐えきれず記憶は瞬時に歌声を呼び出します。インストゥルメンタルが提供するのは、イマジネーションの補助線で音と声が交差する音楽体験です。


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