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FENCE OF DEFENSE「IN MYSELF」:揺らめく火のように音を奏で、自らに潜むもうひとりを映す

FENCE OF DEFENSE「IN MYSELF」が収録されたアルバムは、1988年にリリースした『FENCE OF DEFENSE III 2235 ZERO GENERATION』です。プログレを感じる組曲やポップなヒット・ソングを収めた作品は、いうなれば多面体。この曲も別の面から多面体を構成します。ジャズの雰囲気を感じるアレンジやボーカルであり、ずっと抱えていた「F.O.Dといえば骨太なロック」というイメージのまま聴いた僕は意表を突かれました。

「IN MYSELF」の始まりを告げるのは、鳥の声や硬いものを打ち付けるようなパーカッションの音。やがて波の音とともにバンドの演奏がゆらりと姿を見せます。抑制的で深みがあり、音の輪郭がよく見えるアンサンブルが印象的です。随所でパーカッションが響き、曲にアクセントをつけます。音に負けず劣らず、ボーカルとコーラスによる声の表現も素晴らしい。音に包まれて響くボーカルから心地よい浮遊感が滲みます。ボーカルに重なるコーラスやポエトリー・リーディングには色気があり、とりわけコーラスが前に出てくるところでは、ゆるやかな音の流れを彩り、艶を与えます。演奏が止み、コーラスの声が消え、そして波の音も聞こえなくなって曲は終わります。

Apple Musicではライブテイクが聴けます。ジャズの雰囲気はさらに濃くなりました。ベース兼ボーカルの西村麻聡はジャズの企画を立ち上げたり、F.O.Dでもジャズにアプローチしたライブを開催したりと、ジャズに縁のあるバンドです。特にこのライブ音源は、クラブで演奏しているかのよう。ソロでエレクトリック・ピアノの音を響かせる場面が特に好きです。音源にも入っていた音ですが、ライブでは前面に押し出されて味わい深さが強まり、甘美な心地よさに酔います。ウィスキーやワインを片手に聴きたい演奏です。


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